レベル: 初級 佐藤 淳 (acchan@jp.ibm.com), Lotus テクノロジー開発, WPLC Business Partner Technical Enablement/ソフトウェア開発研究所, IBM
2009年 10月 02日 IBM Lotus は様々な環境で働く人々にとって最適な仕事環境を構築するため、フロントエンド統合のフレームワークとコラボレーションのサービスをソフトウェア製品として提供しています。それらの製品はバックエンドに存在している様々な業務プロセスや情報と、コラボレーション・サービスとを集約・統合し、業務効率が向上する仕事環境の構築を強力に支援しています。今まで、それらの製品は社内の IT インフラストラクチャ上に構成し運用する事を前提に考えられていましたが、近年のビジネス環境の変化により柔軟に対応できるようにすることや、社内に十分な IT リソースが整っていない状況であっても即座に利用できるようにすることを目的として、新たな提供形態が追加されました。その新たな提供形態とは、SaaS (Software as a Service) とアプライアンスです。IBM Lotus は、SaaS 形式の製品として LotusLive ファミリーを、アプライアンス形式の製品として Lotus Foundations ファミリーを提供しています。両ファミリーとも従来の IBM Lotus 製品が提供するサービスと、新たなサービスを従来とは異なる形態で提供しており、様々なタイプの企業における従業員の生産性向上を強力に支援します。本稿ではアプライアンス製品である IBM Lotus Foundations を技術的に解説します。
IBM Lotus Foundations の特徴
IBM Lotus Foundations (以下、Lotus Foundations) は中規模、小規模の企業、または大企業の一部門などの環境において比較的少人数で利用する事を前提にしており、ビジネスに必要となる IT サービスを簡単に構築する事を目的に提供されているソフトウェア・アプライアンスの製品群です。Lotus Foundations の提供形態には、ハードウェアを含まないソフトウェア・アプライアンス形式のものと、ハードウェアに組み込まれたアプライアンス・ボックス形式のものとがあります。アプライアンス・ボックス形式の場合、組み合わされるハードウェアは、IBM System X シリーズをベースに IP アドレスの設定を行ったりサーバーの状態を確認したりするための LCD モニターを搭載するなど、Lotus Foundations に最適化されたカスタム構成が施されたものです。本稿では前者のソフトウェア・アプライアンスとしての Lotus Foundations を対象に解説します。
中規模、小規模企業の環境にとって、ソフトウェアのインストールや設定・運用が容易に行えることは非常に重要です。Lotus Foundations は、IBM のテクノロジーだけでなく、サードパーティー製のテクノロジーも用いてそれを可能にするための仕組みを構成しています。ベースとなる機能のみであればインストール開始から、設定を行い使用可能になるまでに要する時間は 30 分以下と、非常に簡単かつ高速です。インストールに必要となる作業はインストール・メディアからの Lotus Foundations のインストーラーの起動と、IP アドレスの設定およびワンクリックで実行できるハードディスクの構成のみです。このような簡単な作業で Lotus Foundations の様々な機能が利用可能になります。以下のリストは、Lotus Foundations のベースとなる機能で提供されるサービスの一例です。
- Windows、MacOS、UNIX に対応したファイルサーバー
- ディレクトリサービス (LDAP サーバー)
- ネットワークプリンターサービス
- ファイアーウォール、VPN サービス
- 電子メールサービス (POP3、IMPA4、SMTP サーバー)
- 名前解決サービス (DNS サーバー)
- Web サーバー (HTTP サーバー)
- FTP サーバー
- DHCP サーバー
Lotus Foundations はこれらのサービスの構成や設定を簡単かつ統合的に行うための 「Web 設定」と呼ばれる Web アプリケーションを提供しています。この「Web 設定」では、各サービスが持つ詳細な設定項目を隠蔽し、サービスを利用するにあたり必要最低限な設定項目のみを表示したり、1 つの設定変更によって依存関係のあるサービスの設定も自動的に施されるといった工夫がなされています。つまり、ユーザーはサービス間の依存関係などを考慮することなく、必要な項目を簡素化されたメニューで設定するだけで、その設定に関連するサービスすべてに変更が反映されるという、オートノミック機能を実現しています。これによって、IT の専門的な知識や経験をを保持していないユーザーであってもLotus Foundations のインストールから設定、運用までを行う事ができます。図1 に「Web 設定」の画面例を示します。
図 1. Lotus Foundations が提供する Web ベースの管理アプリケーション 「Web 設定」
Lotus Foundations はベースとなる機能にアプリケーションをワンクリックで簡単に追加する機能も提供しています。これはワンクリック・イントール機能と呼ばれ、「Web 設定」からマウス操作のみで簡単にアプリケーションを追加インストールすることができます。さらに追加インストールされたアプリケーションの設定も「Web 設定」で簡単に行う事ができます。IBM が提供する追加可能なアプリケーションには Lotus Notes/DominoやLotus Symphony、Lotus Sametime などがあります。これらの製品をバンドルし IBM Lotus は 3 種類の Lotus Foundations のオファリングを提供しています。
- Lotus Foundations Start
Lotus Notes/Domino と Lotus Symphony をバンドルしたオファリング
- Lotus Foundations Reach
Lotus Foundations Start をベースに、さらに追加で Lotus Sametime をバンドルしたオファリング
- Lotus Foundations Branch Office
Lotus Notes/Domino をバンドルし、すでに社内に存在している構成済みの Lotus Domino サーバーに対して追加の Lotus Domino サーバーとして構築する事を前提に構成されたオファリング
Lotus Notes/Domino や Lotus Sametime には、それぞれクライアント・モジュールが存在しますが、Lotus Foundations を用いた場合には、そのクライアント・モジュールの配布を簡素化するための工夫も施されています。クライアント・モジュール配布用のアプリケーションを Lotus Foundations にインストールすると、Lotus Foundations に登録されているユーザーのホームディレクトリにクライアント・モジュールのインストール用バッチファイルが自動的に生成されます。ホームディレクトリには各クライアント PC からOS のファイル共有の機能を利用してアクセスする事ができ、Lotus Notes や Lotus Sametime クライアント機能を利用するユーザーはそのバッチファイルを実行するだけで必要なモジュールのインストールおよび設定が自動的に行われ、すぐに使用を開始することができます。また、Lotus Domino や Lotus Sametime サーバーへのユーザーの登録も「Web 設定」で行う事ができるため、それぞれの製品に関する専門的な知識や経験は一切必要とされません。さらに、アプリケーション開発者が Lotus Foundations 上で動作するアプリケーションを開発する事も可能で、そのための開発ツールとしてSmart Business Developers' Kit が提供されています。
以上のように、Lotus Foundations によってビジネスに必要な IT 環境を簡単に構築することが可能ですが、実際の運用において様々なトラブルに遭遇する事も想定されます。Lotus Foundations では信頼性を高める機能として、障害に遭遇した際にすぐにリカバリーできるようにするための仕組みも提供しています。たとえば、ネットワークへの接続が確立しないトラブルが発生した場合、自動的にバックアップ回線につなぎ替える機能が提供されています。他にも、ディスク障害などによってサービスが起動しなくなった際の復旧機能として自動バックアップと簡単な操作で行えるリストア機能が提供されています。サービスが起動しない、ハードディスクが破損するなどのトラブルが発生した際には自動的にバックアップされたイメージをリストアする事ですぐに復旧することが可能であり、その操作も IT の専門的な知識や経験は必要としません。このように、Lotus Foundations は中規模、小規模企業において業務に必要となるサービスを統合的に提供しながらも、その構成や運用は簡素化されている為、 IT の専門家がいなくても IT インフラストラクチャを構成できるソフトウェア・アプライアンス製品となっています。
IBM Lotus Foundations を実現する技術要素
前章で説明したように Lotus Foundations は多くの機能やサービスを簡単に設定、利用する事を実現したソフトウェア・アプライアンス製品ですが、ここでは、どのような仕組みでそれらを実現しているかを説明します。Lotus Foundations のベースとなるテクノロジーには、Linux のディストリビューションである SuSE Enterprise Linux Server (以下、SLES) が採用されており、Lotus Foundations のベース機能で提供されている機能やサービスの大半で SLES が提供されている機能を利用しています。その上に、SLES のサービス設定を抽象化するための UniConf 技術や、運用時の信頼性を向上させる為に SLES を隠蔽(ロックダウン)する機能、様々なアプリケーションの追加を可能とし、追加したアプリケーションがベース機能に与える影響を最小限にするための仮想化技術などが組み込まれています。このような構成が Lotus Foundations のベースとなっており、内部的には Weaver と呼ばれています。Weaver によって SLES は完全にロックダウンされている状態になっているので、ユーザーは、デバイスドライバを組み込む、Kernel のバージョンをあげるなどといったSLES の Kernel に対して直接アクセスする事はできなくなっています。図2 は Lotus Foundations のコアである Weaver が起動した際の画面イメージであり、SLES が完全にロックダウンされている状態にあることが確認できます。
図 2. Weaver の画面イメージ
図2の画面の右下にあるように、Weaver に対しては IP アドレスの設定やバックアップイメージのリストアなどのいくつかのメニューのみが用意されているだけで、それ以外の操作は行えないようになっています。このように、ロックダウンを行う事によってユーザーの操作ミスなどが原因となる障害を回避する事ができます。ロックダウンされた環境において、SLES が提供している様々なサービスや追加されたアプリケーションの設定を行うために組み込まれているのが UniConf と呼ばれる技術です。UniConf はシステムに常駐しているデーモンであり、サービスの設定情報が記述されている XMLファイルを監視しています。設定ファイルには HTTP や LDAP などの Lotus Foundations が提供しているサービスやアプリケーションにおけるすべての設定項目が記載されています。そして、デーモンによって設定ファイルの更新が検知されると、デーモンは設定ファイルを読み取り、変更箇所をサービスの設定として反映させます。たとえば HTTP サーバーに対して設定変更をした場合、その設定変更の情報がまず UniConf の設定ファイルに書き込まれ、次に UniConf デーモンがその内容を読み取り HTTP の設定ファイルである httpd.conf などに反映させます。つまり、UniConfによって各サービスの持つ煩雑な設定項目を隠蔽し簡素化する事が可能になります。また 1 つの設定変更によって更新しなければならない設定ファイルが複数あったり、依存関係のあるサービスが複数あったりする場合でも、ユーザーは UniConf の設定ファイルを更新するという作業のみを行います。その際に利用するのが前章で説明した「Web 設定」になります。すなわち、 「Web 設定」の実体は UniConf の設定ファイルの視覚化と、その内容を更新するための機能となります。図3 に「Web 設定」を利用した際に設定の変更が反映されるまでの流れを示します。
図 3. Web 設定のフロー
最後に Lotus Foundations における仮想化技術を紹介します。Lotus Foundationsでは2 つの仮想化技術が採用されています。1 つ目は Nitix Virtual Server (NVS) と呼ばれる仮想化技術であり、Linux が提供している chroot コマンドを利用し Weaver 内に別の Linux 環境を構築することで仮想化を実現しています。NVS 内のアプリケーションは、Weaver とは別の Kernel によってプロセス管理されているため、Weaver のプロセスとの依存関係を最小限にすることができます。もう 1 つの技術は VMWare Server を利用した仮想化技術です。VMWare Server を Weaver 上に展開する事で、その上に別のオペレーティング・システムを構築し、アプリケーションを導入することができるようになっています。NVS や VMWare Server の導入や設定も「Web 設定」からワンクリック・インストーラーを用いて簡単に行う事ができます。
以上のように、 Lotus Foundations は SLES をベースに UniConf を採用する事でオートノミック機能を、NVS や VMWare Server を利用する事で仮想化を実現しています。
IBM Lotus Foundations Start の仕組み
最後に、Lotus Foundations ファミリーの中で IBM Lotus Notes/Domino と Lotus Symphony をバンドルしたオファリングである Lotus Foundations Start の仕組みを説明します。Lotus Foundations Start は Lotus Foundations の仮想化された空間である NVS に Lotus Domino を導入する事で構成されています。そして、導入された Lotus Domino によって様々なコラボレーション・サービスを提供するソフトウェア・アプライアンスを実現しています。仮想空間への Lotus Domino の導入は、 Lotus Foundations が提供するワンクリック・インストーラーによって「Web 設定」から簡単に行う事ができます。このインストーラーによって自動的に NVS が構成され、その上に Lotus Domino サーバーが構築されます。サーバーの設定からユーザーの登録まですべて自動で行われるため、Lotus Foundations の管理者は Lotus Domino のインストールや管理に関する専門的な知識や経験を一切必要としないで Domino サーバーを構築することができます。内部的には、UniConf を利用してLotus Foundations に登録されているユーザーを Lotus Domino に自動登録したり、メールのルーティング・テーブルを更新したりすることで Lotus Domino の提供する SMTPやPOP3、IMAP4 と Weaver が提供するこれらのプロトコルとの間で自動的に整合性を取ることができます。サーバー構築後は、「Web 設定」を用いてユーザーを登録すると、それが自動的に Lotus Domino にも反映されるため、運用段階においても管理者は Lotus Domino に特化した管理を考慮する必要がありません。また、Lotus Domino は NVS 上に構成されるため、万が一 Lotus Domino が上位プロセスを巻き込んでクラッシュするような障害が発生しても Weaver 側には影響が無いため、 Lotus Domino 以外のサービスは利用し続けることができるようになっています。図4 にここまでで説明した Lotus Foundations Start の構成を示します。
図 4. Lotus Foundations Start のアーキテクチャ
Lotus Foundations Start は単純に Linux 版の Lotus Domino をバンドルしただけのオファリングではなく、Lotus Foundations の特性を利用し、Lotus Domino の専門の知識や経験を保持していなくても簡単に構築、運用する事ができるようになっています。また、Lotus Domino のサービスにアクセスするための手段としては、 Web ブラウザからメールやカレンダーにアクセスする iNotes と、Lotus Notes クライアントの 2種類が選択できるようになっています。Lotus Notes を利用する際にはクライアント・モジュールの配布を簡素化する機能も提供されているので、簡単かつスピーディに配布する事ができます。さらに、Lotus Foundations Start にはオフィススイートであるLotus Symphony もバンドルされています。Lotus Symphony のモジュール配布に関しても、 Lotus Notes 同様に自動的に配布するための仕組みが提供されています。Lotus Foundations Start によって必要最低限の IT インフラストラクチャと、コラボレーションの為の Lotus Notes/Domino、さらにオフィスエディタ機能を提供する Lotus Symphony をまとめて導入する事ができます。つまり Lotus Foundations Start を利用することで、中規模、小規模企業においてビジネスを強力に支援する IT 環境をすぐに構築する事ができます。
まとめ
Lotus Foundations は簡単に IT システムを構築、運用する事ができるソフトウェア・アプライアンス製品です。UniConf を採用する事でオートノミック機能を実現し、簡素化された Web ベースの管理ツール「Web 管理」を提供しています。また、NVS や VMWare Server による仮想化技術によって、 Lotus Notes/Domino をバンドルした Lotus Foundations Start、Lotus Sametime をバンドルした Lotus Foundations Reach などのオファリングを提供しています。
これらのオファリングではそれぞれの製品に関する管理手法を個別に習得する必要はなく、複数のアプリケーション・サービスを簡単に管理することができます。Lotus Foundations によって習熟した選任の IT 管理者のいない企業や組織でも、Lotus の高機能なコラボレーション環境を簡単に利用することができます。
参考文献
著者について  | |  | 佐藤 淳はソフトウェア開発研究所のLotus テクノロジー開発に属し、WPLC (Lotus + WebSphere Portal) 製品に対応したソリューションやアプリケーションの開発に取り組んでいる ISV/BP 様の技術支援を行っています。技術情報や製品情報などを日々 Blog や Twitter で情報発信しています。息子の影響でウルトラマンにはまっている今日この頃です。 |
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