IBM Workload Deployer V3 でクラウドの力を活用する

IBM® Workload Deployer V3 は、IBM WebSphere® CloudBurst™ アプライアンスの単なる後継製品ではありません。定評ある WebSphere CloudBurst を基に構築された Workload Deployer は、CloudBurst の優れた機能をすべて継承し、さらに向上させているだけでなく、プライベート・クラウドのための新しいアプリケーション中心型のコンピューティング機能を提供し、使用率を向上、使いやすさを改善し、より迅速なアプリケーション・デプロイメントをもたらします。この内容は IBM WebSphere Developer Technical Journal の一部です。

Dustin Amrhein, Technical Evangelist, IBM

Author photoDustin Amrhein は、WebSphere Application Server 開発チームのメンバーとして IBM に入社しました。この開発チームに在籍している間、主にWeb サービス・インフラストラクチャーと Web サービス・プログラミング・モデルに取り組んでいました。また、Java ランタイムを対象とした RESTful なサービス・フレームワークの開発にも携わっていました。現在の役割はWebSphere Client Technical Professional です。


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Joseph Bohn, Technical Evangelist, IBM

Joe Bohn は、重要性を増している WebSphere テクノロジーの技術エバンジェリストとして活躍している Senior Software Engineer です。以前は Apache Aries、Apache Geronimo、および WebSphere Community Edition に関係するオープン・ソース・プロジェクトに従事していました。1985 年に CICS システム・プログラマーとして IBM でのキャリアをスタートし、WebSphere Portal や Tivoli などの多様な分野で開発者およびアーキテクトの職務を歴任しました。



Brian Stelzer, Staff Software Engineer, IBM

Author photoBrian Stelzer は、IBM Workload Deployer チームのソフトウェア・エンジニア兼チーム・リーダーです。現在は、IBM Workload Deployer、WebSphere Application Server、および VMware ベースの技術を重点としたクラウド環境のトレーニングおよびアーキテクチャー・ソリューションを提供する役割を果たしています。以前は、WebSphere Application Server および WebSphere Application Server Community Edition を対象としたマイグレーション・ソリューションを設計していました。



2011年 11月 10日

はじめに

エンタープライズ・クラウド・コンピューティングは、企業にとってもはや単なるアイデアや話題ではなくなっています。むしろ、クラウド・コンピューティングは今や定着化し、その仮想化、標準化、自動化、弾力性の能力に対して期待されていた利益をもたらしており、企業もそれを認識し始めています。

しかし、企業に現在起きているクラウド・コンピューティングの波は、まだ始まりに過ぎません。一般的に受け入れられているクラウド・デプロイメントの種類には、Infrastructure as a Service (IaaS)、Platform as a Service (PaaS)、および Software as a Service (SaaS) がありますが、現在のクラウド実装の大多数は IaaS に分類されます。IaaS を設計、実装する企業は、クラウド・コンピューティングへの取り組みのために強固な基盤を用意していますが、そこで終わりではありません。基本的に、IaaS はサーバー、ストレージ、ネットワークなどのコンピューティング・リソースを、簡単にアクセスできて、迅速にプロビジョニングできるサービスとして、通常は仮想マシンという手段で、デプロイすることに焦点を置いています。しかし、企業が消費者に提供すべきものはアプリケーションであるため、標準オペレーティング・システム環境の迅速なプロビジョニングというだけでは不十分です。そのため、多くの企業は、よりアプリケーション中心型のアプローチでクラウドに取り組めるように、現在の IaaS 実装の更なる先に目を向け始めています。企業が求めているのは、IaaS ソリューションがもたらす価値と同様の価値を、アプリケーションとアプリケーション実行環境の面にもたらすソリューションです。つまり、企業は PaaS に向かって動き始めているということです。

IBM Workload Deployer

PaaS ソリューションへの関心の高まりを考えると、IBM® Workload Deployer V3 の発表はタイムリーなものと言えます。この製品があれば、複数のデリバリー・モデルから 1つ選択して、プライベート・クラウドで PaaS に対応することができます。ところで、新たに発表されたこの製品がすでに V3 なのはなぜでしょうか。それは、IBM Workload Deployer が発売から 2 年になる IBM WebSphere® CloudBurst アプライアンスから発展した製品だからです。WebSphere CloudBurst アプライアンスが V2 の段階で V3 を開発中でしたが、そのときに、V3 のオファリング範囲が特定の IBM ソフトウェア・ブランドにとどまらないことが判明してきました。そのため、このアプライアンスでクラウドに多様なプラットフォームのソフトウェアをデプロイおよび管理できるという事実を反映して、名前を IBM Workload Deployer V3 (以降、Workload Deployer) に変更することになりました。

Workload Deployer は WebSphere CloudBurst のすべての機能を継承しているため、このアプライアンスでも IBM Hypervisor Edition のイメージとスクリプト・パッケージを使用して高度にカスタマイズされたパターンを作成し、デプロイおよび管理することができます。さらに、これから説明するように、WebSphere CloudBurst の多くの機能が改善されています。しかし、Workload Deployer での最も重要な更新は、2 つのパターン・ベースのデプロイメント・モデルをサポートするようになったことです。

まず、Workload Deployer では、WebSphere CloudBurst のときと同種のパターンを構築、デプロイ、管理することができます。このパターンは、新たに仮想システム・パターン と呼ばれます。Workload Deployer ではさらに新機能が複数追加され、パターンの用途も拡張されています。

2 番目のパターン・ベースのデプロイメント・モデルは、Workload Deployer から新たに加わったモデルで、仮想アプリケーション・パターン と呼ばれます。これらは、クラウド内で環境を構築、デプロイ、および管理するためのアプリケーション中心型のアプローチを実現します。仮想システム・パターンとは異なり、仮想アプリケーション・パターンを使用して環境をデプロイする場合は、基盤となるミドルウェア・インフラストラクチャーに関する知識はほとんど不要になります。アプリケーションとアプリケーション成果物 (データベース・スキーマなど) を用意し、アプリケーションの依存関係を明示して、アプリケーションの機能要件および非機能要件をポリシーとして指定するだけで、デプロイを行うことができます。図1 は、このデプロイメント・アプローチの例を示しています。

図1. クラウドでの仮想アプリケーション・パターンの使用
図1. クラウドでの仮想アプリケーション・パターンの使用

図1 に示すように、Workload Deployer では、指定したアプリケーションとその依存関係およびポリシーを検査してから、アプリケーションをホストするために必要なミドルウェア・インフラストラクチャーを構築することができます。さらに、ミドルウェアに対してアプリケーションのインストールと構成を行い、デプロイされた実行環境に対する管理機能もこの製品で提供します。つまり、この製品により、クラウド内のサービスのデリバリーに対して、アプリケーション指向のアプローチを取ることができるようになります。

仮想アプリケーション・パターンを使用してアプリケーションをデプロイすると、インストール、構成、および必要な全要素の統合作業がカプセル化され、稼働状態のアプリケーションが提供されます。ただし、仮想アプリケーション・パターンには多くのアクションがカプセル化されるため、Workload Deployerにに対する一部の制御は手放すことになります。図2は、各種のクラウド・デプロイメント・モデルに関して、カスタマイズと制御、総所有コスト (TCO)、およびタイム・ツー・バリュー (TTV) が全体としてどのような関係にあるかを示しています。

図2. クラウドのトレードオフ
図2. クラウドのトレードオフ

この図からわかるように、デプロイメント・モデルには、カスタム・ビルドとインストール、仮想アプライアンス (Workload Deployer は OVA イメージの単純なデプロイメントをサポート)、仮想システム・パターン、仮想アプリケーション・パターンといった、さまざまな選択肢があります。その中から、カスタマイズのニーズとビジネスで求められる TCO および TTVのバランスを考えて、適切なデプロイメント・モデルを選択する必要があります。経験則から、仮想アプリケーション・パターンで自社のアプリケーションのニーズを満たしているのならば、そのパターンで最も大きな価値を得られます。仮想アプリケーション・パターンついては、この記事の後半で詳細に説明します。

また、新しいデプロイメント・モデルの導入に加えて、Workload Deployer には、下記に挙げているように、その他多くの新機能が組み込まれています。

  • 仮想アプリケーション
  • Intelligent Management Pack の更新
  • 仮想マシンのモビリティ
  • 仮想マシン・アドオン
  • アプライアンスのバックアップ機能の拡張

これらの新機能について説明する前に、Workload Deployer にはもう 1つ重要な特徴があります。WebSphere CloudBurst と同様、IBM は設定プロセスを迅速化するために、このソリューションをハードウェア・アプライアンスとして提供しています。この新しいハードウェア・アプライアンスの更新点には、新しい 2U フレームの採用、処理能力とネットワーク能力の強化、および 6 倍のストレージ容量などがあります。それでは、これから、Workload Deployer の新しいソフトウェア機能をご紹介します。

仮想アプリケーション

概要に記載したとおり、仮想アプリケーションはアプリケーション中心型のデプロイメントを可能にする PaaS の機能です。Workload Deployer の設計における 主な2つの目標は容易性と再利用性であるため、アプリケーションをサポートするインフラストラクチャーの大部分もこの製品によってインストールされ、構成されます。実際、構成時にユーザーが指定する構成オプションはごく限られています。

仮想アプリケーションには 2つの主要箇所があります。それは、仮想アプリケーション・パターン と仮想アプリケーション・インスタンス です。パターンは、アプリケーションのインフラストラクチャーと成果物を記述したものであり、インスタンスはそのパターンをデプロイしたものです。

仮想アプリケーション・パターンを作成するには、「パターン (Patterns)」→「仮想アプリケーション (Virtual Applications)」の順に選択して、緑色の + アイコンをクリックします。開いたパネルで、仮想アプリケーションを最初から作成するか、既存の構成済みテンプレートから作成するかを選択できます。アプリケーションの構築を開始する準備ができたら、図3 のように「ビルドの開始 (Start Building)」をクリックします。

図3. 空のテンプレートからの開始
図3. 空のテンプレートからの開始

ブラウザーの別タブに Virtual Application Builder が表示されます。仮想アプリケーションはここで構築します。

図4. Virtual Application Builder
図4. Virtual Application Builder

仮想アプリケーションの構築がどれくらい簡単かをお見せするために、単純な例で考えてみましょう。エンタープライズ・アプリケーション (EAR) ファイルが1つ用意され、ユーザー・データを格納するためのデータベースが必要だとします。また、データベースにデータを追加するためのスキーマ・ファイルもすでに作成済みです。さらに、IBM のミドルウェア製品の経験がまったくないものとします。

最初に、アプリケーションの実行に必要なミドルウェア・コンポーネントを決定します。この例では、アプリケーション・サーバーとデータベースが必要です。

「資産 (Assets)」の下で、「アプリケーション・コンポーネント (Application Components)」と「データベース・コンポーネント (Database Components)」の各セクションを展開します。エンタープライズ・アプリケーション (WebSphere Application Server) コンポーネントとデータベース (DB2) コンポーネントをキャンバスにドラッグします。エンタープライズ・アプリケーション・コンポーネントとデータベース・コンポーネントの間にリンクを作成します。このリンクにより、2つのコンポーネント間にインバウンドとアウトバウンドの通信チャネルが開かれます。図5 は、この時点で仮想アプリケーション・パターンがどのように表示されるかの例を示しています。

図5. ミドルウェア・コンポーネントとリンクの構築
図5. ミドルウェア・コンポーネントとリンクの構築

パターン構築の最後のステップは、環境の構成です。前述のとおり、ユーザーが操作する構成ポイントはほとんどなく、操作する箇所があってもほとんどのユース・ケースでそのまま使用可能なデフォルト値が設定されています。ただし、スキーマ・ファイルやエンタープライズ・アプリケーションのアーカイブ・ファイルなど、Workload Deployer では値を取得できない構成ポイントも存在します。環境を構成するには、各コンポーネントをクリックし、プロパティーの画面を開きます。必須プロパティーの場合は、横にアスタリスクが付いています。必須プロパティーの入力が終わったら、パターンを保存してデプロイすることができます。図6 はプロパティー表示の例を示しています。

図6. エンタープライズ・アプリケーションのコンポーネントのプロパティー
図6. エンタープライズ・アプリケーションのコンポーネントのプロパティー

パターンのデプロイが終わったら、「インスタンス (Instances)」→「仮想アプリケーション (Virtual Applications)」をクリックして、仮想アプリケーション・インスタンスのパネルでパターンのステータスを確認します。ステータスが「Running (実行中)」(「開始ボタン」のアイコンで示される) になると、アプリケーションは要求を受け取る準備ができた状態になります。アプリケーションにアクセスするには URL が必要です。この URL は、エンタープライズ・アプリケーション・コンポーネントを示すVM の横に表示された、「エンドポイント (Endpoint)」リンクをクリックすると表示されます。URL には、IP、ポート、およびアプリケーションのコンテキスト・ルートが表示されます。この情報をブラウザーに入力するか、リンクをそのままクリックすると、新しいタブが開きます。図7 は、エンドポイントの例を示しています。

図7. エンドポイントの情報
図7. エンドポイントの情報

操作は以上です。説明を簡単にするために、多数のコンポーネントの使用 (OSGi、メッセージング、ユーザー・レジストリー、既存コンポーネントなど) やポリシー (スケーリング、ロギング、JVM、ルーティングなど) など、一部のステップやオプションは省略しています。仮想アプリケーションのより詳細な説明は、今後の記事で取り挙げていきます。

Intelligent Management Pack

Intelligent Management Pack は、WebSphere Application Server Hypervisor Edition を使用する場合に有効にできるオプション機能です。Intelligent Management Pack を有効にして、仮想システム・パターンをビルドしてデプロイすると、WebSphere Virtual Enterprise によって機能拡張されたWebSphere Application Serverセル環境が構築されます。Intelligent Management Pack を使用すると、ポリシー・ベースのアプリケーション・リクエスト管理、堅固なアプリケーション・エディション管理、プロアクティブなアプリケーション・ヘルス・モニタリングなど、WebSphere Virtual Enterprise のすべての標準機能を利用することができます。さらに、WebSphere Virtual Enterprise のヘルス・ポリシー、動的クラスター、オンデマンド・ルーターなどの機能を使用することで、デプロイメントの迅速化と構成の簡素化を実現することもできます。

Intelligent Management Pack は、以前のバージョンである WebSphere CloudBurstと WebSphere Application Server Hypervisor Edition のオプションですが、これを Workload Deployer で使用すると、デプロイ済みの WebSphere Virtual Enterprise のランタイムと Workload Deployer をより緊密に統合することができます。

では、Intelligent Management Pack はどのようなときに使用するのでしょうか。これまで、WebSphere Virtual Enterprise は、デプロイ済みのミドルウェア環境にポリシー・ベースのアプリケーション・リクエスト管理機能と 弾力的なJVM を提供し、アプリケーションのパフォーマンス目標値と相対的な重要性を規定したサービス・ポリシーを定義できるようにしてきました。ランタイムにリクエストが届くと、WebSphere Virtual Enterprise は指定されているポリシーに従ってリクエストに優先順位を付け、リクエストを転送します。また、WebSphere Virtual Enterprise は、必要に応じて自律的に新しいアプリケーション・サーバー・プロセス (JVM) を起動し、リクエストに対応します。同様に、WebSphere Virtual Enterprise は、他のノードにリソースを投入するほうが効率的であると判断した場合に、自律的に JVM を停止することもできます。この JVM レベルでの弾力性により、柔軟性を高めるだけでなく、アプリケーションに定義されたポリシーに適合するよう、システムが可能な範囲で自律的に動いていることを保証してくれます。以前は、WebSphere Virtual Enterprise が、あらかじめ特定の目的のために静的に定義されているノード・グループでしか新しい JVM を起動できなかったという点で、この弾力性には限界がありました。そのため、システムが JVM レベルで増大することがあっても、このノードの制限があるために、システムが制約を受けることがありました。言い換えれば、WebSphere Virtual Enterprise の弾力性の機能は JVM レベルで止まっていたということです。

Workload Deployer に付属している WebSphere Application Server Hypervisor Edition 用 Intelligent Management Pack の新バージョンでは、融通性(Elasticity)モード と呼ばれる機能の導入により、この制限をなくしています。このモードでは、WebSphere Virtual Enterprise は Workload Deployer に自動的にコールバックして、デプロイ済みの環境で使用するノード (仮想マシン) をさらにプロビジョニングするように要求することができます。実際の動きとしては、WebSphere Virtual Enterprise がサービス・レベル・ポリシーを満たすためにさらにリソースが必要であると判断したにも関わらず、リソースの制約によって現在のノード・セット内にそれ以上 JVM を追加できない場合に、Workload Deployer に対してさらに仮想マシンをプロビジョニングするよう要求が送信されます。その後、Workload Deployer が仮想マシンをプロビジョニングし、デプロイ済み環境に対して、ノードとして追加します。この時点で、WebSphere Virtual Enterprise は該当の新規ノードを使用して、アプリケーション・リクエストの処理が可能な、追加の JVM をホストできるようになります。図8 は、このWebSphere Virtual Enterprise と Workload Deployer の新しい統合の概要を示しています。

図8.融通性(Elasticity)モードの概要
図8.融通性(Elasticity)モードの概要

融通性(Elasticity)モードでは、デプロイ済みアプリケーション環境を自律的に拡大できるだけでなく、環境を自動的に縮小することもできます。そのため真の弾力性が実現するだけでなく、サービス・レベル・ポリシーで定義された目標を達成するために必要なリソースだけを消費しているという妥当な保証も得られます。この新機能は非常に簡単に使用することができます。Intelligent Management Pack が有効化されたイメージに基づいてパターンを構築する際に、Workload Deployer の仮想システム・パターン・エディターで、「拡張オプション (Advanced Options)」の下にある「動的クラスターの定義 (Define dynamic clusters)」、「動的クラスターの作成 (Create dynamic clusters)」、および「融通性モードの使用可能化 (Enable elasticity mode)」の各構成オプションを選択するだけです。

図9. 仮想システム・パターン・エディターでの融通性モードの使用可能化
図9. 仮想システム・パターン・エディターでの融通性モードの使用可能化

新バージョンの Intelligent Management Pack で提供される新機能は融通性(Elasticity)モードだけではありません。新バージョンを使用すると WebSphere Virtual Enterprise V7 環境がデプロイされるため、さらに向上したマルチセル・パフォーマンス管理、新しくなった履歴チャート機能、より簡単になったサービス・ポリシー定義、集中ロギング機能、新しい SNMP トラップ機能など、新バージョンのすべての機能を利用できるようになります。このような新機能の詳細については、WebSphere Virtual Enterprise V7 の資料を参照してください。

仮想マシンのモビリティ

仮想マシンのモビリティとは、Workload Deployer で管理している VM をハイパーバイザーから別のハイパーバイザーに移動できるという Workload Deployer の機能です。移行される VM の実行状態は、オン (「ライブマイグレーション」) またはオフにできます。現在のリリースでは、モビリティは VMware プラットフォームでのみサポートされます。この場合、実際の移行は VMware vMotion テクノロジーを使用して行われます。その場合の要件は、2点あります。1 つは VMware が vMotion をサポートするように構成されていることで、もう 1つは共有データ・ストアが SANであることです (これは VMware vMotion ではなく Workload Deployer の要件です)。

モビリティの機能が必要な理由には何があるしょうか。可能性は 2つ考えられます。保守を行うためにハイパーバイザーから管理対象の VM をすべて移動しなければならない場合と、ハイパーバイザーの管理対象 VM のリソース要求がハイパーバイザーの限界に近づいている場合です。

モビリティの機能を使用するには、管理者レベルの権限 (具体的には「クラウド管理 (Cloud administration)」→「全権限 (Full permissions)」) が必要です。

VM を移行するには、「クラウド (Cloud)」→「ハイパーバイザー (Hypervisors)」を選択し、VM がデプロイされている移動元のハイパーバイザーをクリックします。移行を実行する前に、「静止 (Quiesce)」アイコンをクリックして、ハイパーバイザーを静止モードにします。

図10. ハイパーバイザーを静止モードにする
図10. ハイパーバイザーを静止モードにする

ハイパーバイザーが静止モードになったら、ハイパーバイザーで管理されているすべての VM を一度に移行するか、各 VM を個別に移行することができます。管理されているすべての VM を移行するには、「マイグレーション (Initiate mobility operations)」アイコンをクリックし、移動先を選択します。宛先の選択には2つあります。移動先のハイパーバイザーを選択する方法か、「システムによる選択 (The System chooses)」をクリックする方法です。この場合は、Workload Deployer によって使用可能なすべてのハイパーバイザーが静止され、現在のリソース使用状況からインテリジェントに宛先が判断されます。図11 は、使用可能な宛先のオプションを示しています。

図11. ハイパーバイザーで管理されている VM をすべて一度に移行する
図11. ハイパーバイザーで管理されている VM をすべて一度に移行する

移行する VM をさらに詳細に制御するには、「仮想マシン (Virtual machines)」のセクションをクリックして VM のリストを展開します。次に、下の図12 に示すように、移行する VM に対応する「アクション (Actions)」列の「表示 (View)」リンクをクリックします (また、一番上にある 「グループ・アクション (Group Actions)」をクリックするという方法もあります)。

図12. VM を個別に移行する
図12. VM を個別に移行する

仮想マシン・アドオン

WebSphere CloudBurst アプライアンスから Workload Deployer に受け継がれたテーマの中に、容易性と効率性があります。このことは、仮想マシンの構成をカスタマイズするための特殊なスクリプトである仮想マシン・アドオン が導入されていることにも表れています。アドオンを使用すると、イメージの構成を変更して新しく保存するという操作を行わなくてもデプロイ時に仮想マシンの構成を変更することができます。アドオンは、仮想マシンのハードウェアの増強や OS の構成に使用できます。

ある仮想マシンに追加のディスクが必要になったというシナリオを考えてみましょう。アドオンがない場合は、IBM が提供する仮想イメージのいずれかを拡張して取り込み、デプロイ後に仮想ディスクを構成するカスタム・スクリプトを使用することにより、ディスク・スペースを追加できます。また、必要なディスク・スペースがすでに割り当てられたまったく新しい仮想イメージを作成することもできます。その後、別のパターンで異なるサイズの仮想ディスクが必要になった場合は、同様の方法でまた別の仮想イメージを作成する必要があります。この方法は手間がかかり、仮想ディスクのサイズとフォーマットだけが異なるイメージが複数作成されることにもなります。

アドオンを使用すれば、この作業は大幅に簡略化されます。新しいディスク追加アドオンを使用する場合は、パターン・エディターのパレットから該当のパートに対してアドオンをドラッグ・アンド・ドロップし、フォーマットとディスク・サイズのパラメーターを設定するだけで、この作業を行えます。ディスクはイメージがデプロイされるときに作成されますが、ロックされていなければ、デプロイ中にさらにパラメーターを変更することもできます。

アドオンは、カスタム・スクリプトのように使用できます。例えば、アドオン作成後、必要に応じてアプライアンスのカタログ内にそのクローンを作成し、仮想システム・パターン・エディターの各パートにドラッグして使用することができます。カスタム・スクリプトと大きく異なる点は、アドオンがカスタム・スクリプトより先に実行され、仮想マシンの構成をターゲットとしていることです。

Workload Deployer には、次に示す 4つの仮想マシン・アドオンが用意されており、必要に応じてコピーし、変更できるようになっています。また、環境に合わせてまったく新しいアドオンを作成することもできます。

  • Default Add User
  • Default Add Disk
  • Default Raw Disk
  • Default Add Network Interface Controller (NIC)

これらのアドオンは、カタログ内にあります。新しいアドオンを作成するには、図13 に示すように、緑色の + アイコンをクリックします。

図13. アドオン・カタログ
図13. アドオン・カタログ

Default Add Disk

Default Add Disk アドオンは、仮想マシンに仮想ディスクを作成し、選択されたファイル・システムでそのディスクをフォーマットしてマウントします。このアドオンは、VMware ESX および z/VM のハイパーバイザー用です。Default Add Disk アドオンには次のパラメーターがあります。

ディスク・サイズ
デフォルトは 10 GB です。
ファイル・システム・タイプ
mkfs -t に該当するオプションで有効である必要があります。デフォルトは ext3 です。
マウント・ポイント
ディスクをマウントする場所です。デフォルト値はありません。

Default Raw Disk

Default Raw Disk アドオンは、Default Add Disk と似ていますが、デフォルトのファイル・システム・タイプはRAWで、マウント・ポイントはありません。

Default Add User

Default Add User アドオンは、仮想マシン上に新規ユーザーを定義します。このアドオンは単純なユーザー追加コマンドを実行し、必ずユーザー・レベルのあらゆるスクリプト・パッケージより前に実行されるようになっています。このアドオンは、現在 Workload Deployer がサポートする 3つのハイパーバイザーで使用できます。Default Add User アドオンには次のパラメーターがあります。

  • ユーザー名
  • パスワード
  • パスワードの再入力

Default Add NIC

Default Add NIC アドオンは、実装の初期状態ではパラメーターがありません。このアドオンは環境プロファイルとともに使用する必要があります。IPアドレスの指定を使用すると、デプロイ中に IP アドレス・フィールドが表示され、追加の NIC の定義と初期化に使用されます。IPアドレスの指定を使用しない場合は NIC が初期化され、通常のデプロイ・プロセスで IP が割り当てられます。このネットワーク・アドオンは、VMware ESX および z/VM のハイパーバイザー用です。

アドオンの詳細

アドオンはスクリプトに似ていますが、スクリプトとは大きく違います。まず、アドオンはカスタム・スクリプトと同じ場所には表示されません。アドオンはカタログ内の独自のカテゴリーに属しています。また、アドオンは、デプロイ時にパートのあらゆるカスタム・スクリプトの前に実行されます。カスタム・スクリプトとは異なり、パートでのアドオン実行順序を指定することはできません。アドオンはシステムの作成時にのみ実行され、オンデマンドでの起動はできません。アドオンは、ハイパーバイザー・レベルの API を使用して、デプロイ時に仮想マシン内に新しいハードウェアを構成します。

アドオンを仮想システム・パターン・エディター内のパートにドロップすると、カスタム・スクリプトと区別できるように固有のアイコンとして表示されます。パラメーターの値を追加し、オプションで設定をロックすることで、デプロイ時にパラメーターが変更されないようにすることもできます。図14 は、各デフォルト・アドオンとそのパラメーターの画面を取り込んだものです。Default Add NIC アドオンは、パラメーターが表示されないアイコンになります。

図14. アドオンのパラメーター
図14. アドオンのパラメーター

アプライアンスのバックアップ機能の拡張

アプライアンスのバックアップ・プロセスに 2つのオプションができました。オンデマンド・バックアップと連続バックアップです。これにより、WebSphere CloudBurst アプライアンスより更に高い柔軟性を実現しています。バックアップとリストアのプロセスも拡張され、証明書と秘密鍵をより簡単に作成および保存できるようになりました。オンデマンド・バックアップの動作は前のバージョンと同じです。連続バックアップのパフォーマンスは、前回のバックアップ以降に変更されたコンポーネントのみをバックアップすることによって、大幅に改善されています。これにより、その後のバックアップ時間と必要なネットワーク帯域幅が大幅に削減されました。この改善により、突然停電が発生した際にも最新のバックアップを使用可能にする体制の確保することができます。

バックアップとリストアの各機能を表示するには、「アプライアンス (Appliance)」→「設定 (Settings)」の順に選択して、「バックアップとリストア (Backup and Restore)」のセクションを展開します。

図15. バックアップとリストア
図15. バックアップとリストア

バックアップの準備

図15 のステップ 1 ~ 3 では、アプライアンスのバックアップを安全に作成、復元できるようにするために必要な情報を指定します。ここで必要なものは、証明書と秘密鍵を保存するリモートの場所です。この場所は、証明書と鍵のペアを作成するよう要求したときに Workload Deployerが使用する場所にもなります。この手順は、クレデンシャルがアプライアンス自体にアップロードされていた WebSphere CloudBurst アプライアンスでの手順とは異なります。生成されたバックアップ・イメージを保持できる十分なストレージのある場所を指定する必要があることは、言うまでもありません。

バックアップの有効化と無効化

図15 のステップ 4 では、バックアップの有効/無効の切り替えと、目的のバックアップ・タイプの選択が行えます。前述のとおり、バックアップにはオンデマンドと連続の 2通りのオプションがあります。

オンデマンド
デフォルトのバックアップ方法です。すべての仮想イメージ、仮想システム・パターン、仮想アプリケーション・パターン、スクリプトなど、アプライアンス上の全データのフル・バックアップを実行します。オンデマンド・バックアップにはかなりの時間がかかり、大量のネットワーク・リソースが消費されます。バックアップの間、アプライアンスは保守モードになります。
連続バックアップ
前回のバックアップ以降に変更された項目のみのバックアップを 60 分ごとに持続的に実行します。変更部分は、仮想イメージに対する変更とそれ以外のすべての変更 (パターンや仮想システムに対する変更など) の 2つのカテゴリーに分けられます。仮想イメージのバックアップではネットワークの帯域幅が大量に消費される場合があるため、このようなバックアップを実行する時間はピーク時間外に制限し、システムに余分な負荷がかからないようにしてください。図16 は、両タイプのバックアップのオプションを示しています。
図16. バックアップ・オプションの有効化と無効化
図16. バックアップ・オプションの有効化と無効化

バックアップからの復元

バックアップを実行する目的は、必要なときにリカバリーを行えるようにすることです。図15 のステップ 5 は、この作業を行うためのステップです。リストアに使用するバックアップを選択するには、対象のバックアップの日付と時刻を指定し、さらに図17 に示すように秘密鍵パスワードも指定します。バックアップ・イメージの時刻は厳密に指定しなくてもかまいません。指定した日付と時刻からさかのぼって検索が行われ、その日時より前で最も新しいバックアップが検出されます。ステップ 1 ~ 4 で指定した情報は、バックアップ操作の基として使用されます。バックアップは、作成元とは別のアプライアンスに復元することもできます。

図17. 以前の特定時点までの復元
図17. 以前の特定時点までの復元

まとめ

WebSphere CloudBurst アプライアンスにはすでに多くのお客様が投資されており、Workload Deployer への移行を検討中のお客様も多いかもしれません。これまで投資してきたパターン、スクリプト、およびイメージは、Workload Deployer でも同じように機能します。加えて、移行後は多くの新機能がもたらす利益も得ることができます。Workload Deployer の資料で説明されているように、移行は現在の環境を新しいアプライアンスに移行するだけで終わります。簡単に言えば、現在の WebSphere CloudBurst アプライアンスをバックアップし、構成しておいた Workload Deployer アプライアンスからそのバックアップを移行するだけで、環境が複製されます (Workload Deployer の初期構成データは上書きされません)。移行はこれで完了です。これだけで、Workload Deployer の新機能を探求しながら、これまでに作成したすべてのパターン、スクリプト、イメージなどのデータを使用できる環境を作ることができます。

この記事では、プライベート・クラウド管理において、 Workload Deployer がどれほど有益なアプライアンスであるか示す機能の一部を説明しました。この拡張された能力が適用される対象は、WebSphere 製品ファミリーだけにとどまりません (名称が変更されたのもこのためです)。当記事では、新たなモビリティと仮想マシン・アドオンによってこの製品の柔軟性と使いやすさがいかに向上したかを説明しました。また、Intelligent Management Pack の新機能である WebSphere Virtual Enterprise とのより緊密な統合によってもたらされるメリットや、バックアップとリカバリーにおける改善についても取り上げました。さらに、おそらく最も重要な改善点である、仮想アプリケーションのための新しいアプリケーション中心型モデルについても説明しています。このモデルによって、アプリケーションのデプロイメントと管理において、コスト節約をさらに進め、容易性、および俊敏性を高めることができます。

Workload Deployer は、単なる WebSphere CloudBurst アプライアンスの後継製品ではありません。定評ある CloudBurst を基に構築された Workload Deployer は、CloudBurst の優れた機能をすべて継承し、さらに向上させているだけでなく、使用率を向上、使いやすさを改善し、より迅速なアプリケーション・デプロイメントでお客様のプライベート・クラウドを次のレベルに導く新しいアプリケーション中心型コンピューティング機能も提供します。Workload Deployer があれば、ビジネスを支えるために必要なミドルウェアの管理からスタッフを解放し、より多くの時間とエネルギーをビジネスに集中して使えるようにすることができます。

参考文献

  • IBM Workload Deployerの参考文献
  • WebSphereの参考文献
  • developerWorks の参考文献
    • IBM ソフトウェア製品のトライアル・ダウンロード
      IBM® DB2®、Lotus®、Rational®、Tivoli®、および WebSphere® の一部製品の無料トライアル・ダウンロードにアクセスできます。
    • developerWorks ブログ
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