ソフトウェア開発者のための NHIN および NHIN Direct の概説

医療 IT 業界で何らかの仕事をしているとしたら、NHIN (National Health Information Network) については十分に理解しておく必要があります。この記事では、NHIN とこれに関連する 2 つのサブプロジェクト、NHIN CONNECT および NHIN Direct の技術的概要を説明します。CONNECT は、独自の医療情報交換 (HIE: Health Information Exchange) を作成したり、既存の HIE に接続したりするために今すぐ使用することができます。NHIN Direct は新しいプロジェクトなので、すぐに使用できるコードは今のところありませんが、コードが使用できるようになった暁には、NHIN Direct を使って他の医療システムとの間で直接データをプッシュ/プルできるようになります (必ずしも HIE を使用する必要はありません)。

Shahid N Shah, CEO and Chief Architect, Netspective Communications, LLC

Shahid Shah photoShahid N. Shah は国際的に認められた有力な医療 IT の思想的指導者で、インターネットの世界では「The Healthcare IT Guy」として知られています。連邦政府関係機関で IT 関連のコンサルタントを務める彼は、IT 専門家の誰もが欲しがる Federal Computer Week の「Fed 100」賞を受賞したことをきっかけに、政府で大きな注目を集めるようになりました。Shahid は 20 年に及ぶキャリアの中で、さまざまな医療ソリューションを設計、構築しています。米国赤十字社の電子医療記録ソリューションを設計し、何千にもおよびサイトにデプロイした他、彼が構築した 2 つの Web ベースの EMR は今では何百人もの医者が使用しており、彼が設計した大規模なグループウェアおよびコラボレーション・サイトは何千人もが使用しています。また、Cardinal Health の 10 億ドル規模の部門の元 CTO として、医療機器および病院用の高度医療インターフェースの設計を支援した経験もあります。現在は、NIH の SBIR/STTR プログラムでの上級技術ストラテジー・アドバイザーとして、小企業の医療アプリケーション商品化を支援しています。



2010年 7月 27日

NHIN の紹介

NHIN とは、米国の国家医療情報ネットワーク (National Health Information Network) のことです。2002年の国家医療情報基盤 (NHII: National Health Information Infrastructure) プロジェクトを 2006年に引き継いだ NHIN はその後、2009年に成立した米国再生・再投資法 (ARRA: American Recovery and Reinvestment Act) の中で HITECH 法 (Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act: 経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律) として知られる、医療に特有の条項の要件を満たすために、さらに変更が加えられています。ただし、NHIN に関して 1 つ覚えておいてもらいたいのは、これは新しいネットワークでも、閉鎖的なネットワークでもなく、NHIN はインターネットで医療データを交換できるようにするためのフレームワークにすぎないということです。

しかし NHIN は確立されているとは言い難く、医療データの交換に必ず必要なフレームワークというわけではありません。したがって、統合ストラテジー全体の基礎を NHIN に置くことは避けてください。実際のところ、他にも選択肢を用意しておくことが肝心です。これは、NHIN に対する否定的なコメントとしてではなく、医療データの交換がいかに複雑であるかという現実的な観察として受け取ってください。医療データの交換には簡単なところがまったくありませんが、それでもすぐにでも解決する必要がある多くの問題があります。患者データに合法的にアクセスするにはどうすればよいのか、患者データを (物理的および論理的に) どこに置くのか、患者データへのアクセスを無料にするかどうか、大企業だけを参加させるのか、有効性およびプライバシー・モデルに実際に責任を持つのは誰なのかなど、対処しなければならない重要な問題はまだまだ残っています。

このような問題に聞き覚えがあるとしたら、それは NHIN がかつての米国地域医療情報機関 (RHIO: Regional Health Information Organizations) のモデルの持っていた論理を引き継いでおり、このモデルと似ているからです。大規模な医療制度によって運用されていた RHIO は、医療制度に誰が参加可能で、誰が参加できないかを決定します。RHIO は国内の「ネットワークからなるネットワーク」を立ち上げる最初のステップで、最終的にはあらゆる個人を他のすべての個人に結び付けることになっていました。患者のような弱い立場の人々、小規模な診療所、そして地域病院は RHIO の援助の下に置かれ、その善意に頼るという前提です。RHIO は結果的に成功しなかったため、NHIN は RHIO と同じ前提で開始しているものの、もちろんその実装ストラテジーは異なります。NHIN の期が熟すまでには何年もかかりそうなので、この異なるストラテジーが成功するかどうかは現時点ではまだわかりません。

NHIN と NHIN Direct の詳細の説明に入る前に、全体のコンテキストを理解できるように ARRA および HITECH 法について概説します。


ARRA と HITECH

2009年 2月、米国議会で可決された ARRA は、「景気刺激法案」、あるいは「再生法 (Recovery Act)」としても知られています。この景気刺激法案では、さまざまな業界に対して約 7870 億 US ドルの資金を投じることを規定しており、そのうち HITECH として知られる医療業界特有の規定に関しては約 190 億 US ドルが割り当てられています。

190 億 US ドルのうち、HITECH が独立開業医に対して割り当てているのはわずか数万ドルであるのに対し、メディケア (高齢者向け医療保険制度) およびメディケイド (低所得者向け医療費補助制度) を受け入れて、電子医療記録 (EMR: Electronic Medical Record) システムをインストールして使用する病院やマルチホスピタル・システムに対しては、数千万ドルもの資金を割り当てています。この法案によって提供される資金は、診療所や病院に直接支払われるわけではありません。支払いは、HITECH に定義された法規制を満たす診療所、病院に対し、メディケアおよびメディケイドの還付金を増やすという形で行われます。


「有意義な利用」についての概要

HITECH は「有意義な利用 (MU: Meaningful Use)」という新しい用語を作り出し、医療 IT 業界の流れを一新しました。一連の規制のなかで、再生法 (Recovery Act) では具体的に以下の内容を要件としています。

  • 公認電子健康記録 (EHR: Electronic Healthcare Record) を「有意義な」形で使用すること (NHIN には直接関係しません)
  • 公認 EHR を健康情報の電子交換に使用すること (NHIN にとって重要な点です)
  • 公認 EHR を使用して、臨床品質やその他の評価基準を政府に送信すること (同じく NHIN を使用して送信されます)

MU は素晴らしい概念で、この手法で意図されているのは、情報システムを単にインストールするだけという業界の流れを、実際に情報システムを使って患者の生活を向上させるという流れに変えることです。MU は、データの収集と共有 (NHIN は、企業外部でデータを共有する際に活躍します) から高度な電子臨床プロセス (NHIN による改善を加えたプロセス) へと移行し、さらに最終的には改善された成果 (NHIN によって政府に報告することができます) をもたらすことを目的としています。

MU を定義している人々は、必要最低限以上の情報共有、そして電子臨床ワークフローにおける大きな改善なくして、医療成果の改善は望めないことを理解しています。医療成果の改善に MU が最終的にどれほどの影響を及ぼすのかは未知数ですが、滑り出しとしては順調です。

MU の規定を作成するなかで、MU は 3 ステージに分けて定義されました。ステージ 1 は 2011年、ステージ 2 は 2013年、ステージ 3 は 2015年です。ステージ 1 では、NQF (National Quality Forum: 全米医療品質フォーラム) が以下の健康転帰の優先事項に取り組むことになっています。

  • 品質、安全性、効率性の改善、および医療格差の縮小
  • 患者とその家族の健康管理への関与
  • 医療協調の促進、公衆衛生の改善
  • 健康情報に対する適切なプライバシーおよびセキュリティー保護の保証

MU の目標と NHIN

最終的な MU の規定は、2010年 7月 13日に HHS によって公開されました。この規定では、有意義に利用していると認められ、奨励金の受給資格を得るために病院が満たさなければならない 24 の目標および基準が定義されています。そのうち、「コア・セット (core set)」はすべての医療機関が達成しなければならない目標です。「メニュー・セット (menu set)」については、医療機関はそのうちの 5 つ以上の目標を達成する必要があります。以下に、医療機関が認識すべき MU 基準をリストアップします。NHIN に直接関連する目標、または多少なりとも関連する目標には [NHIN] と追記しています。

コア・セットの目標

以下は、すべての医療機関が達成しなければならないコア・セットの目標です。

  1. CPOE (Computer Provider Order Entry) を使用すること
  2. 薬剤相互作用、薬剤アレルギー、採用医薬品集のチェックを実施すること
  3. 患者の年齢層統計を記録すること
  4. 1 つの臨床決定支援規則を実施すること
  5. ICD-9-CM または SNOMED CT に基づき、現在進行中の診察の問題リストを最新の状態に維持すること
  6. 実際に使用している医薬品のリストを管理すること
  7. 実際に使用している医薬品のアレルギー・リストを管理すること
  8. バイタル・サインの変化を記録およびグラフ化すること
  9. 13 歳以上の患者の喫煙状況を記録すること
  10. 病院の臨床品質の評価基準を CMS または政府に報告すること [NHIN]
  11. 患者からの要請に応じて、患者の健康情報の電子コピーを提供すること [NHIN が関連する可能性有]
  12. 患者からの要請に応じて、患者の退院時に退院指導の電子コピーを提供すること [NHIN が関連する可能性有]
  13. 医療プロバイダーや患者が許可した機関の間で重要な臨床情報を電子的に交換できること [NHIN]
  14. 電子健康情報を保護すること

メニュー・セットの目標

以下は、メニュー・セットに挙げられている 10 の目標です。組織はこのうち、5 つ以上の目標を達成する必要があり、そのうちの 1 つ以上は公衆衛生に関する目標 (8 番、9 番、10 番) でなければなりません。

  1. 採用医薬品集のチェックを実施すること
  2. 65 歳以上の患者を対象とした高度な指示を記録すること
  3. 臨床検査試験の結果を構造化データとして組み込むこと
  4. 特定の条件を基準にして患者のリストを作成すること [NHIN で支援可能]
  5. 公認 EHR 技術を使用して患者に固有の教育資料を特定し、必要に応じて患者に提供すること [NHIN で支援可能]
  6. 薬剤の緻密な確認を行うこと [NHIN が関連する可能性有]
  7. 治療段階が遷移するごと、あるい専門医へ委託されるときに治療記録を要約すること [NHIN で支援可能]
  8. 予防接種登録情報システムに電子データを送信できること [NHIN]
  9. 報告義務のある検査結果を公衆衛生当局に電子的に送信できること [NHIN]
  10. 症候に関して観察されたデータを公衆衛生当局に電子的に送信できること [NHIN]

NHIN に関与する政府機関と参加団体

図 1 に示されているように、国家医療 IT 調整官室 (ONCHIT: Office of the National Coordinator for Healthcare IT) は保健福祉省 (HHS: Department of Health and Human Services) の一部門となっています。ONCHIT (通常は ONC と略されます) は、NHIN を定義し、管理する米国連邦政府の主要な政策集団です。

図 1. 保健福祉省と関連組織
HHS とその構成部門を示した図。構成部門には NIST、CMS、ONCHIT があり、その下には ONCHIT、HIEs、HIT Policy Committee、HIT Standards Committee があります。
  • ONC は、NHIN 標準の仕様に関して米国商務省の国立標準技術研究所 (NIST: National Institute of Standards and Technology) と調整を取ります。
  • 医療 IT 政策委員会 (HIT Policy Committee) および医療 IT 標準委員会 (HIT Standards Committees) は、ONC に標準に含める内容についてアドバイスを行うワーキング・グループです。
  • NIST は、実動システムを認定するために使用する試験材料 (アサーション、プロシージャー、メソッド、ツール、データなど) を考案する役割を担っています。

NHIN の基礎

政府独自の定義 (「参考文献」を参照) によると、NHIN は以下のように定義されています。

  • インターネットを使用したセキュアで有意義な健康情報の交換を可能にするポリシー、標準、サービスの一式
  • NHIN 参加団体の間での通信 (この通信は、NHIE (NHIN Health Information Exchange) と呼ばれます) のために調整された標準ベースの仕様一式
  • 個々の選択を尊重したセキュアな健康情報の交換を可能にする、信頼性のある構造。この構造には以下のものが含まれます。
    • セキュア・トランスポートを保証するインターネット・ベースのプライベート・ネットワーク
    • 有効かつ信頼できる団体のみが参加できるようにするためのメンバーシップ・サービス
    • 団体間の相互運用性を確実にするための認定
    • 情報交換のプライバシーおよびセキュリティーを保護するための法的取り決め
    • ネットワーク参加者にネットワーク上のリソースへのアクセスを可能にする、監督されたインデックス一式
  • すべての参加団体の活動、役割、責任を構造化して定義し、責任説明を課するガバナンス・モデル
  • NHIN のミッションとガバナンス構造により結束された団体からなる連合 (NHIE)

以上の説明を読んでもまだ理解に苦しんでいる読者は一人だけではないでしょう。NHIN は大掛かりなプロジェクトであり、私が思うに、NHIN はあまりにも多くのことを達成しようとしています。ボトムアップ方式で必要最小限の目標を達成する代わりに、政府はトップダウン方式を採り、数年先のあるべき形を指定しています。けれども、NHIN の初期参加団体はすべて、解決するのが困難な問題を抱えている大規模な機関 (社会保障制度や CDC、FDA、メディケアなど) なので、大きな規模で考えるのは理に適っています。この壮大な構想を実現するには長い時間がかかりますが、NHIN がまだ具体的になっていないことから、実現までに何年かかるかを割り出すのは難しい話です。

突き詰めるところ、NHIN が対象としているのは患者データおよび医療データの交換です。NHIN が成功するためには、政府機関、病院、保険会社、そしてその他のタイプの数多くの参加団体の間で患者データを交換するための語彙、文書、メッセージング標準を定義しておく必要があるでしょう。また、患者データを提供する方法と場所に関する問題に答えを出す必要があります。つまり、何らかの大規模な中央データベースにデータを集めるのか、あるいは各地域に配置された交換機にルーティングした後に国の交換機にルーティングするのかという問題です。法的所有権およびデータ所有権の規定も定義しなければなりません。さらに NHIN の一部には、信頼できる送信元からデータが受信されていること、そして信頼できる送信先にデータが送信されていることを検証するためにデータに署名を付けて認証するとともに、患者データが改ざんされることのないようにサービス保証を行う能力が必要です。

専門用語で言うと、基本的な NHIN コンポーネントには認証および証明書、配信プロトコル、トラスト・フレームワーク、ボキャブラリー、メッセージ仕様、ディレクトリー、セキュリティーがあります。お察しのことと思いますが、これらの基本コンポーネントと同じものが、何らかの形でインターネットの中に存在します。データ交換の送信側と受信側の双方が互いを認識していれば、ルーティングおよび信頼性の高いデータ交換には簡単に対処することができます。NHIN を短時間で配備するために早急に必要とされるのは、NHIN を利用するための軽量のツール、そして政府がすべてを指定するまで待つことなく、小中企業および大企業が今すぐデータ交換を始められるようにするための簡単な方法です。

IBM では、最近の健康データ統合を支援する数多くの製品を用意しています。そのうちのほとんどの製品は、将来的に NHIN と連動する予定です。DB2® 9 データベースとそのネイティブ XML 機能は、NHIN の XML 仕様を変換することなくそのまま保管できる唯一のデータ・ストレージとなることから、ストレージにはうってつけの選択です (他のデータベースはいずれも XML を保管するには変換をする必要があります)。新しい Cognos® ビジネス・インテリジェンス・スイートは、HL7 ETL、患者照合、マスター患者インデックスの検索および参照、そして患者人口分析にすぐに使用することができます。小規模なツール・プロバイダーの基本的な分析エンジンを使う代わりに、Cognos は Express 製品によって迅速なデプロイメントを可能にし、その後、需要の拡大に応じて完全なエンジンへ移行できるようにしています。


NHIN CONNECT

NHIN オープンソース・プロジェクトとして最初にリリースされたイニチアチブは、NHIN CONNECT です。標準、仕様、リファレンス・アーキテクチャーの一式である大規模な NHIN とは異なり、CONNECT はそれぞれの組織の中で医療情報交換 (HIE) を作成するためにダウンロードして使えるソフトウェアです。既存の HIE を医療情報交換の地域ネットワークに組み込むことも、HIE を全国的な情報交換ネットワークに結び付けることもできます。注意する点として、CONNECT がまさに重点としているのは HIE であり、システム同士を直接接続するポイント・ツー・ポイントのソリューションではありません (ポイント・ツー・ポイントのソリューションについては、次の「NHIN Direct」のセクションを参照してください)。

NHIN CONNECT の目的は NHIN を HIE に関連付けることですが、EMR を HIE に関連付けたいだけの場合にはどうなるのでしょうか。その場合にも CONNECT は役立ちそうなものですが、残念ながら、そこに CONNECT の出番はありません。EMR を HIE に関連付けたいのであれば、OHT (Open Health Tools) や (IBM が主導する) iheprofiles、および OpenExchang を調べてください。リンクは、この記事の最後にある「参考文献」セクションに記載されています。

CONNECT Core Services Gateway では、次のようなコードを作成することができます。そのコードでは、患者レコードが置かれている場所を見つけ、患者に関する資料を取得し、独自の HIE、または信頼関係のある接続先 HIE で、患者レコードを更新することができます。認証、許可、プライバシー規則などの基本要件は、Core Services が対処します。

マスター患者インデックス (MPI: Master Patient Index)、XDS.b 文書レジストリーおよびリポジトリー、許可ポリシー・エンジン、コンシューマー・プリファレンス・マネージャー、HIPAA 準拠の監査ログ、および関連タスクのデフォルト実装をデプロイするには、CONNECT Enterprise Service Components を使用します。これらは Core Services Gateway に定義されているデフォルトのインターフェース実装にすぎないので、そのまま使うことも、必要に応じてカスタム実装に置き換えることもできます。

Core Services および Enterprise Service Components を使用するうちに、オープンソース・スイートに付属のデフォルト・コンポーネントよりも堅牢な実装になる可能性がある IBM WebSphere® Application Server や WebSphere Message Broker MQ、そしてその他のプロセス・サーバー・ツールを調べてみたくなるはずです。これらのツールは開発時間を短縮し、より優れた統合開発環境を提供することができます。詳細については「参考文献」を参照してください。

読者の皆さんはきっと、説明はもう十分なので、実際のコードを見てみたいと思っていることでしょう。けれども NHIN は複雑であること、そして NHIN はコードというよりも仕様であることから、私が皆さんに紹介できる「Hello World」プログラムはありません。NHIN CONNECT には相当な量のコードがありますが、やはり医療情報交換の複雑さが理由で、CONNECT の場合には簡潔な「Hello World」プログラムで有意義な内容を説明するのは簡単ではありません。


NHIN Direct

以上の説明で、参加者すべてを他のすべての参加者に結び付ける、トップダウン方式の米国政府の取り組みでは時間がかかること、その一方で、既存のインターネットと現在利用できるエンタープライズ・プロトコルによって当面の多くの問題を解決できることがわかった後に行き着く先は、NHIN Direct と呼ばれるプロジェクトです (「参考文献」を参照)。NHIN プログラムは、単純な交換から複雑な交換に至るまで、医療情報交換がそのすべてですが、NHIN Direct プロジェクトは単純な健康データ交換 (最も一般的に行われていると言ってほぼ間違いありません) を容易に行えるようにすることを目的としています。政府のような大規模な参加団体に焦点を絞る代わりに、NHIN Direct は、互いに既知であり、データを相互に送信することが可能な広範にわたる参加団体と医療プロバイダー (地域の病院や診療所) にサポートの幅を広げています。ここで重要な点は、互いに既知であることです。すでに知っている NHIN 参加者と通信を行っていて、その通信相手が E メールなどのデータ・プッシュ・モデル (つまり、「データが変更されたら、その変更を記録できるように知らせる」というモデル) や Web ブラウザーなどのデータ・プル・モデルを進んで使用するとしたら、NHIN Direct は NHIN への身近な入り口となるからです。さらに、NHIN Direct はすべてを一度に定義しようとするのではなく、その焦点を、標準をベースにしていて幅広くデプロイされ、十分にサポートされたインターネット対応の方法で、コアとなる「有意義な利用」の利用ケースをサポートすることに置いています。ここで言う「有意義な利用」の利用ケースには、例えば以下のものがあります。

  • 一次医療プロバイダーが治療記録の要約を添えて、患者を専門医に紹介する
  • 一次医療プロバイダーが治療記録の要約を添えて、患者を病院に紹介する
  • 専門医が紹介元の医療プロバイダーに、治療情報の要約を送信する
  • 病院が紹介元の医療プロバイダーに、退院情報または継続治療情報を送信する
  • 検査機関が要請元の医療プロバイダーに検査結果を送信する

ONC が繰り返し表明しているのは、NHIN と NHIN Direct は別のものではなく、NHIN Direct は NHIN のごく一部にすぎないということです。NHIN Direct は NHIN のサブプロジェクトであり、人々が NHIN ゲートウェイ仕様をすぐに役立つ簡単な実装として使用し始められるようにすることを目的としています。私が NHIN Direct に関して実に感心している点は、このプロジェクトが「現実的」なものであり、実際の差し迫ったニーズを重視していることです。オープンで透過的かつ協力的なプロセスを使用する NHIN Direct では、ウィキやブログ、そしてオープンソースとオープン・コンテンツを利用します。このようなプロジェクトは、政策通ではなく、医療の従事者が始める類のものです。

NHIN と NHIN Direct について 1 つ覚えておかなければならない点は、NHIN と NHIN Direct は新しいネットワークを作っているわけではないということです。


NHIN Direct に取り掛かるには

NHIN Direct は比較的新しい政府主導の (ただし、必ずしも政府が運営するわけではない) プロジェクトであるため、Web サイトには、NHIN Direct とはどのようなプロジェクトなのか、何を行っているのか、そしてどんなコードが使用可能なのか (現時点ではかなり量が限られています) といったことに関する資料が豊富に用意されています。ターゲットとする実際の成果物に取り掛かるには、以下のページを調べてください (また、「参考文献」も参照してください)。

ポリシーとガバナンス以外で最も重要な設計原則 (技術的な設計原則) には以下のものがあります。

  • NHIN Direct プロジェクトでは、構造化されていないコンテンツ (テキスト、PDF など) から半構造化コンテンツ (各種の CDA テンプレート、HL7 MDM など)、さらに完全に構造化されたコンテンツ (CCR、CCD) に至るまで、さまざまなタイプのコンテンツを処理できるトランスポート・レベルの仕様およびサービス一式を作成します。
  • コンテンツの問題 (例えば、CCD と CCR の違いなど) は、作成された仕様とサービスの記述を基に、プロファイルによって処理されます。
  • 適格なプロバイダーとの接続を組み込み、さまざまな技術タイプ (インストール済み EHR、モジュール式 EHR、エンタープライズ EHR、SaaS EHR など) に対応するような設計にします。
  • 設計には、インストール済み EHR がファイアウォールを介して外部へのトランザクションのみを行う接続モデル (つまり、プロバイダーがオープン・インターネットへの TCP/IP ポートを開く必要のない接続) を少なくとも 1 つ組み込みます。
  • 小規模な診療所の典型的な IT 環境 (インストール済み EHR、動的 IP アドレス、IT サポートがないか限られている、などの環境) に対応するような設計にします。
  • 最新のライブラリーをサポートする言語を使って開発を行う小規模な開発チームが、ネイティブに実装できる EHR 接続モデルに対応するような設計にします。

設計原則と同じページにある「Rules」セクションに記載されている規定は、一読の価値があります。


抽象化モデル

設計原則とユーザー体験談のページに目を通した後は、必ず抽象化モデルのページとこれに関連する例を調べてください。NHIN Direct では、サーバー同士の多種多様な対話方法を考慮しています。具体的には、送信元 (エンドポイント) とサービス・プロバイダーとの間の対話、サービス・プロバイダー同士の対話、送信元と送信先との対話、およびサービス・プロバイダーと送信先 (エンドポイント) との対話です。この点に関しては、ハブ・アンド・スポーク・パターンによく似た CONNECT モデルよりも、NHIN Direct の抽象化モデルのほうが、私たちソフトウェア開発者にとっては馴染みがあります。NHIN Direct で考慮されている各種のモデルについての概要は、以下の表に記載します。


アドレス指定

さまざまなモデルについて理解した後は、アドレス指定の仕組みを知る必要があります (表 1 を参照)。以下の表には、医療用インターネット・アドレスを (Web サイトから直接) どのようなフォーマットで指定できるかを示す非標準的な例を記載しています。

表 1.NHIN Direct アドレス指定の例
フォーマット規則注記
E メール・アドレス医療エンドポイント名 + @ + 医療ドメイン名drsmith@nhin.sunnyfamilypractice.example.org
REST URIREST 実装を参照 (「参考文献」を参照)https://nhin.sunnyfamilypractice.example.org/
nhin/v1/nhin.sunnyfamilypractice.example.org/drsmith/
この例は、Smith 医師が使用しているメッセージ受信箱を示しています。送信側のドメインからは、これと同じ相対 URL を提供できるはずです。v1 は REST API のバージョンを示しています。
WSDL 参照IHE 実装を参照 (「参考文献」を参照)https://nhin.sunnyfamilypractice.example.org/ nhin/1_0/wsdls/messagesSOAP Web サービスを指す WSDL を返します。1_0 は SOAP API のバージョンを示しています。
XCNHL7 文書urn:nhin:nhin.sunnyfamilypractice.example.org:
drsmith^Smith^John^J^III^DR^PHD^^&NHIN OID&OID
XCN 表現は複数のコンテキストで使用することができます。例えば、XDS/XDR Web サービス呼び出しや HL7 2.x メッセージの intendedRecipient で、メッセージの送信者または受信者を (PV1 セグメントで) 参照する場合などです。
XONHL7 文書Sunny Family^^^^^&NHIN OID&OID^^^^urn:nhin:nhin.
sunnyfamilypractice.example.org:sunnyfamily
XON 表現は、XDS/XDR Web サービス呼び出しや HL7 2.x メッセージの intendedRecipient で、メッセージの送信者または受信者を (ORC セグメントで) 参照する場合など、複数のコンテキストで使用することができます。

NHIN Direct のサンプル・コード

NHIN CONNECT の場合、コードはあるものの、このような短い記事に記載するには複雑すぎますが、それとは異なり、NHIN Direct は新しいため、現時点では有用なコードが限られています。このプロジェクトはつい最近開始されたばかりなので、ここで実動コードの例を紹介することはできません。現在、コードを作成して一般に使用できるように、多くの人々が懸命に作業を行っている最中です。

NHIN Direct を学び始めた皆さんに必ず調べてもらいたいのは IBM ESB (Enterprise Service Bus) オファリングです (「参考文献」を参照)。さまざまな具体的実装 (REST、SMTP など) をすべて完全に実装する ESB は、NHIN Direct で構想されたサービスの開発、デプロイメント、保守を何ヶ月も短縮することができます。ESB の他、NHIN 仕様を中心とした人間主体の BPM を目的に IBM WebSphere Process Server を統合するのもお勧めです。Process Server と ESB の連動は、成熟した NHIN Direct を実現できる強力な組み合わせとなります。


まとめ

ここまでの説明を読んで、皆さんは NHIN とは何か、そして NHIN が医療業界の変革にとって重要な理由が十分に理解できたはずです。この記事では NHIN CONNECT と NHIN Direct の現状、そしてさらに重要な点として、この 2 つのプロジェクトが目指す目標を詳しく説明しました。この重要な分野に足を踏み出して関与したいと思ったら、さらに詳しい情報を「参考文献」セクションで調べてください。

参考文献

学ぶために

  • Health IT ホーム・ページ: 医療情報技術により、医療情報、そして医療情報を使用する側、提供する側との間での情報交換を包括的に管理できます。
  • NHIN の概要ページ: NHIN (Nationwide Health Information Network) は、インターネットでのセキュアな医療情報交換を可能にする標準、サービス、ポリシーの一式です。
  • NHIN Direct ホーム・ページ: NHIN Direct は、政治的枠組みで NHIN を構成する標準およびサービス定義を拡張するためのプロジェクトです。
  • NHIN Direct Design Principles: NHIN Direct ソリューションの設計および実装するためのガイドラインを調べてください。
  • NHIN Direct User Stories: NHIN Direct の 20 を超える医療情報交換の使用ケースを詳しく説明しています。
  • NHIN Direct Abstract Model および Examples: NHIN Direct の使用ケースを支えるアクターおよびトランザクションを理解するには、ここを読んでください。
  • NHIN Direct Addressing Specification: 1.0 仕様を読んでください。
  • NHIN Direct Concrete Implementation Workgroup: NHIN Direct の具体的実装についての概要を読んでください。
  • NHIN Direct RESTful API: NHIN Direct の RESTful な実装を目的とした連携分野です。
  • REST Implementation Development Team: NHIN Direct REST 実装案の具体的実装への実現に無償で取り組んでいるチームに加わってください。
  • SMTP Implementation Development Team: SMTP の専門知識を持っている方は、SMTP 実装案を具体的な NHIN Direct 向け実装にするために活動しているチームに加わってください。
  • IHE Implementation Development Team: IHE (Integrating the Healthcare Enterprise) NHIN Direct 仕様の拡張を支援してください。
  • XMPP Implementation Development Team: このチームの一員となって、NHIN Direct に対応した XMPP 実装の拡張を支援してください。
  • Open Health Tools の Web サイト: Open Health Tools は、ユビキタス・エコシステムの実現という構想を掲げるオープンソース・コミュニティーです。このコミュニティーでは、患者とその医療プロバイダーが必要に応じていつでもどこでも極めて重要で信頼できる医療情報にアクセスできるようにする相互運用可能なシステムの構築に、医療 IT の専門家メンバーたちが協力して取り組むことができます。
  • iheprofiles プロジェクト・ホーム・ページ: IHE (Integrating the Healthcare Enterprise) は、医療におけるコンピューター・システムでの情報共有方法を改善することを目的に、医療の専門家と医療業界によって開始されたイニシアチブです。
  • OpenExchange プロジェクト・ホーム・ページ: OpenExchange プラットフォームは、患者の医療情報をセキュアでタイムリーな方法で交換できる標準ベースのコア・インフラストラクチャーとして、医療情報配信の品質、安全性、効率性を改善します。
  • IBM developerWorks Industry ゾーンにアクセスして、業界それぞれに固有の開発者向け最新技術リソースを入手してください。
  • developerWorks podcasts ではソフトウェア開発者のための興味深いインタビューや議論を聞くことができます。
  • developerWorks の Technical events and webcasts: developerWorks technical events and webcasts で最新情報を入手してください。

製品や技術を入手するために

  • IBM WebSphere Application Server: IBM WebSphere Application Server によって、アプリケーション・インフラストラクチャーのコストを削減すると同時に、堅牢でアジャイルな、そして再利用可能なあらゆるタイプの SOA ビジネス・アプリケーションおよびサービスを構築、配備、管理してください。
  • IBM WebSphere Message Broker および IBM WebSphere Enterprise Service Bus は、少ないコストでアプリケーションの統合を素早く柔軟に実現できるようにします。
  • IBM ソフトウェアの試用版を使用して、次のオープンソース開発プロジェクトを革新してください。ダウンロード、あるいは DVD で入手できます。

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