Web 2.0 は金融業界に革新的な設計の発想と手法をもたらし、この競争市場環境でのビジネス・アプリケーションの開発を飛躍的に改善しています。この記事では、金融アプリケーションの設計に Web 2.0 が与える影響を説明します。インターネット・バンキングにおけるトレンド、そして Web 2.0 の実践がこれらのトレンドにどう影響するかを学んでください。

Chen Xu Ming (chenxum@cn.ibm.com), Solution Architect, IBM

Chen Xu Ming は、China Software Development Laboratory に在籍し、ソリューション・アーキテクトとして WMBTT (WebSphere Multichannel Bank Transformation Toolkit) チームに参加しています。



Shan Jian Hong, Chief Architect, IBM

Shan Jian Hong は、China Software Development Laboratory に在籍し、WMBTT (WebSphere Multichannel Bank Transformation Toolkit) チームの主任アーキテクトを務めています。



Shao Yu, Software Engineer, IBM

Shao Yu は、China Software Development Laboratory に在籍し、ソフトウェア・エンジニアとして WMBTT (WebSphere Multichannel Bank Transformation Toolkit) チームに参加しています。



2009年 12月 01日

Web 2.0 の手法とビジネス価値

図 1. Web 2.0 のビジネス・モデル
この図には、2 つの雲と、その雲の間でのやりとりを示す矢印が示されています。左側の雲は技術レイヤーで、この雲のなかに含まれる技術には Ruby、AJAX、PHP、JSON、XML ATOM、RSS、Restful、およびマッシュアップがあります。右側の雲はビジネス・モデルを表し、C2C、C2C 融資、金融 SNS、ビデオ/Flash、SNS/ウィキ/ブログ、ユーザー推薦、顧客中心、RSS ニュース、ユーザー・セグメントおよびレーティング、タグ、ロング・テール手法というモデルが含まれます。

Web 2.0 のビジネス・モデル

多くのビジネス・アプリケーションが C2C e-ビジネスやビデオ・セールス、iTunes、Google マップなどといった Web 2.0 の概念と技術をベースにするようになっています。この現状が表わしているのは、ビジネス・アプリケーションは従来の企業中心のモデルから顧客中心のモデルへと転換したということです。Web 2.0 時代のエンド・ユーザーは、ネットワークで今まで以上に重要な役割を果たします。コミュニティーへの参加やブログの作成、そしてウィキへの貢献、Flash 動画の共有、タグの入力など、エンド・ユーザーが担う働きはさまざまです。エンド・ユーザーは、企業が提供する情報やサービスを使用するだけではありません。情報、サービスを提供する側でもあります。

Web 2.0 の技術

Web 2.0 の技術と標準の多くは、ビジネスの必要から生じたマーケティング要件として始まったものです。これらの要件が実現されたことから、ビジネス・アプリケーションのなかで顧客に一層の柔軟性が与えられました。その一例は、マッシュアップです。この技術によっていくつかのウィジェット標準が作成されるに至り、今ではこれらの標準のおかげでネットワーク・アプリケーションの構築および統合が迅速に行えるようになっています。それに伴い、エンド・ユーザーのエクスペリエンスはますます充実し、開発者が製品とサービスを作成するために使用できるリソースはより豊富になっています。

Web 2.0 の概念は数々の業界で発展してきましたが、金融業界でそのビジネス価値と業界に与える影響が表れ始めたのは、つい最近のことです。Web 2.0 の顧客を中心としたパーソナライズ技術が登場したことで、顧客がアプリケーションに求めるものは、従来のトランザクション・プラットフォームから、ユーザーにとって使いやすく、個々のユーザーに合わせたモデルへと移行してきました。このことから、銀行がそのアプリケーションで満たさなければならない新しい一連の要件が生まれています。

この記事では、Web 2.0 の概念と技術がインターネット・バンキング、ユーザー・エクスペリエンス、そして銀行業務を対象としたビジネス開発全般にどのような変化をもたらしているのかを説明します。


インターネット・バンキングの変革と課題

ほとんどの商業銀行は、付加価値のあるサービスを実施することに、収益を上げる方法を見出しています。このような革新には該当する銀行ルートの変革が必要です。以下に、その場合に検討しなければならない事項をいくつか挙げます。

  1. 顧客の要求の変化: 一部の商業銀行では、店頭取引の 80% をインターネット・バンキングに置き換えています。顧客に技術集約型のサービスを提供するために必要な資金を、支店が使用する資金から捻出して充てているという事例もあります。
  2. 銀行窓口の電子化: インターネット・バンキングは現在、情報を公開し、取引を実行するためだけに使用されているわけではありません。インターネット・バンキングは銀行窓口を電子化したものとなりつつあり、顧客は支店で受けられる金融サービスと同じサービスを仮想インターネット・プラットフォームに期待するようになっています。
  3. 抱き合わせ販売: 顧客がインターネット・バンキングのサービスを利用しているときには、アプリケーションがその顧客に対し、自動的に他の関連サービスを推奨することができます。一方、顧客が支店を訪れた場合は、窓口係がインターネット・バンキングの記録を利用して、顧客に必要と考えられる他の製品やサービスを勧められるようでなければなりません。窓口であるか、仮想であるかに関わらず、顧客が銀行で行うあらゆる活動を販売促進へと結び付ける必要があります。
  4. 金融スーパーマーケット: 銀行はさまざまな操作を組み合わせることによって、より広範なサービスを提供することができます。これは、顧客が取引をオンラインで行うかどうかを選べるようにするだけの話ではありません。広範なサービスを提供するには、金融機関によって提供可能なすべてのサービスを統合する必要があります。例えば、顧客が通常の銀行業務にアクセスできるだけでなく、株、公債、保険の購入も可能にするなどです。

商業銀行にとって、インターネット・バンキングは銀行ルートの変革に極めて重要な役割を持ちますが、その一方でインターネット・バンキングは以下の障害に直面しています。

  1. 不十分なパーソナライズ: 銀行は現在、技術が金融業界にもたらす変化に対応しているところです。銀行はインターネット・バンキングに投資し、機能を追加し続けていますが、顧客の利用環境はまだ十分にパーソナライズされていません。すべての顧客が目にする操作のページと手順は (身元、性別、年齢、興味に関わらず) まったく同じです。顧客それぞれの潜在的要求とリスク選好に応じて、最善の製品販売モデルを選択できるようにするための調整はほとんど行われていません。
  2. マーケティングとの限られた統合: グローバルな金融環境では、同じ類の製品をめぐる競争が極めて激しく、新しい製品の開発には長いプロセスが伴います。銀行は現代のマーケティング理論を適用し、消費者行動の分析、ユーザー・エクスペリエンス、競合他社の分析を、新世代のフロントエンド・システムの主要な理論的基礎であると考えなければなりません。
  3. 質の悪いユーザー・エクスペリエンス: Web 1.0 をベースとした従来のインターネット・バンキングは、快適なユーザー・エクスペリエンスをもたらしません。操作には画面全体の更新が必要で、それには長い時間がかかります。また、他の Web ベースのアプリケーションに見られるような統合ビューやワンストップ・サービスもありません。

次世代インターネット・バンキングの特徴

Web 2.0 をベースとした次世代インターネット・バンキングには、以下の特徴があります。

パーソナライズとカスタマイズ

Web 2.0 をベースとした次世代のインターネット・バンキングには、「人間指向」という考えが全面的に表れています。次世代インターネット・バンキングでは、それぞれの顧客に応じて多様にパーソナライズされたトランザクションおよびマーケティング・プラットフォームが表示されます。顧客は興味のある情報や金融サービスを思いのままにカスタマイズすることができます。顧客ごとにパーソナライズされたインターネット・バンキングのレイアウトによって、銀行はその顧客が持つ潜在的要求を明確に把握できるため、抱き合わせ販売を行ったり、ターゲット・マーケティングおよび顧客指向のマーケティングを実現したりすることが可能になります。図 2 に、Web 2.0 ベースの次世代インターネット・バンキングを示します。

図 2. Web 2.0 ベースの次世代インターネット・バンキング
この図の左側には、一般ユーザーのアイコンとパーソナライズされた画面が示されています。左側の画面に表示されているサービスには、Google マップ、カレンダー、金融口座から送金するためのアプリケーションがあります。図の右側に示されているのはヘッドセットを使っているユーザーで、このユーザーの画面に表示されているサービスは左側とは異なり、Google マップのストリート・ビュー、広告、2 種類の金融アプリケーションが表示されています。

豊富なサード・パーティー・サービス

ウィジェット標準に基づく Web 2.0ベースの次世代インターネット・バンキングは、Google マップ、Yahoo ファイナンス、天気予報、金融ニュースなどの多数のサード・パーティー・サービスを必要に応じて統合することが可能です。これらのサービスを組み合わせて 1 つのマッシュアップ・アプリケーションにすれば、顧客に付加価値のあるサービスを提供し、ユーザー・エクスペリエンスを向上させることができます。図 3 に、サード・パーティー・サービスを統合した例を示します。

図 3. 豊富なサード・パーティー・サービスの統合
1 つのウィンドウに各種サービスを統合したアプリケーションのスクリーン・ショットです。左上のフレームには住宅の一覧があり、その下のフレームに、一覧のなかから選択された住宅に関する要約情報が表示されます。右上には Google マップによって提供された該当する場所が地図とストリート・ビューによって示されています。右下のフレームには選択された住宅に関する詳細と、照会する住宅の情報を変更するための選択肢が表示されています。

マルチサービス・ウィンドウ

最近のほとんどのインターネット・バンキングにはウィンドウが 1 つしかなく、機能が要求されると画面全体を更新しなければなりません。顧客があるサービスを操作しているときにインターネットの「トラフィックの集中」が発生すると、その顧客は別のバンキング・サービスにアクセスできなくなる場合もあります。次世代インターネット・バンキングは Web 2.0 をベースとすることから、マルチサービス・ウィンドウをサポートします。ユーザーは同時に複数のサービス・ウィンドウを開くことが可能で、それぞれのウィンドウが非同期の並行操作をサポートします。マルチサービス・ウィンドウを説明する以下の図では、1 つのタグ・ページのなかに複数のサービス・ウィンドウが示されています。これらのサービスは同時に利用できるため、ユーザー・エクスペリエンスが大幅に改善されることになります。

図 4. マルチサービス・ウィンドウ
各種の情報をマルチサービス・ウィンドウに統合したアプリケーションのスクリーン・ショットです。左側にはサービスの一覧があります。その右側にある Google マップによる地図には、銀行の各支店の場所が示されています。地図の右側には、2 つのサービス・フレームがあり、送金および金融口座の管理を行うための選択肢が表示されています。

新しい開発モデル

ユーザー中心の設計を促進する Web 2.0 では、製品とサービスは、ユーザーの要求とフィードバックに応じて調整され、改善されます。Web 2.0 が提唱する「Never Release」という概念は、特定の「正式バージョン」というものはなく、すべてのバーションが正式バージョンとしてオンデマンド e-ビジネスを実現することを意味します。次世代インターネット・バンキングの開発者は顧客に必要なサービスを開発すると、そのサービスをサービスのプールに追加します。すると、ユーザーはこのプールに置かれたサービスに登録することによって、サービスを操作領域に追加するという仕組みです。このような開発モデルでは、銀行の IT エンジニアが個々のサービス開発に専念し、ビジネス・スタッフからの金融革新要求に素早く対応してサービスを常に改善していくことができます。

ユーザビリティー

インターネット・バンキングには人間が介入しないことから、顧客は問題に遭遇しがちです。よくある問題には、顧客が必要なサービスを見つけられないというものがあります。Web 2.0 ベースの次世代インターネット・バンキングは、パーソナライズをサポートし、顧客が興味を持ちそうにないサービスをブロックします。したがって、顧客がインターネット・バンキングにログインすると、自分のプロファイルが表示され、そこにわかりやすいレイアウトでお気に入りとサービスのリストが表示されます。

より多くのユーザーにとって使い勝手の良いインターネット・バンキングにするためには、設計段階でユーザーの習慣を徹底的に考慮し、ユーザー・インターフェースの選択機能を提供します。インターネット・バンキングにはデスクトップ・オペレーティング・システムと似たインターフェースを提供し、親しみやく、より直観的に機能を使用できるようにします。図 5 はその一例です。

図 5. XP スタイルの Web 2.0 ベースの次世代インターネット・バンキング
典型的なデスクトップ・オペレーティング・システムのようなレイアウトのアプリケーションを示すスクリーン・ショットです。サービスはアイコンで表わされています。ウィンドウに開かれている支払を管理するためのサービスは、デスクトップ・アプリケーションに似せてあります。

アクセシビリティーのサポート

インターネット・バンキングの顧客のなかには、色弱や色覚異常などの障害者がいる場合もあります。アクセシビリティーを必要とするユーザーが Web ベースのアプリケーションを使用することが多くなってきていることから、アプリケーションがそのようなユーザーのニーズを満たす必要性が高くなっています。さらに、ビジネスのアプリケーションにアクセシビリティーがあることを要件として規定している政府も少なくありません。Web 2.0ベースの次世代インターネット・バンキングは、完全なキーボード操作、スクリーン・リーダーなどを含め、アクセシビリティーをサポートします。


次世代インターネット・バンキングのアーキテクチャーと実装

次世代インターネット・バンキングは従来からのインターネット・バンキングの次なる進化の形であり、従来からのアプリケーションをベースに構築し、従来の銀行取引ページとプロセスを利用する一方、Web 2.0 のビジネス・モデルと技術を使用する上での新しい機能を提供するという方法を採れます。ここからは、そのようなアプリケーションの技術アーキテクチャーについて詳しく説明します。

技術アーキテクチャー

図 6 に、インターネット・バンキングの典型的なアーキテクチャーを示します。

図 6. 従来のインターネット・バンキングのアーキテクチャー
従来のインターネット・バンキングのアーキテクチャーには、この図に左から右へと示されている 3 つのコンポーネント領域があります。左にあるコンポーネントは Web 1.0 のプレゼンテーションを持つブラウザーです。中央はインターネット・バンキングのサーバー・サイドの構成で、ここにはチャネル・ハンドラー、チャネル管理、ロジック・コントローラーなどがあります。この中央の領域が、コネクターを介して ESB、メインフレーム、アプリケーション・プラットフォームなどのバックエンド・サーバーと対話します。

図 6 のアーキテクチャーでは、チャネル・ハンドラーがブラウザーからのリクエストを受信し、ブラウザーにレスポンスを送信します。チャネル管理モジュールは、チャネル・ポリシー、チャネル統合、チャネル対話などを制御するために使用されます。ロジック・コントローラーは、リクエストのコンテンツに応じて、対応するページ・ロジック・フローを呼び出します。ページ・ロジック・フローには例えば「口座振替」トランザクションなどといった銀行取引での操作とビューが含まれます。コネクターは、バックエンドのアプリケーションとも、サービス統合バスとも通信することができます。

次世代インターネット・バンキングには、従来のアーキテクチャーを基に、さらに賢いシステムにすることを目的として新しい Web 2.0 コンポーネントが追加されます。このアーキテクチャーを図 7 に示します。

図 7. 次世代インターネット・バンキングのアーキテクチャー
この Web 2.0 アーキテクチャーには、ブラウザー内のインフラストラクチャーと、新しい機能を作り出すサーバー・サイドが示されています。ブラウザーに含まれる Web 2.0 Workplace には、各種のウィジェットを介して機能するモデル層とプレゼンテーション層があります。ブラウザーが対話するサーバー・サイドには、機能が追加され、例えばチャネル・ハンドラー内では XML/JSON データがサポートされるようになっています。チャネル管理モジュールにも、テーマおよびスタイルの管理、レイアウト管理、そしてサービス管理の 3 つのモジュールが組み込まれています。

図 7 では、複数の新しいコンポーネントがサーバー・サイドとブラウザー・サイドに追加されています。サーバー・サイドでは、チャネル・ハンドラーがブラウザーとの通信を XML または JSON データ・フォーマットでサポートできるようになっています。この 2 種類の構造化データにより、サーバーとクライアントとの間でのリクエストとレスポンスに含められる内容が充実し、より多くの意味を持たせられるようになります。

XML/JSON 通信サポートの他にサーバー・アプリケーションに必要なのは、ブラウザー上に表示される GUI に関連する Web 2.0 のテーマとスタイル、そして Web 2.0 レイアウトを管理することです。テーマの選択、およびユーザーのスタイルおよびレイアウトの構成は、サーバー・サイドのデータベース、ファイルシステム、またはその他のリポジトリーに復元されます。ブログ・システムのような別の Web 2.0 アプリケーションでは、テーマおよびレイアウトは共有を目的に管理されますが、インターネット・バンキング・アプリケーションの場合、その目的はパーソナライズ、有用性、使いやすさです。目的が異なるということは、細かい機能に違いがあることを意味します。例えばインターネット・バンキング・システムでは、エンド・ユーザーに対し、最もよく利用されるサービス (そのうちの一部は他のサービスとの関係がある場合もあります) を組み込んだ何らかのデフォルト・レイアウトを推奨することができます。それと同時に、インターネット・バンキング・システムでは、エンド・ユーザーが目的のサービスをインターネット・バンキングに追加して毎回複雑なサービス・メニューを目にしなくても済むように、サービスを管理することも必要になります。Web 2.0 テーマおよびスタイル管理、Web 2.0 レイアウト管理、そして Web 2.0 サービス管理は、チャネル管理に新しく追加された重要な 3 つのモジュールです。これらのモジュールはユーザーの構成を保管し、クライアントに特定の構成を推奨します。例えば、誕生日が近づいているユーザーには「お誕生日おめでとう」を表示したり、定期預金 (CD) の満期が近づいた頃にサービスの選択肢の一覧を表示したりするといったことをクライアントに推奨します。

ユーザーのテーマ、スタイル、レイアウト、そしてそのユーザーが選択したサービスの記録は、チャネル・インテリジェンス・モジュールに送信されます。チャネル・インテリジェンス・モジュールはユーザーの行動データ、チャネル・データ、取引記録のデータなどを収集して分析し、そのユーザーに一致したパターンを見つけ出します。その結果を基にして、インターネット・バンキング・システムはエンド・ユーザーにサービス、製品、情報を推奨することも、銀行に対して潜在ビジネスの機会に関するアラートを出すこともできます。

ブラウザー・サイドでは、Web 2.0 フレームワークが重要な役割を果たします。Web 2.0 フレームワークの役目は、必要なリソースをロードし、データ・モデルを管理し、さらに GUI を表示および編成することです。従来の Web 1.0 インターネット・バンキングと比べると、ブラウザー・サイドでの処理量は遥かに多くなります。けれどもそれは、Web 1.0 プレゼンテーションを完全に置き換えられることを意味するわけではありません。レガシー機能やその他の要因により、Web 1.0 構造はこれからも長い間存続し、Web 2.0 フレームワーク内から実行されることになるはずです。


Web 2.0 コンポーネントの設計

前のセクションでは、次世代インターネット・バンキングの技術アーキテクチャーの一部を紹介しました。ここからは、このアーキテクチャーに含まれる重要な新しいコンポーネントに焦点を当てます。具体的には、Web 2.0 ブラウザー・サイド・ランタイム、Web 2.0 テーマおよびスタイル管理モジュール、Web 2.0 レイアウト管理モジュール、Web 2.0 サービス管理モジュール、そしてチャネル・インテリジェンス・モジュールです。これらの設計の一部は、IBM の Web 2.0 製品にすでに実装されています。

Web 2.0 ブラウザー・サイド・ランタイム

ブラウザー・サイドの Web 2.0 ランタイムは通常、JavaScript または RIA フレームワークです。ここでは JavaScript 技術に焦点を当てます。

図 8 に示すように、次世代インターネット・バンキングの GUI の主な構成要素は、サービス・リスト、作業領域、ウィジェット・インスタンスです。これらの構成要素はブラウザー・サイド・ランタイムによってサポートされます。サービス・リストには、ユーザーがサービス・リポジトリーから選択可能なサービスの項目が一覧表示されます。ランタイムはサービス・リストのモデルをサーバー・サイドから取得して GUI に表示し、ユーザーがカスタマイズした新しいサービス・リストをサーバー・サイドに保存します。Web 2.0 ランタイムのこの部分の設計は MVC パターンに従います。サービス・リストと同じく MVC パターンを活用する作業領域もサーバー・サイドに保存されます。ユーザーがさまざまな操作を実行することを可能にするこの設計は、パーソナライズされたユーザー独自のレイアウトとコンテンツを実現する上で有用です。例えば図 8 に示すスクリーン・ショットでは、ユーザーが新しいタブ、カラム、ウィジェット・インスタンスを追加したり、タブのタイトルとアイコン、カラムの幅、ウィジェット・インスタンスの位置を変更したりするなどの操作を行うことができます。

図 8. GUI の主要な要素
2 つのスクリーン・ショットに、GUI の主要なコンポーネントをさまざまなビューで表示できることを示しています。左側の例に示された作業領域は、典型的なポータル・スタイルのアプリケーションのような外観です。この作業領域では単一のブラウザー・ウィンドウに、サービス・リストとウィジェット・インスタンスが隣り合うフレームとして表示されています。右側の例に示されたインターフェースはオペレーティング・システムのデスクトップに似ていて、一連のアイコンとしてのサービス・リストとアプリケーション・ランチャーのようなメニューがあり、ウィジェット・インスタンスは自由に動く個別のウィンドウとして表示されています。

サービス・リストと作業領域に加え、ウィジェット・コンテナーも Web 2.0 ランタイムの重要な要素です。ウィジェット・コンテナーについて掘り下げる前に、ウィジェットの概念を明確にしておくと、ウィジェットとは個々にプレゼンテーションと機能を持つモジュールです。例えば、別の Web サイトにリンクするウィジェットや、RSS リーダーとして使用できるウィジェットなどがあります。現在、Yahoo!® Widget、Google® Gadget、IBM® iWidget などのさまざまなウィジェット標準が各企業によって規定されていますが、いずれもプレゼンテーションを扱うための標準です。これらのウィジェット標準の間には多少の違いがあるとは言え、ウィジェット定義に関しては、XML 定義ファイルと併せて各種のリソース・ファイルを使用するという同じプロトコルに従っています (図 9 を参照)。

図 9. ウィジェットの定義
javascript、CSS、画像、HTML、動画、音声などの各種リソースが XML 定義にバンドルされて 1 つのパッケージとなっています。

バンキング・サービスは、ウィジェット定義に基づいて実装し、ウィジェット・インスタンスに変換することができます。サービス実装には 3 つの方法があり、シンプレックス・ウィジェット・インスタンスとして実装するか、複合ウィジェット・インスタンスとして実装するか、あるいはウィジェット・インスタンスのグループとして実装します。シンプレックス・ウィジェット・インスタンスとはサービスが 1 つのウィジェット・インスタンスのみであること意味し、複合ウィジェット・インスタンスとは、サービスを表すウィジェット・インスタンスが複数の内部ウィジェット・インスタンスで構成されていることを意味します。ウィジェット・グループのインスタンスとは、複数のウィジェット・インスタンスが 1 つのサービスを構成するということです。図 10 に、この 3 つの方法それぞれによる単純な「口座振替」トランザクションの実装を示します。

図 10. サービス実装の 3 つの方法
サービスを実装する 3 つの方法が示されています。シンプレックス・ウィジェット・インスタンスでは、1 つのウィンドウに口座振替を行うためのフォームを示す、従来の HTML ページのようなものが表示されています。複合ウィジェット・インスタンスでは 1 つのウィンドウが 2 つのフレームに分割されています。一方のフレームには口座振替情報が表示され、もう一方のフレームではリストから口座を選択できるようになっています。ウィジェットのグループでも同じ機能が示されていますが、1 つのウィンドウがフレームに分割されるのではなく、それぞれの機能が個別のウィンドウに表示されています。

ウィジェット・コンテナーとはウィジェット・インスタンスのランタイムのことで、ウィジェット定義、そして構成された属性に基づいてウィジェット・インスタンスを生成し、ウィジェット・インスタンスをサーバー・サイドに保存および復元する役目を持ちます。ウィジェット・コンテナーは、JavaScript 技術によって実装することができます。

Web 2.0 テーマおよびスタイル管理

スタイル、テーマ、レイアウトは、ユーザー・エクスペリエンスに最も直接的に関係する要素です。ここで言うスタイルとは、Web 2.0 インターネット・バンキングが持つ特定のプレゼンテーション・フレームワークを意味します。例えば図 8 を見ると、インターネット・バンキングが 2 つの異なるスタイルに従って表示されていることがわかります。一方は「カラム」スタイル、もう一方は「デスクトップ」スタイルです。テーマとは、特定のスタイルに基づく設定 (フォント、色、背景、位置など) のグループのことです。図 11 に、同じ「カラム」スタイルに基づく 2 つの異なるテーマを示します。

ブラウザー・サイド・ランタイムは、CSS、JavaScript 技術、あるいは何らかの RIA 技術のおかげで、さまざまなスタイルとテーマに表示を適応させることができます。サーバー・サイドのモジュールは多種多様なスタイルとテーマを保管し、ユーザーのテーマおよびスタイルの保管データを管理してチャネル・インテリジェンス・モジュール用のデータを準備するとともに、チャネル・インテリジェンス・モジュールからのレスポンスを受け入れます。これらのレスポンスを基に、テーマおよびスタイル管理モジュールはマーケティングの推奨と顧客ケアを目的に、ユーザーに特定のスタイルとテーマを勧めることができます。

図 11. カラム・スタイルに基づく異なるテーマ
2 つのスクリーン・ショットに示されているデータと基本的なウィジェット・レイアウトは同じですが、ヘッダーと全体的なカラー・スキームは大幅に異なります。

Web 2.0 レイアウト管理

レイアウトとは、作業領域でのウィジェット・インスタンスの編成および配分のことです。「カラム」スタイルを例にとると、各ウィジェット・インスタンスは 1 つの行に属し、各行は 1 つのカラムのなかに収まり、各カラムは 1 つのタブのなかに収まり、すべてのタグが作業領域全体を構成しなければなりません。ブラウザー上のレイアウトの構成は、Web 2.0 ブラウザー・サイド・ランタイムが組み立て、維持します。一方、サーバー・サイドでは Web 2.0 レイアウト管理モジュールがレイアウトを維持できるように管理します。レイアウト情報は、XML ファイル、データベース、またはその他のリポジトリーに保存することができます。レイアウト・データは、ウィジェット・インスタンスのデータと密接な関係を持ちます。この関係を確立するために使用されるのは ID です。例えばカラム・レイアウトのデータでは、各行に一意の ID があります。ウィジェット・インスタンスのデータにおいては、各ウィジェット・インスタンス・ノードが持つ 1 つの属性に、そのウィジェット・インスタンスが配置される行の ID が値として設定されます。

ブラウザー上では、スタイルに依存する Web 2.0 インターネット・バンキングのレイアウトをユーザーが変更することができます。ユーザーは、頻繁に使用するサービスを選択して、そのサービスを作業域の適切な場所に配置することになります。したがって、ユーザーのレイアウト情報はデータ分析およびデータ・マイニングにとって絶好の情報源です。Web 2.0 レイアウト管理モジュールが収集するのはユーザーの現在のレイアウト情報だけではありません。過去のレイアウト情報も収集します。収集されたデータは、チャネル・インテリジェンス・モジュールに送信されます。

レイアウト管理モジュールは何千人ものユーザーのデータからレイアウト・テンプレートを収集し、一から始めたいという新しいユーザーを除き、そのテンプレートをユーザーに推奨します。

Web 2.0 サービス管理

ブラウザー・サイド・ランタイムの説明のなかで述べたように、次世代インターネット・バンキングのアーキテクチャーでは、サービスは 1 つ以上のウィジェット・インスタンスによって実現されます。実際の Web 2.0 インターネット・バンキングは何千ものサービスを提供するため、柔軟にサービスを編成すると同時に拡張性とパーソナライズをサポートする機能を提供する、適切かつ効率的なメカニズムが必要です。バンキング・サービス・リポジトリーとサービス・リストは、このような目的で設計されて実装されます。

バンキング・サービス・リポジトリーにはすべてのバンキング・サービスが含まれます。これらのサービスは、ウィジェットを構成することによって実装されます。ユーザーがインターネット・バンキングのページ上で表示できるサービス・リストは、バンキング・サービス・リポジトリーのサブセットです。サービス管理モジュールは、このバンキング・サービス・リポジトリーとサービス・リストを管理するためにあります。このモジュールは、ユーザーの個人情報、取引記録などに基づいて、そのユーザーに特定のサービス・リストを推奨します。ユーザーはバンキング・サービス・リポジトリーから必要なサービスを選択し、それを自分のサービス・リストに追加することができます。サーバー・サイドでのバンキング・サービス・リポジトリーおよびサービス・リストに含まれるサービスの作成、削除、更新、および検索を制御するのも、サービス管理モジュールです。バンキング・サービス・リポジトリーとサービス・リストでは、サービスが各種のカテゴリーに分類されます。以下の図に、バンキング・サービス・リポジトリーとサービス・リストの構成を示します。

図 12. バンキング・サービス・リポジトリーとサービス・リスト
この図には 2 つのボックスが示されています。一方のボックスはサービス・リポジトリーを表し、このなかには考えられるすべてのウィジェットが含まれます。もう一方のボックスのなかには、ユーザーが選択した特定のウィジェットの集合からなるユーザーのプロファイルが含まれます。

チャネル・インテリジェンス

チャネル・インテリジェンス・モジュールは、次世代インターネット・バンキング全体で非常に重要な存在となります。このモジュールによって、インターネット・バンキングがその顧客をどれだけ理解しているかが決まるからです。チャネル・インテリジェンス・モジュールは、ユーザーの行動データ、チャネル・データ、GUI データ (スタイルとレイアウトを含む)、取引記録などのデータを収集し、分析し、統合します。この統合されたデータが、顧客ケアおよびビジネス機会に有益な情報を得るために使用されます。チャネル・インテリジェンス・モジュールは、データ・コレクター、スマート・エンジン、結果ハンドラーで構成されます。チャネル・インテリジェンス・モジュールの出力には、さまざまな結果が含まれ、さまざまな用途で使用されます。例えば、図という形で表示される結果もあれば、イベント・エンジンあるいはチャネル管理モジュールに送信される結果や、ページ・フローに提供される結果もあります。チャネル・インテリジェンス・モジュールが中心となって、次世代インターネット・バンキングの各種コンポーネントの振る舞いが左右されます。

チャネル・インテリジェンス・モジュールの設計で重要な要素となっているのはスマート・エンジンです。スマート・エンジンは、その実際の用途と完成度によって、ルール・エンジン、計算エンジン、あるいはその両方をベースとすることができます。概して、強力なチャネル・インテリジェンス・モジュールには、理論と実際的経験から生まれた強力な計算エンジンが組み込まれます。チャネル・インテリジェント・モジュールを適切に設計するには、優れた技術アーキテクチャーとビジネス知識、そして有効かつ効率的なアルゴリズムを統合しなければなりません。そのチャネル・インテリジェンス・モジュールは社内で設計されることもあれば、一部の IBM ビジネス・インテリジェンス製品のように、サード・パーティーのエクスペリエンスを利用することもあります。図 13 に、チャネル・インテリジェンス・モジュールの構造を示します。

図 13. チャネル・インテリジェンス・モジュールの構造
チャネル・インテリジェンス・モジュールでは、履歴データ、スマート・エンジン、分析結果、統計結果などが複雑に組み合わされ、結果ハンドラーと対話します。そして結果ハンドラーが、適切なページ・フロー・ロジック、チャネル・ハンドラー、チャネル管理、イベント・エンジン、特定ユーザーに対するプレゼンテーションを提供します。

アプリケーションの実装

従来のインターネット・バンキングの動作環境は、オープンソースと商用ソフトウェア (IBM WMBTT (WebSphere® Multichannel Bank Transformation Toolkit)、IBM WebSphere ESB、IBM WebSphere Message Broker、IBM DB2、Spring Framework など) を組み合わせたものです。

次世代インターネット・バンキングには、そこに新しいツールが追加されます。オープンソース分野でのより堅牢なオファリングは、プラットフォーム全体でユーザーにリッチなエクスペリエンスを実現する標準と機能をもたらすはずです。市販の製品も、ユーザーが何を求めているのか、そしてユーザーが Web 2.0 環境でどのように行動するかについてのデータと経験が蓄積されるにつれ、より洗練されたものになっていくことでしょう。IBM には、開発者が金融アプリケーションに次世代インターネット・バンキングの力を活用できるようにすることを目的とした特定の製品を用意しています。例えば IBM WebSphere Bank Transformation Toolkit、IBM WebSphere Portal、そして IBM Lotus Mashup は、この記事で取り上げた新しい Web 2.0 コンポーネントの実装をサポートします。


まとめ

この記事では、インターネット・バンキングの設計に関連する Web 2.0 の概念と技術について詳しく説明し、金融アプリケーションの従来のスタイルと次世代インターネット・バンキングとの考え方の違い、設計上の違いについて見てきました。次世代インターネット・バンキングがもたらす顧客中心の機能は、極めてパーソナライズされたユーザー・エクスペリエンスを実現すると同時に、金融機関がそれぞれの顧客に適切な製品とサービスを販売するための情報を充実させ、自動化を促進します。

参考文献

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