レベル: 初級 杉浦麻耶, ITmedia
2007年 3月 16日 コーチという言葉の語源は「馬車」という言葉にあるといわれます。望む場所まで送り届けてくれる馬車のように、自身が望む場所へ導いてくれるコーチこそ現代の馬車であると言えます。本連載では、コーチングの酸いも甘いも理解し、その有効活用を図ってみましょう。
最近、書店や雑誌でもよく目にする「コーチング」。話には聞くけれど、実際どんなことをしているのか分からない、何だか怪しいのでは? という人も多いのではないでしょうか。実際にコーチングを受けるとなると、少々値段も張るだけに、どれほどの効果があるのかは前もって知りたいところです。
ここで朗報。コミュニケーションスキルを格段にアップさせるコーチングは、ビジネスからプライベートまであなたの株を上げる、知っておいて得するテクニックが盛りだくさんです。難しい人間関係や会社での振る舞いも、コーチングを活用することでよりスマートになるかもしれません。本連載では、このコーチングについて解説していきますが、よくある、ありきたりのコーチング解説にならないよう、具体的な活用術も交えながら、本当にコーチングは有用なのかを考えます。第1回となる今回は、まずコーチングの成り立ちやその概要を簡単に説明していきます。
そもそもコーチングって何?
コーチングとは、優れたスポーツコーチやカウンセラーが備えるコミュニケーションスキルを調査し、それを体系化したものを言います。コーチが相手に対し、聞いたり、質問したり、アドバイスをしながら、個人のやる気を自発的に起こす手法になります。主な目的は、相手のコミュニケーションスキルのアップであり、米国では1980年代の終わりごろに誕生したものですが、現在、米国の企業では、マネジメント層に対してコーチングのスキルを求めることが半ば常識となっています。日本でも1990年後半から会社組織、スクール事業、企業研修などで取り入れられるなど、徐々にではありますが普及の兆しを見せています。ちなみに、現在、存在するコーチングは主に2種類。個人に対し行われるパーソナルコーチングと、会社の社員を対象にしたビジネスコーチングです。
コーチは鬼コーチ?
コーチとはいったいどんな存在なのか? 小出監督やアニマル浜口氏のような「俺について来い」タイプ――読者には“星一徹”のようなと言えば通りがよいであろうか――は、コーチングで言うコーチ像とは大きく異なります。
スポーツのコーチを思い浮かべると分かりやすいでしょう。例えば、バレーボールのコーチに例えてみます。一方的に自分の戦略や考えを押し付けるコーチでは、よほどのカリスマ性がない限り、うまくチームも機能しないどころか、選手のモチベーションも上がらないでしょう。その反面、コーチが選手の可能性をうまく引き出すよう指導すれば、思いもよらぬ成果を選手自ら発揮する。つまり、コーチはまさに、自分の潜在能力を引き出してくれる存在なのです。スポーツではコートの中ということになりますが、会社や日常に置き換えてみましょう。個人の能力を引き出して、行動的なコミュニケーションができるように自分をサポートしてくれる手法がコーチングなのです。
必ず答えは相手の中にある
さて、コーチングとよく似た言葉として「ティーチング」が存在します。両者の違いを一言で言うなら、コーチングにおいてはコーチと受け手は対等の立場であるということです。ティーチングでは、知識や技術、経験などを一方通行で相手に教えますが、決してコーチは意見を提案したり、押しつけはしません。自ら意見を述べるのでなく、相手が何をしたいのか、実現したいのかを具体的に引き出し、相手に強い動機付けを与えることに主眼を置いています。コーチングの基本的な考え方は「答えを相手から引きだす」ことであり、相手に存在している答えを導くものです。コーチングでは、コーチが答えを持っているわけではありません。コーチは聴いて、考え、質問しながら、その人の中にある答えを見つけてくれます。その人の中にある答えだからこそ、自発的な行動で答えにたどり着くことができるのです。
コーチが導くバラ色の道
人は、ネガティブに考えることもありますが、ポジティブに物事をみることもできるものです。毎日元気ハツラツ! 前向きに過ごすことができるのなら、これ以上素晴らしいことはないですが、実際難しい、というのが本音でしょう。しかし、相手の可能性を引き出すコーチングなら、心の中に存在するネガティブな意識も明るい方向に差し替えてくれます。
例えば、同僚と同じようにがんばっているにも関わらず、契約がなかなか取れない営業の社員がいるとしましょう。具体的なアクションを起こすことにも積極的ですが、結果として出てきません。こういったとき、コーチはまずその人の中に眠っている過去の情報や経験をプットアウトさせます。この作業は、今までの経験を客観的にみることで、難題を乗り越えてきたことを認識させ、相手に自信を持たせることができるという効果があります。そして解決できない問題はないということを理解させ、ポジティブな心理へと導いていきます。つまり内容を整理しながら、新たな解決方法を模索する土台を作ってくれるのです。エネルギー不足にならないよう心に活力を与え、自ら選択し発進できるようチカラを補充してくれる、頼れる存在がコーチなのです。
にわかコーチングに注意
あなたのまわりにこんな上司はいないですか? 書籍から得た知識や数回の研修でコーチングをマスターした気になり、「本音を引き出し、部下を操作しよう」と考える典型的な「なんちゃってコーチ」です。心理学を少しかじったことを理由に自分は人心掌握ができるはずだと思いこむ人も、これと同類として挙げられます。
言うまでもないことですが、力をいれて、相手の心に土足で踏み込んでいくのは、コーチングではなく単なる命令や押しつけでしかありません。コーチとなる人の感情や方法論を発信することが重要なのではないのです。
例えば、「君、この企画のビジョンは?」「将来的に会社で何がやりたいんだ」などと唐突に聞くのは愚の骨頂です。部下の活気を上げたいのなら、「この間の成功した企画はいつ思いついたのかな?」といった、必ず答えられる質問を相手に投げかけ、小さな情報をまずは聞き出していくのがベターです。相手に「答えがない」ということは、生きている以上、まずないと考えてよいでしょう。相手を信頼して、遠回りをしてもいいから待つことが大切なのです。
そのために、コーチは聞くことに集中します。その中で、「はい/いいえ」で答えることのできない、オープンクエスチョンで質問をしながら話を要約していき、最終的には、相手の目標をサポートしていくのが本当のコーチングなのです。
誰もが持っている能力をアウトプットしてくれる
それでは、具体的なコーチングの流れとはどういったものでしょうか。コーチは、現状を把握しながら目標を達成するための明確な考えを導いてくれます。コーチは相手に鮮明なイメージが沸くように、具体的に内容を落とし込み、問いかける形で答えを導いていきます。通常、電話や対面で行われるコーチングは、週1回程度、定期的に行われることが多いです。
例として、会社で営業ナンバーワンをめざす社員に対するコーチングの流れをまとめてみました。
最初に、コーチは社員に対し目標や望む状態を聞きだします。
コーチ 目標はなんですか?
社 員 営業成績社内ナンバーワンになりたい
コーチ 具体的に望んでいる状態は?
社 員 成績もナンバーワンだけれど、お客様にされる営業でありたい
次に現状を把握していきます。
コーチ 現状の社内での成績は?
社 員 現在は2番手ですね
コーチ 理由はどうしてだと思いますか?
社 員 ナンバーワンの人に比べて、顧客の情報量の調べが少ないのかもしれない。
だから成績も上がらないし、ナンバーワンの人のようには支持されないのだと思う
コーチ では、相手の情報をもっと把握すれば、お客様の心を捉えることができ成績もアップするということですね
社員は、現状を聞かれることによって問題点がみえてきたようです。
コーチ では、どのような策が考えられるのでしょう?
社 員 お客様の情報をもっと丁寧に調べて、対策や企画を立てる必要があります
コーチ そうですね。情報の見直しをすればお客様の気持ちを掴む要素が増える上、
営業成績もあがる結果になりそうですね
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自分で考えることは簡単だと思っていても、誰かにアウトプットしカタチにしていってもらうことで答えをみつけることができるのです。コーチは、望む姿を一言で表現したイメージを社員から聞き出し、最後にもう一度具体的な策をまとめさせました。この場合は「お客様に支持され、営業成績ナンバーワンになる」ということになります。
以上のやり取りは、文章の関係上ごく簡潔に要約したものですが、コーチは一人では見えないものを発見させてくれる上、自分の中にあった答えを導いてくれる存在です。実際、多くのシュチュエーションで活用できます。ぜひ、さまざまな場面で役立てていきたいものです。
まとめ
本連載では、今後コーチングの裏も表も包み隠さず紹介していく予定です。あなたの人生のピンチを乗り切るための糧として役立てていただければと思います。
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