レベル: 中級 S. E Slack, Author and business transformation consultant, Freelance Writer
2009年 03月 31日 概要: クラウド・コンピューティングは発展の初期段階にあり、多種多様なプロバイダーが、クラウド・ベースの本格的なアプリケーションからストレージ・サービスやスパム・フィルタリングに至るまで、さまざまなサービスを提供しています。クラウド・コンピューティングとは何か、そしてクラウド・コンピューティングが将来のアーキテクチャーに及ぼす影響について学びましょう。
コンピューティングに関する 1 つのトレンドが明確になりつつあります。そのトレンド自体は驚くべきことではありません。技術を愛する人達は、絶えず自分を高め、パーティションの向こう側にいる明晰な同僚よりも先を行こうと努力しており、技術を実装するための賢明かつ優れた方法を考え出そうとしています。ある面で、これはチェスと似ています。チェスのプレーヤーは相手に勝つために最後まで手を探し続けますが、必ずしもチェックメート (訳注: キングが逃げられない状態に追い込まれること) でゲームが終わるとは限りません。
しかし一部の人達にとっては、このトレンド自体がニュースかもしれません。そのトレンドというのがクラウド・コンピューティングです。クラウド・コンピューティングは、インターネットのユーザーが、ほとんど無限に広がる相互に接続されたサーバーの膨大なネットワーク内にあるサード・パーティーの共有コンピューティング・リソースにアクセスするプロセスです。こうしたリソースのクラウドを利用することで、あらゆる規模のビジネスにおいて IT (Information Technology) コストの削減や、データ・ストレージに対する要求の効率的な管理が可能になり、全体としての柔軟性を高めることができます。世界経済が急速に落ち込む中、この 12 ヶ月から 18 ヶ月の間に最も意味のある技術革新としてクラウド・コンピューティングが登場してきたことは納得できることです。
クラウド・コンピューティングの本質を探る
IT の経済的な側面は急速に変化しており、特に大企業は事業の継続性を維持するために、リソースを安価に確保する新たな方法を探し求めています。アイスランドのように国家が経済破綻に直面するような時代になってきていることを考えれば、ほとんどの組織で急速にクラウド・コンピューティングが利用されるようになってきている状況は、容易に理解することができます。クラウド・コンピューティングでは、ストレージ・コストを何百万人ものユーザーで共有することができ、良質で信頼性の高いユーザー・エクスペリエンスが得られ、強固なセキュリティーを実現できることから、クラウドの魅力に惹かれる組織や政府が増え続けています。
私はこの記事を書くための準備として、信頼できて理解しやすい説明ができるように、クラウド・コンピューティングに関して同じ定義をする確実なリソースを少なくとも 2 つ見つけようと必死に努力しました。比較的新しい概念の場合には驚くべきことではないかもしれませんが、そうしたリソースを見つけることはできませんでした。私が見つけた「正式な」定義はどれも、クラウド・コンピューティングの概念に関して異なる視点を持っており、さらには標準や定義を定めてくれると私たちが考えている人々でさえ、決して同じ説明をしていません。
O'Reilley Media の Tim O'Reilley は Web 2.0 という言葉から最初に連想される一人だと思いますが、彼は「クラウド・コンピューティングは Web 2.0 の基礎の 1 つだと思います。私達が今日コンピューターと見なしているものはすべて、実際には私達全員が集団で構築している巨大なコンピューターに接続するための単なる機器にすぎません。クラウド・コンピューティングはネットワークのネットワークであり、将来どのようなコンピューティング・システムを実現するのがよいかを考えるための素晴らしい手段でもあります。」と言っています。
CNET の Dan Farber は、次のようにもう少し具体的なことを言っています。「クラウド・コンピューティングはインターネット (つまりクラウド) を使って、大量のデータやアプリケーション、その他のものを保存できるという概念です。」Farber の視点によれば、今日の基本的なコンピューティング・プラットフォームには、デスクトップ・アプリケーション、モバイル・アプリケーション、そしてクラウドという 3 つがあります。
Google の Kevin Marks は最もイメージしやすいと思える説明をしています。「クラウド・コンピューティングの概念は、ネットワークを雲 (クラウド) として描いたインターネットの初期の頃に由来しています。私達はメッセージがどこに行ったのかは気にしませんでした。メッセージは一方から入ってきて、もう一方から出て行き、私達はネットワークのことを心配する必要はありませんでした。なぜなら雲 (クラウド) によってネットワークは私達から見えなくなっており、ネットワークという巨大なバケツ (バケット) の周りには雲 (クラウド) があったからです。」
こうした、まさに雲をつかむような定義を分析してみると、クラウド・コンピューティングは基本的に、どこかにあるリモート・サーバー上で実行されるコンピューティング・アクティビティーで構成される、という結論に達します。ほとんどすべてのことに対してインターネットを使用し、ラップトップ・コンピューターやデスクトップ・コンピューターはインターネットや実行対象のあらゆるアクティビティーに接続するための単なるパイプとなるのです。
クラウドの及ぼす影響
CNET の Farber によれば、私達は最終的に、データやアプリケーションをクラウドの中に格納したり、アプリケーションの作成作業を直接クラウドの中で行ったりするようになるでしょう。実際、クラウドは、電気が供給されるのと同じように、至極当たり前のものになるでしょう。つまり私達は電気を使用し、そこに電気が来ていることは知っていますが、どのようにして電気がそこまでやって来るのか、どのような仕組みで電気が使えるのかなどを深く考えることはありません。クラウドもそれと同じです。IT の専門家は彼らが管理しているサーバーがダウンしないであろうと知っているので、夜に熟睡することができ、オペレーション担当の人達は、ポケベルを持たずにバケーションに出かけることができ、そしてユーザーは自分達に必要な、ありとあらゆるものにアクセスすることができるのです。
よくわかりました。クラウドとは何か、クラウドがどんなものになりうるかの説明はもう十分です。しかし「空にあるネットワークのネットワーク」という一般的な概念に従うと、クラウド・コンピューティングが IT アーキテクチャーのあらゆる側面にどう影響するのかが見えてきます。例えば、単純にクラウドにアクセスし、クラウドを使ってアプリケーションの開発や管理ができるのであれば、一体誰がアプリケーションのアーキテクチャーを必要とするのでしょう。
理論的には、大量の作業が必要なくなります。現在の経済状況を考えると素晴らしいニュースではないでしょうか。しかし考えてみてください。クラウド・コンピューティングによって、IT 部門は例の面倒なデスクトップやラップトップのみを管理すればよくなります。いくつかの周辺機器も管理する必要があるかもしれません。しかしサーバーは必要なくなります。雲 (クラウド) の中にある何億兆台ものサーバーを利用できるなら、サイトにはサーバーは必要ありません。必要に応じて単純にクラウドに接続するだけでよいのです。
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IBM と Amazon Web サービス (AWS)
IBM と AWS はチームを組み、仮想コンピューティング環境で IBM ソフトウェアを利用できるサービスを提供しています。このサービスでは、Amazon EC2 で得られるエクスペリエンスを利用することで、ユーザー自身のシステムにインストールしなくてもソフトウェアを評価したり使用したりすることができます。また、ほとんど瞬時に容量を調整することができ、企業対応のアプリケーションを信頼性の高いハイパフォーマンス環境で構築できる上、料金は使用した時間と容量に対してしか発生しません。IBM が EC2 で提供しているミドルウェアは以下のとおりです。
- DB2 Express-C 9.5
- Informix Dynamic Server Developer Edition 11.5
- WebSphere® Portal Server と Lotus® Web Content Management Standard Edition
- WebSphere sMash
これらは製品レベルのコードであり、すべての機能とオプションが使用可能です。これらの製品の詳細について、またこれらの製品の Amazon Machine Images のダウンロードに関しては、developerWorks の Amazon EC2 クラウド・コンピューティングのページを参照してください。
クラウド・コンピューティングに関する他のリソースについては、developerWorks の Cloud Computing スペースを参照してください。
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ただし物理的な IT インフラの管理作業が膨大な大企業であっても、クラウド・コンピューティングを利用するメリットはあります。そうした企業にとっての最大のメリットはデータ・ストレージでしょう。クラウド・アーキテクチャーでは、ほとんど無限に近いデータ・ストレージを管理することができ、しかも多くの場合コストは従来のオンサイト・ストレージ・オプションよりもはるかに低くなります。このデータ・ストレージこそ、多くの組織が真剣に検討し始めている領域です。一例を挙げましょう。AWS (Amazon Web サービス) では (そう、あの Amazon です)、Amazon S3 (Amazon Simple Storage Service) というクラウド・ストレージ・アーキテクチャーを提供しています。このサービスは 2006年7月に開始されました。それから 1 年も経たないうちに、このサービスでは顧客のオブジェクトとして 8 億ものオブジェクトを保管するようになりました。そして 2008年1月にはそのオブジェクトの数は 140 億にまで達しました。Amazon S3 の費用は使用したストレージのギガバイト当たり毎月 0.15 米ドルと低く抑えられており、このことが、ビジネスでストレージ用にクラウドを採用する、冷静で確かな理由の多くになっています。
Amazon S3 の成功を受けて、Amazon はすぐに 3 つのサービスを追加しました。それが Amazon EC2 (Amazon Elastic Compute Cloud)、Amazon SQS (Amazon Simple Queue Service)、Amazon SimpleDB です。この 4 つのコア・サービスで AWS は構成されています。つまり AWS はプラグアンドプレイのインターネット・クラウド・サービスであり、ストレージ、コンピューターによる処理、メッセージ・キューイング、データベース管理システムを備えています。今や 370,000 人を超える開発者が Amazon のアプリケーションと容量を使用しており、オンサイトのソフトウェアやサーバーが削減されています。
リーダーの後を追う
ビジネスの世界でまさに名だたる大企業がいずれもクラウド・コンピューティングに投資しようとしており、Amazon の後を追おうとしています。例えば Microsoft® は Windows® Azure™ Services Platform を通じてクラウド・コンピューティングによるオペレーティング・システムを提供しており、インターネット経由で Microsoft のデータ・センターを使用することで Web アプリケーションのホストやスケーリング、管理を行うことができます。
Sun Microsystems もクラウド・サービスを提供しようとしており、彼らが提供する予定のサービスでは、開発者がクレジット・カードでクラウド・サービスを購入できるようです。Sun によると、こうしたサービスを提供すれば、開発者は単に作業を仕上げたい場合に IT の調達手続きが必要なくなり、また計算インフラを構築する必要もなくなります。これはまた、オープンソース・コードのオプションとしてクラウド・コンピューティングを使用する試みでもあります。なぜなら、Sun の製品コード (MySQL など) が迅速かつ容易にダウンロードで入手きるようになり、企業内の手続きによって入手が遅れることがなくなるからです。
正直なところ、一部のアプリケーションはクラウド内で動作させた方が性能は高くなります。さまざまな組織が、コストを下げ、生産性を高める上でクラウド・コンピューティングがどう役立つかを検討しているもうひとつの理由が、この点にあります。例えば、Sun Microsystems は高度な 3 次元コンテンツの作成を支援するクラウド・ベースの Blender を作成しました。クラウドの中では、そうした種類のコンテンツ作成にも数分しかかかりません。従来のデスクトップであれば何時間もかかります。
純粋に利用者の観点から見ると、なぜクラウド・コンピューティングのサービスが順調に伸びているのかを容易に理解することができます。The Pew Internet & American Life Project によると、オンライン・サービスを利用するアメリカ人の 70 パーセント近くが Gmail などの Web メール・サービスを使用したり、データ (個人の写真や動画など) をオンラインで保存したり、あるいはワープロや表計算プログラムなどの Web ベースのアプリケーションを使用しています。それはなぜかというと、便利だからです。Web に接続されたどの機器からでも、瞬時にしかも常時アクセスできるおかげで、ユーザーは一日中自由に動き回ることができます。それほど多くの人々が、そのようにして個人用のオンライン・リソースを使うことに違和感を持たないのなら、オンライン・リソースを仕事に使うのもわけありません。1990年代の初めにインターネットが登場した当時のような未知への恐怖はもはやありません。人々はインターネットに慣れており、彼らの生活の一部であることを当然と思うようになっています。
Blue Cloud
IBM は、まだクラウド・コンピューティングの概念が「こうであったら素晴らしいと思いませんか」というような段階であった数年前の時点で、すでにクラウド・コンピューティングの価値を認識していました。その成果が、2008年の前半にエンタープライズ IT に導入された IBM® Blue Cloud™ です。Blue Cloud は、IBM の BladeCenter® サーバー、Linux® オペレーティング・システム、X ベースの仮想化、そして IBM 独自の Tivoli® 管理ソフトウェアを使用しています。Blue Cloud は要するに、オープン・スタンダードとオープンソース・ソフトウェアをベースとしたクラウド・コンピューティングによる一連のサービスであり、マッシュアップ、オープン・コラボレーション、ソーシャル・ネットワーキング、モバイル・コマースなどの Web 2.0 機能の実現に向けて企業を支援するものです。
少なくとも私が見る限り、IBM Blue Cloud には大きなメリットが 2 つあります。第 1 に、クラウドに Tivoli を使用しているため、企業はコストを削減できるとともに最低限の作業を行えばすむようになっています。例えば Blue Cloud を利用することによって、データ管理に関する手動ステップを削減することができ、データ・センターの自動化を促進することもできます。また、リソースの動的なプロビジョニングと割り当てによってワークロードの変動を適切に管理することができ、IT リソースをより安定したレベルで実行させることができます。さらに、Tivoli には消費電力を管理する機能があり、サーバーを使用していない場合にはスタンバイ・モードに切り換え、使用する場合には瞬時にサーバーを回復することができます。
第 2 に、Blue Cloud は「ネットワークのネットワーク」という一般的な概念にとどまることがなく、さらにそれを発展させた形で提供してくれます。つまり Blue Cloud では、サービス・プロバイダーの基本的なセットアップを模倣した IT サービスのアーキテクチャーにすることができるのです。そのため、社内のサービスを、パートナーや顧客、サプライヤー、ベンダー、プロバイダーなどのサービスと統合することができます。
私にとって Blue Cloud の最も興味深い部分は (当然ながら基本的なクラウドの概念を除くと)、IBM が Blue Cloud のターゲットとしているように見える組織や機関がどういうところか、という点です。IBM は Blue Cloud に関して既にいくつかの政府 (ベトナムなど) と取引をしており、また、カタール、日本、サハラ砂漠以南のアフリカなどの学校システムもターゲットにしています。Qatar Cloud Computing Initiative は中東での最初のクラウド・プラットフォームであり、IBM の Cloud Computing Center は Hadoop プログラミング・モデルに関するアプリケーション開発に携わるアフリカの大学間のアライアンスを育てるために使われています。クラウド・コンピューティングにおける他の主要な企業はビジネスの世界をターゲットにしていますが、IBM は利益の得られる独自のニッチなターゲットを密かに見つけたようです。
まとめ
長期的には、確かにクラウド・コンピューティングには価値があることを私は認めます。この数年間と同じように世界が相変わらず経済問題で苦しむとすると、クラウド・コンピューティングはあらゆる規模のビジネスに対して着実に真の影響を与え始めるでしょう。クラウド・コンピューティングによって、小さな企業にはより対等な条件で大企業と競争できるチャンスが与えられ、また大企業はコストや技術要求を削減することができ、個々の顧客レベルのサービスで競争を行えるようになります。
クラウド・コンピューティングを「単なるトレンドのひとつ」として片付けてしまう人達は、あらゆる規模の組織にクラウド・コンピューティングによる機会が与えられていることを見逃す可能性があります。1990年代の初めに、Microsoft が当初インターネットによる機会を見逃していたことを思い出してください。私の従兄弟は Microsoft に初期の頃から在籍していて大金持ちになった 1 人で、Microsoft と共に生き、Microsoft の空気を吸っていました。彼は 1993年に、インターネットは「決して」実用化されないだろうと冷静に言いましたが、そのときの彼の話しぶりを私は決して忘れません。彼は私に「インターネットを一体何に使うのか」と尋ねたのです。Marc Andreesen は、もちろんその質問に対して声を響かせながら「すべてのことに」と答え、Netscape を作成し、何百万人もの人々に Web を紹介し、そして 1990年代後半のウォール街での IPO (Initial Public Offering: 新規株式公開) ブームを引き起こしました。Microsoft はそれに対する大きな間違いを認め、懸命に巻き返しを図り、そして Windows Internet Explorer® によってインターネットでの主導権を奪いました。
実は問題は「クラウド・コンピューティングが私に何をしてくれるのか」ではなく、「私の組織でクラウド・コンピューティングをどう使いこなせばよいのか」なのです。まだそのように自問していない人は、ぜひとも自問してみる必要があります。
参考文献 学ぶために
製品や技術を入手するために
議論するために
著者について  | 
|  | S.E. Slack はライターとして、これまで 10 冊以上の技術書を執筆しています。彼女は家族と共にコロラドに住んでいます。彼女の最新の既刊書は『PowerPoint 2007 Graphics and Animations Made Easy』(2008年、McGraw-Hill 刊) です。 |
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