SE関のノーツ/ドミノ徒然草: 第9回 情報共有は文化や組織との戦い

前回とりあげたワークフローと同様に、ノーツで最もポピュラーなアプリケーションとして考えられるのが情報共有のアプリケーションです。実際、多くのお客様が、『会社内の情報共有をもっと進めたい』という掛け声のもとにノーツの展開をしている姿が見受けられます。しかしその反面、『ノーツを入れたが情報共有が進まない。どうにかよい手はないか。』という相談も多々うけます。ある有名なノーツのコンサルタントの方はごく最近でも、『日本では欧米のようにグループウェアで本格的に情報共有が進んでいる企業はほとんどない』などと語っており、私も実は感覚としてはこれに近いものを持っています。今回はこの情報共有について考えてみましょう。

Lotus クライアント テクニカル プロフェッショナルズ, ソフトウェア事業, 日本アイ・ビー・エム株式会社

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2008年 5月 30日

まず情報共有をまじめに定義してみると、『会社に埋もれている知識や知恵などのいろいろな業務上のノウハウを掘り起こし、これらを多くの社員で共有し利用することで、生産性などを飛躍的に高めたり、新しいアイデアを生み出したりすること』とでも言えましょう。これに対して、一昔前からこんなことが言われていました。『日本の企業は大部屋に多くの社員が机をならべていることから、個室や仕切りのある欧米に比べて情報共有が自然となされる』。『飲みニケーションによって日ごろ会社では伝わらない情報をお互い共有化できる』。『できる社員を見習え。彼らは個人のコネを使って組織の外の人からの情報を得て利用している』。このように日本では、組織の中で通常に働いていては伝わってこない情報を、日本的な習慣の中で情報共有するように努力されてきたとも言えます。しかし昨今の中途採用の増加、終身雇用の崩壊、急激な国際化、そして仕事自身の多様性と複雑性から、協業やアイデアの交換を、多くの"知らない人"とより多くの"飲む機会のない人"とやらなければならないのは事実です。つまり明らかに日本的な仕組みだけでは情報共有は達成できず、やはりシステム化によって根本的に効率をあげる必要性にせまられているとも考えられます。

そこでノーツが情報共有のための一つのシステム的な仕組みとして利用されるようになったということでしょう。ではシステム化すればなんとかなるのでしょうか。典型的な例を一つあげましょう。例えば多くの組織で行われている、定期的またはイベントでのレポートのようなものを共有化するシステムを考えましょう。これは営業部門でも製造部門でもサービス部門でもかまいません。ともかく各社員がその期間中やイベントの発生で行った仕事、その中での問題点、そしてその解決策など、多くのノウハウにつながる情報が書かれている可能性があります。現状では紙で存在したりするレポートをノーツの文書として入れさせるのがこの情報共有アプリケーションでしょう。

システムは例えばこうなることがよくあります。社員が入力したレポートの文書は、紙の場合と同じようにまず課長に提出します。これはノーツの仕組みとしては、課長にのみ公開された文書をデータベースに作成することです。課長はそれを確認して問題なければ承認の意味で公開のボタンを押します。これでこのレポートは部長、本部長にと公開されることになります。さて今回のシステム化は情報共有による社員の生産性向上ですから、公開された文書は部長や本部長にだけでなく他の社員にも見ることができます。但しその範囲は業務の性格が似ている同じ部内だけです。

さて、これでどんな効果が期待できるでしょうか。確かに課長の承認後は部内全体や本部長レベルに公開されるのですから、ある程度互いのノウハウが共有されるかもしれません。ただ失敗事例など課のイメージとしてマイナスになることなどは場合によっては課長が書きかえたり、承認せず公開しなかったりできます。それに公開される範囲が部では、同じような製品やサービスを同じ立場での視点で見た情報しかわからず、とっぴなアイデアや発想の転換をうながすような情報に触れる機会も少なくなるかもしれません。これは情報共有のシステムと言うより、レポート効率化システムと言ったほうがよいでしょう。

情報共有の理想からすると、レポートの種類にもよりますが、全社員とまではいかなくとも、書いた直後から部を超えて、関連する製造、営業、サービスの各部門に公開されるのがベストかもしれません。しかしそのような理想をなんとなく分かっているお客様でも、実際のシステム化の過程ではこのような声からあっという間に上の例のシステムとなりがちです。『課長が承認していない文書を公開するわけにはいけない』。『課長が見る前に部長や本部長が情報を見るのはまずい』。『部を超えて文書を公開すると、不心得の社員によって機密が漏れる』。ほかにもいろいろな意見が特に中間管理職からでてきます。挙げ句のはてには『これはうちの会社の文化だから変えられない』。これではシステム化でなく『飲みニケーション』でもしなければ生きた情報は共有できないでしょう。

このような傾向はほとんどの会社で見られるでしょう。紙をベースに作られていた仕組みは特にそうですが、そこには組織を骨格として、さらに長いあいだに積み重ねられできた文化的なものが厳然と存在していると言ってもいいでしょう。『うちの文化』という響きは、どこかの国が米の輸入自由化の際に口にした、まさに最後のあがきのようにも聞こえてきます。ただ、課長より部長、部長より本部長と、より上位の管理職をユーザーとして声を求めると、『そんなものは見せてもかまわない』という意見もめずらしくありません。文化と言っていたものは実はそんな香りたかいものではなく、特に中間管理職を中心に存在している習慣とか、はたまた因習のようなもので、実は何かの拍子ですぐに変えうるものなのかもしれません。

また非公開にすることのコストも見逃せません。課長のみに見せる、部内だけ見せると言っても実はこれはたいへんです。人事データを検索してノーツのグループ文書やレポート内の読者フィールドを決めなければいけないでしょう。また人事異動があればそれに伴ってそれらを連動させる必要があります。そして場合によっては、部には存在しないけど部と行動をともにしたり、プロジェクト的に臨時で部の仕事をしてもらう人にもその情報を見せるために、手動などの方法でそれらの見せないための仕組みを作りあげなければいけません。実にこのような状況はまさに昨今の人事の流動性と柔軟性、そして分権化によって強まる一方なのです。つまり隠すこと、それをし続けることのコストはかなりなものであり、かつ増え続けているのです。でも文化のためには隠すのでしょうか。一方、公開すると決めればイントラネットという範囲である限りはコストはほとんどかからないで済むのです。考えてみれば紙でレポートを実現した場合は、公開するためにはそれをコピーしたり配ったりするためにコストがかかり、非公開にするにはそのままでコストがかからないというのも、まったくとシステム化と逆のおもしろい話です。

一方こういった意見もあります。『知らない部の人に見られると漏洩の危険性がある』。たしかにそうでないとは言い切れません。ただその知らない人たちにも部の機密情報があり、彼らもその会社の一員として倫理観をもって仕事をしているわけです。その部の外の情報を漏らすというのは、その情報の意味がわかれば普通の社員であれば漏らすことなどないはずです。ほんの一部の機密情報を除けば、ほとんどはかなり広範囲に公開することで、その公開によるメリットは大きいのではないでしょうか。

情報共有のシステム化はまさにこういった議論との戦いです。公開するためのシステムはたやすく開発できても、非公開にするためのシステムは、開発と運用のコストも高く、そして効果も疑問がわいてきます。このようなノーツのアプリケーション開発に携わる人はノーツの開発技術もさることながら、こういった議論に挑戦していく勇気が必要に思えてきます。このシステムの理念を考えた人は、あくまでお客様の側にいたはずです。組織とは、文化とはと言った言葉と格闘しなければ最終的に本当に喜ばれるシステムは作れないのではないでしょうか。もちろんお客様がこれらの意味を十分理解して、トップダウン的に大きな力で推進してくれることも必要であることは言うまでもありません。またどんなシステムにせよお客様の意見をできるだけ実現するのが良い開発者だと言われるかもしれません。ただ長い目で見て、システムが使われるようになってお客様から開発者が評価されるとき、もう一度高い値段でも開発を頼みたいと思わせるのは、はたしてどのような開発者でしょうか。

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