SE関のノーツ/ドミノ徒然草: 最終回 それはフォーラムから始まった

ノーツ徒然草の連載をはじめてから39回、約4年がたちました。実は今回をもってIBMのホームページから"SE関のノーツ徒然草"の連載は終わりにさせていただくことになりました。そこで今回は最後のテーマとして、私自身がノーツの仕事をはじめることになったきっかけを紹介させていただき、そこから見えてくるグループウェア、ノーツの実現するものについて考えてみたいと思います。

Lotus クライアント テクニカル プロフェッショナルズ, ソフトウェア事業, 日本アイ・ビー・エム株式会社

Lotus クライアント テクニカル プロフェッショナルズ, ソフトウェア事業, 日本アイ・ビー・エム株式会社



2004年 2月 17日

ノーツが世の中にはじめて登場したのは1989年。しかし私が後にノーツの仕事をはじめるきっかけは、更にさかのぼって1985年ありました。当時はもちろんまだパソコンもコンピュータとしての能力が低く、ネットワークも社内ですら十分ではなく、まして外のネットワークであるインターネットはまだ産声をあげたばかりのころです。当時、私はIBMでメインフレームコンピュータ系の仕事を研究所という所属ながら、研究所から遠く離れた小さなオフィスではじめることとなりました。

そんな寂しい、物理的には技術的な刺激の少ない環境の中で唯一楽しみだったのが、IBMのメインフレーム上に構築された、今で言えばイントラネットのような社内ネットワーク環境でした。IBMは当時、世界中に数千ものメインフレームを社内に保有し、その多くを今から思えばかなりの低速のネットワークで相互に接続していました。こんな環境の中で、IBM社内のまったくの有志が世界中の研究所および技術者同士でコミュニケーションするために、独自のメール、独自の電子会議、独自の文書/プログラムライブラリーなどを80年代のはじめから構築していきます。まさにメインフレーム上でのグループウェアと言える仕組みでした。それらはフォーラム/ツールズと名づけられて、世界中に散らばるIBMの研究者、エンジニアによって使い始められていました。

フォーラムという電子会議ではそのテーマと会議室の数が何千にも広がり、90年代に入る直前には推定で10万人、つまり当時の全世界のIBM社員の4分の1近くの人が閲覧しているというデータもありました。ツールズという文書/プログラムライブラリーにはさまざまな社員が独自のアイデアで、まさに今のインターネットのフリーソフトのように、すばらしいプログラムや技術文書が毎日どんどん登録されていき、中には現在の製品の元となったりするものも現れました。

そんな環境を先輩から教わった私は、毎日必ずそれらの電子会議を読み漁り、毎日登録される新しいプログラムや文書群から面白いものをダウンロードして利用していました。もちろん仕事でも関連する電子会議に質問をなげたり、つたない英語でヒントを書いたり、仕事に役立ちそうなプログラムを探したり、さらには自分のプログラムをアップロードしたり。ある時は仕事で行き詰まっていた答えをもらったり、ある時は新しいプログラムのアイデアを考えるヒントをもらったり、ある時は自分のプログラムで感謝されたり。まさにネットワークでの新しい体験と感動でした。

もしこのフォーラム/ツールズと名づけられた仕組みがなかったら。小さなオフィスにいた私はいろいろな人から技術的なアドバイスをもらえず、技術的な刺激も少なく、仕事の生産性はもちろんのこと、その仕事が長続きしたかどうかさえ怪しいものです。小さなアジアの果てのオフィスにいる新米のエンジニアが、世界中のIBMのエンジニアから資産を手に入れ、エンジニアと対話しアイデアを引き出し、またはアイデアを与える。どうでしょうか。今日、グループウェアでとりあげられた、インターネットで騒がれている、ナレッジマネージメントで言われている、それに似たものがすでにそこに存在していたように思えます。情報の共有、そしてその平たい言葉の先にある、知識や知恵の共鳴とか増大とかそのようなものかもしれません。

そんな環境を経験していた私には、ノーツの出現はまさに、『これは仕事の仕方を変える』という確信のようなものを感じさせるものでした。メインフレームのような高価なものでなく、手軽にユーザーが利用できる環境としてのシステム、そしてそれによって達成できるだろうあの感動です。あとはノーツが日本に上陸するとともにこの分野のエンジニア、コンサルタントして今日まで走ってきたわけです。

そこで今、私の頭にあるのは、ノーツはあの15年前に私が体験できたものをどれだけ実現し、そしてどれだけ超越したのかという疑問です。もちろんメインフレーム上でのグループウェアではそのユーザーインターフェースの限界がありました。アプリケーション開発も専門家でなければできるものではありませんでした。ノーツは、安価なクライアントサーバーシステム上に、グループウェアの基本要素である、メール、掲示板、電子会議、ライブラリーなどをもちろんすぐに利用できるようにしただけでなく、いろいろなコラボレーションのためのアプリケーション開発が容易にできるものでもあります。はるかに高機能を、はるかに短期間で安価に実現できるという観点では15年前とは技術的に比べ物になりません。

ところがいろいろなお客様のノーツ展開をお手伝いし、その広がりや使われ方を見ていると、新しい仕事の仕方を体験し発展しているすばらしい展開もある一方で、ノーツを使っても大きな変化がでてこないという例も見てきました。かくいうIBMもノーツを5年前にメインフレームから置き換えて使っていますが、あの15年前にメインフレーム上で興っていた世界がすべてノーツで再現され発展しているわけではなさそうです。

いったいこれは何でしょう。すぐれた技術が必ずしもすぐれた効果や新しい体験をもたらさないとでもいうのでしょうか。例えば同じ電話という技術を使っても、会社によって、国によってはその利用の仕方に差が見られたりもします。技術の展開の仕方、展開する先の文化、その技術の管理の仕方など、かなり人間的かつ組織的な要素が大きく影響しているように思えます。

実はこれはこのノーツ徒然草の常に隠れたテーマの一つでもありました。4年間連載しつづけて部分的なヒントはいくつかあげてこられたかと思います。しかしまだまだ普遍的なものには程遠いという気がしています。最近、こういったテーマは技術論からやや離れてナレッジマネージメントとか会社内のコミュニティーというような形をとって経営コンサルタントにもとりあげられることが多くなりました。しかしこれらが基本的には技術を使うという側面が必須である観点から、SEのようなエンジニアにとって避けては通れない、また積極的に取り組まなければいけないテーマであるように思えてなりません。

このIBMホームページでの連載は今回で終わりとなります。私自身ノーツから離れるわけでもありませんし、ノーツが製品として成長をやめたわけでもありません。IBMのホームページからグループウェアのページがLotusに集約されたのをきっかけにIBMの下での連載の終了を決めさせていただきました。ただ、このような知識と技術の関係というテーマについては、引き続きこの連載の続編としてIBMホームページを離れて、ITプロフェッショナルのための専門サイト@ITで春より連載する予定です。

この連載を4年近くも続けることができたのは、まさにたくさんの読者の皆さんからのメールや声によって叱咤激励されたおかげです。また取り上げたテーマは私のお客様の現場での課題からアイデアをいただいたものがかなりあります。まさに読者およびお客様とのコラボレーションを通じてできあがった連載といえます。心より感謝したいと思います。本当に長い間ありがとうございました。

参考文献

コメント

developerWorks: サイン・イン

必須フィールドは(*)で示されます。


IBM ID が必要ですか?
IBM IDをお忘れですか?


パスワードをお忘れですか?
パスワードの変更

「送信する」をクリックすることにより、お客様は developerWorks のご使用条件に同意したことになります。 ご使用条件を読む

 


お客様が developerWorks に初めてサインインすると、お客様のプロフィールが作成されます。会社名を非表示とする選択を行わない限り、プロフィール内の情報(名前、国/地域や会社名)は公開され、投稿するコンテンツと一緒に表示されますが、いつでもこれらの情報を更新できます。

送信されたすべての情報は安全です。

ディスプレイ・ネームを選択してください



developerWorks に初めてサインインするとプロフィールが作成されますので、その際にディスプレイ・ネームを選択する必要があります。ディスプレイ・ネームは、お客様が developerWorks に投稿するコンテンツと一緒に表示されます。

ディスプレイ・ネームは、3文字から31文字の範囲で指定し、かつ developerWorks コミュニティーでユニークである必要があります。また、プライバシー上の理由でお客様の電子メール・アドレスは使用しないでください。

必須フィールドは(*)で示されます。

3文字から31文字の範囲で指定し

「送信する」をクリックすることにより、お客様は developerWorks のご使用条件に同意したことになります。 ご使用条件を読む

 


送信されたすべての情報は安全です。


static.content.url=http://www.ibm.com/developerworks/js/artrating/
SITE_ID=60
Zone=Lotus
ArticleID=339094
ArticleTitle=SE関のノーツ/ドミノ徒然草: 最終回 それはフォーラムから始まった
publish-date=02172004