レベル: 中級 小峯宏秋, IBMソフトウェア・エバンジェリスト(次世代コラボレーション) ソフトウェア開発研究、Lotusソフトウェア・サービスおよびパートナー技術支援 , IBM
2009年 6月 19日 IBM Unified Communications & CollaborationのコンセプトとIBM Lotus Sametime Unified Telephonyの特長と機能を紹介し、この製品がお客様の業務にどのように導入され動作するかを説明します。
概要
IBM Lotus Sametime Unified Telephony(以下、SUT)は、IBM Lotus NotesやIBM Lotus Sametimeのコラボレーションと電話のコミュニケーションの機能を統合する、IBMが提供する新しいミドルウェアです。2009年4月のVoiceCon 2009で発表され、2009年7月に製品としてお客様に提供される予定です。SUTはIBMが提唱するユニファイド・コミュニケーションのコンセプトであるUnified Communications & Collaborationの世界を、実際にお客様のもとに提供するための中心となる製品です。SUTは企業にある既存の構内交換機(PBX、Private Branch eXchange)や電話システムと連携してその操作性を向上させるとともに、業務で利用しているアプリケーションと連携することで業務の効率化と生産性の向上に役立つ製品です。本稿では、現在開発中であるSUTの機能をご紹介するとともに、SUTのアーキテクチャーと特長、そしてお客様の環境にSUTがどのように導入されて動作するかについて説明します。
なお、SUTはリリース前の製品であり、本稿は開発途中の製品情報をもとにしています。そのため、掲載した機能やUIは製品のリリース時には変更される可能性があります。また、SUTのリリース時期も予定であり変更される可能性があります。
キーワード
IBM Lotus Sametime, IBM Lotus Sametime Unified Telephony, SUT, Telephony, Unified Communications & Collaboration, UC2,
はじめに
IBM Lotus Sametimeはリアルタイムでのコミュニケーションとコラボレーションの機能を提供する製品です。IBM Lotus Sametimeを使用すれば、同僚やインターネット上の知人の状態(プレゼンス)を把握でき、そしてチャットでタイムラグのないコミュニケーションが可能です。IBM Lotus SametimeはIBM Lotus NotesやWebアプリケーションなどに組み込むことができます。ワークフローなどの業務アプリケーションにおけるコラボレーション機能の中に、IBM Lotus Sametimeのリアルタイムなコミュニケーション手段を組み込むことで、業務を効率的に進めることができるようになります。
IBM Lotus Sametime Unified Telephony(SUT)は、そのIBM Lotus Sametimeのリアルタイム・コミュニケーションに電話のコミュニケーションを統合することで、今までの電話の使い方や概念を革新する製品です。SUTを使うことで、業務におけるコラボレーションの中で利用されるメールやチャット、電話といったさまざまなコミュニケーション手段を統合し、その中から最適なコミュニケーション手段をスムーズに選択し利用することが可能になります。また、IBM Lotus Sametime を使って電話を掛けるときも、優先電話番号を指定することでそのときに利用できる自分にとって最適な電話端末で電話を掛けたり、SUTの提供する高度な着信管理機能を利用することで自分のプレゼンスや居場所、時刻、発信者の情報をもとに自動的に自分の近くにある電話機に着信させたりすること可能となります。
IBM Lotus SametimeとSUTを中心として、IBMはUnified Communications & Collaboration (UC2) というコンセプトで、次世代のコラボレーションをお客様に提案しています。
IBM Unified Communications & Collaboration (UC2)
「Unified Communications & Collaboration」はIBMの提唱する、コラボレーションと統合されたユニファイド・コミュニケーションの新しいコンセプトです。これを短縮して「UC2」(「ユー・シー・スクエア」と読みます)と表現しています。
企業における業務では顧客管理や営業管理、あるいは購入申請や経費清算といったさまざまな業務アプリケーションが利用されています。また電話やメールといったコミュニケーションのシステムも利用されているでしょう。これらのシステムはこれまで、それぞれ独立した道具として利用されてきました。しかし、近年のIP電話システムの普及とそれを支えるネットワーク帯域の拡大やコンピュータ性能の向上により、電話の仕組みをIPネットワークにのせてメールやチャットなどのコミュニケーション手段と統合していく流れが起きてきました。これがユニファイド・コミュニケーションです。
IBMもLotus製品を中心にユニファイド・コミュニケーションに取り組んでいます。しかしIBMはコミュニケーションの単純な統合だけを目指してはいません。企業内の電話システムのIP化により、今までの回線交換方式の電話システムに比べ導入コストや通信コスト、そして管理コストは大幅に削減できます。しかし、このような電話のシステムの置き換えによるコスト削減は、ユニファイド・コミュニケーションの導入の過程で得られる最初の価値でしかありません。IP化された電話システムをITアプリケーションに統合することで、お客様にさらに大きな価値を提供できるとIBMは考えています。
図1は、IBMの考えるユニファイド・コミュニケーションの価値を示しています。
図1. 企業におけるユニファイド・コミュニケーションの価値

電話システムのIP化による初期のコスト削減につづいて、アプリケーションとの統合やビジネス・プロセスの改革を段階的に進めていくことで、さらに大きな効果が得られます。たとえば、IP電話の導入にあわせてPCで利用できる電子電話帳を導入すれば、社員や取引先の名前を検索しボタンやリンクをクリックするだけで簡単に電話が掛けられる仕組み(クリック・トゥー・コール)を実現できるでしょう。これは図1の「3合目(業務効率の向上)」です。
次のステップでは、会社内の業務システムの中に電話やチャットなどのコミュニケーションの機能を取り入れることができます。ワークフローなどの処理において、必要に応じて電話やチャットなどのコミュニケーションを利用することで、その業務処理が大幅にスピードアップされる可能性があります。また、新しくなったコミュニケーション手段を想定して業務プロセスを改善することで、企業の生産性向上が期待できるでしょう(「7合目(企業の生産性向上)」)。
さらに次のステップでは、自社外の関連会社との協業や顧客に対する営業やサポートに、ユニファイド・コミュニケーションを取り入れることができます。これによってパートナーや顧客に対する応答時間を短縮し、応対の質を向上することができます。これは単純な経費節減や生産性向上ではなく、企業自体の競争力の向上につながります(「頂上(顧客関係の強化と収益向上)」)。
ユニファイド・コミュニケーションの価値は、それをどのように企業内の業務に取り入れていくかによって決まるとIBMは考えています。単純なインフラやコミュニケーションの変革ではなく、企業内にあるコラボレーションの仕組みと組み合わせてビジネスのやり方を変えていくことで、企業の生産性向上と収益性の向上を目指します。その際に、Lotusブランドで培われたコラボレーションの技術が重要な役割を果たします。そしてお客様の成功のためには、単純にLotus製品を提供するだけではなく、それをお客様の環境に適応させる技術サービス、そしてお客様の業務に適用するためのコンサルティング・サービスもIBMは提供します。さらにすべての技術をIBMで提供するのではなくIBMのパートナーとも連携し、すでにお客様の環境にある電話システムやアプリケーション環境に合わせた最適なソリューションを提供していきます。
このように、コミュニケーションとコラボレーションを組み合わせ、Lotus製品を核としたIBMの技術やコンサルティングのサービスと、IBMのパートナーの技術やノウハウを統合してソリューションを提供していくIBMのコンセプトがUnified Communications & Collaboration (UC2)です。そしてその中心となる製品がSUTです。
IBM Lotus Sametime Unified Telephonyの機能
SUTはPBXと連携し、IBM Lotus Sametimeに電話の機能を提供するミドルウェアです。SUTによって企業内にある電話システムを統合することで、IBM Lotus SametimeのクライアントやIBM Lotus Sametimeに統合されたアプリケーションから、電話の発着信操作や通話を行うことができるようになります。またその発着信制御の対象はIBM Lotus Sametimeのクライアントに埋め込まれたソフトフォンだけではありません。IBM Lotus Sametimeを使ってPBXの固定電話や携帯電話などから電話発信をしたり、SUTを通じて着信した通話をそれらの電話端末に転送したりするなどの操作も可能です。
SUTは以下の機能を提供します。
- IBM Lotus Sametime Connectクライアントからの操作による電話発信(クリック・トゥー・コール)
- 電話着信時のIBM Lotus Sametime Connectクライアントでの着信通知と優先電話番号への転送
- ユーザーの状態や時刻、発信者の情報をもとにした転送ルールによる、着信の自動転送
- 電話の通話状態(電話プレゼンス)のIBM Lotus Sametime Connectクライアントへの統合表示
- IBM Lotus Sametime Connectクライアントに統合されたソフトフォン
IBM Lotus Sametime Connectクライアントからの操作による電話発信(クリック・トゥー・コール)
SUTを利用することで、ユーザーは電話機を操作することなく、IBM Lotus Sametime Connectクライアントから電話の発信ができるようになります。その操作はチャットを開始するのと同じで、IBM Lotus Sametime Connectクライアントの在席リストで相手を選び、右クリックから表示されるコンテキストメニューで「コール」を選びます(図2)。これによってIBM Lotus Sametimeの参照するディレクトリに登録された相手の電話番号に自動的に電話が発信されます。
図2. IBM Lotus Sametime Connectクライアントでのクリック・トゥー・コール

電話を掛けたい相手がIBM Lotus Sametime のユーザーでなかったとしても、IBM Lotus Sametime Connectクライアントの画面で電話番号を直接入力することで電話を掛けることができます。ここで入力した電話番号は発信履歴に残るので、あとから掛けなおしたり、Lotus Sametimeの持つ電話帳に登録したりすることもできます。このように、SUTに接続するIBM Lotus Sametime Connectクライアントには基本的な電話端末としての機能がすべてそろっています。
電話を発信するときに使用する電話端末としては、IBM Lotus Sametime Connectクライアントに含まれるソフトフォンを使うことができますが、企業内にあるPBXにつながった固定電話や、公衆回線の携帯電話なども利用することができます。ユーザーはあらかじめ自分の使用したい電話端末の電話番号をIBM Lotus Sametime Connectクライアントの優先電話番号リストに登録し(図3)、その時々の状況に応じて使用する優先電話番号を選択します(図4)。たとえば社外にいるときは携帯電話の番号を優先番号にし、自宅で仕事をしているときは自宅の番号を指定します。そして電話発信操作を行うと、まず発信元として指定された優先番号に電話が掛かり、応答すると発信先の相手に電話を掛けます。このような仕組みで、IBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォン以外の電話端末からも電話発信ができるようになっています。
図3. 優先番号リストの管理画面

図4. IBM Lotus Sametime Connectクライアントでの優先電話番号の設定

電話着信時のIBM Lotus Sametime Connectクライアントでの着信通知と優先電話番号への転送
SUT では IBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォンに電話番号を割り当てます。この電話番号に着信があるとSUTはIBM Lotus Sametime Connectクライアントに着信の通知を出すとともに、ユーザーの指定した優先電話番号に電話を転送します。たとえば誰かがIBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォンの電話番号に電話を掛けたとします。しかしユーザーが優先電話番号として自席のPBXにつながった固定電話の番号を指定していれば、着信はこの固定電話に転送されます。
電話がSUTに着信したときに表示される着信通知のダイアログでは、電話の発信者の名前や電話番号が表示され、その着信に対する操作ができるようになっています。図5は外線からSUTに電話が掛かってきたときの着信通知で、電話番号だけが表示されています。この例ではIBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォンが優先電話番号に指定されているため、ソフトフォンの着信音が鳴ります。そのまま「コンピュータに応答する」を選択してソフトフォンで応答することも可能ですが、「受信オプション」をクリックして着信させる電話端末を切り替えることもできます(図6)。
図5. 電話の着信を伝えるIBM Lotus Sametime Connectクライアントのダイアログ

図6. 受信オプションで応答する電話端末を指定

たとえばちょうど出かけようとしたときに電話が掛かってきて、たまたま優先電話番号に指定していた固定電話が鳴ってしまったとします。もし歩きながらこの電話に対応したいのであれば、ダイアログで自分の携帯電話に転送して応答することができます。また、応答したくなければボイスメールなどに転送することや、そのまま拒否することも可能です。
ユーザーの状態や時刻、発信者の情報をもとにした転送ルールによる、着信の自動転送
IBM Lotus Sametime Connectクライアントでは、着信した電話の転送ルールを指定することができます。SUTはクライアントで指定された転送ルールにもとづいて、そのユーザーがオンランでもオフラインでもSUTサーバー側で電話の転送をします。転送ルールでは、そのときのIBM Lotus Sametimeクライアントのログインの状態、クライアントの位置情報、電話の発信者、そして時刻の範囲を指定して転送先を設定することができます(図7)。たとえば、午前9時から午後5時の間でIBM Louts Sametimeにログインしてオンラインであれば、IBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォンで電話を受け、オフラインや離席中であれば会社支給の携帯電話で電話を受ける、午後5時以降はすべて会社のPBXのボイスメールに転送するが、大切なお客様からの電話だけは私用の電話に転送するといった設定が可能です。
また転送ルールで指定した電話番号で一定時間内に応答がなかったとします。するとSUTはユーザーの指定した次のルールによって着信を順次転送してゆきます。
図7. 呼び出し転送ルールの設定画面

電話の通話状態(電話プレゼンス)のIBM Lotus Sametime Connectクライアントへの統合表示
SUTによって電話のシステムと統合されたIBM Lotus Sametime Connectクライアントの連絡先リストでは、電話で通話中のユーザーの状態(電話プレゼンス)が表示されます(図8)。今までのIBM Lotus Sametimeでもユーザーがオンラインであるかどうかや、離席中や会議中といった状態を表示され、離れたところにいるユーザーでも同僚の状態を知ることができました。そこに新たに電話の状態が表示され、相手が話中であることを、電話を掛ける前から知ることができるようになります。
図8 Lotus Sametime Connect クライアントに統合された電話のプレゼンス

すでに述べたように、SUTを使うことでIBM Lotus Sametimeに組み込まれたソフトフォンだけではなく、オフィスにある固定電話や携帯電話、自宅の電話からさえもクリック・トゥー・コールで電話ができ、着信した電話をこれらの電話端末で簡単に応答することができます。実際に話している電話端末がIBM Lotus Sametimeのソフトフォンでなくても、電話の発信や着信にSUTが介在することでユーザーの通話状態を把握し、ユーザーの電話のプレゼンスとして表示をしてくれます。たとえ実際に話している電話が携帯電話でも、通話中であることを同僚に伝えることができるのです。
IBM Lotus Sametime Connectクライアントに統合されたソフトフォン
SUTではIBM Lotus Sametime Connectクライアント上で利用できるソフトフォンが提供され、IBM Lotus Sametimeのユーザーへはもちろん、社内の内線電話や社外の電話にまで、IBM Lotus Sametime Connectクライアントから電話発信をすることができるようになります。ユーザーはIBM Lotus Sametime サーバーに接続できるネットワーク環境があれば、会議室や出張先のオフィス、街中のホットスポットやホテルの部屋でPCにマイクとヘッドフォンを接続してクリック・トゥー・コールをしたり、電話機のように番号を指定したりして電話を掛けることができます。IBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォンには、電話の発着信履歴の管理、リダイアル、電話帳などといったソフトフォンに必要な基本機能が備わっています(図9)。
図9. IBM Lotus Sametime Connect のソフトフォンによる通話中のダイアログ

SUTのユニファイド・ナンバー
SUTを使うことで、着信した電話を、普段使っているさまざまな電話端末の中からそのときにもっとも使いやすい端末に転送させることで、確実に受けることができるようになります。これを実現するのがSUTのユニファイド・ナンバーという仕組みです。
ユーザーにはSUTに登録されたユニファイド・ナンバーというひとつの電話番号が提供されます。SUTを利用するユーザーにとって、この番号だけが社内や社外の人たちに伝える自分の電話番号になります。またIBM Lotus Sametimeのユーザー同士であれば連絡先リストから電話ができるので、このSUTの番号さえ伝える必要はありません。クリック・トゥー・コールをすればこのユニファイド・ナンバーに電話が発信されます。
ユニファイド・ナンバーへの電話はSUTに着信し、SUTによって処理されます。ユーザーがIBM Lotus Sametimeにログインしていれば、SUTはIBM Lotus Sametimeとの連携によってIBM Lotus Sametime Connectクライアントに着信を通知するとともに、ユーザーの指定した優先電話番号や転送ルールに従い、指定された電話端末に電話を転送します。ユーザーがIBM Lotus Sametimeにログインしていなければ、転送ルールだけをたよりに転送を試みます。そしてユーザーが応答するか、あるいはボイスメールなどの最後の選択肢にたどり着くまでユーザーを追いかけます。そしてユーザーが応答すれば、話中になった状態をIBM Lotus Sametimeのプレゼンスとして表示します。
今までは電話を掛けるときにはいつも相手の居場所を調べ、どの電話機に電話を掛けると良いかを考えて電話番号をダイヤルしていました。同僚を捕まえたいときにはオフィスの固定電話に電話を掛け、いなければ会社支給の携帯電話に掛ける。それでもいなければ個人の携帯電話にかけるといったことも少なくなかったでしょう。緊急なら秘書に聞き出した自宅の番号などに電話するということもあったかもしれません。捕まえたいのはたった一人なのに、その人の居場所や使っている電話機を意識して一つひとつの電話機の番号に電話をしなくてはいけませんでした。しかしSUTは「電話機の番号」ではなく「連絡を取りたい人」に注目しています。電話を掛けるときには相手がどこにいてどの電話端末を使っているかを意識することなく、その相手のユニファイド・ナンバーに電話を掛けます。IBM Lotus Sametimeでのクリック・トゥー・コールであれば、そのユニファイド・ナンバーすらも気にすることなく連絡を取りたい相手をクリックするだけです。あとはIBM Lotus Sametimeのプレゼンスと位置情報、そしてSUTに設定した優先電話番号と転送ルールでその人に連絡の取れる電話端末に自動的に転送されます。
このように、電話端末とそれに付随する電話番号ではなく、連絡を取りたい人を中心に捉え、ユーザーに最適なコミュニケーションが実現できる環境をSUTは提供します。
Sametime Unified Telephonyのシステム構成
これまでプレゼンスとチャットを提供してきたIBM Lotus Sametimeサーバーとは別に、IBMはIBM Lotus Sametimeと電話とを連携させるためにSUTと呼ばれる新しいサーバー・ソフトウェアを開発しました。SUTサーバーは、Telephony Application Server (TAS)とTelephony Control Server(TCS)から構成されます。図10はSUTのシステム構成図です。SUTを導入することで既存のPBXをそのまま活用しつつ、電話の制御をIBM Lotus Sametimeで行い、さらにIBM Lotus Sametime Connectクライアントを電話の端末として利用できるようになります。SUTの中のTCSがPBXと接続するコンポーネントで、標準のSIPに対応したIP-PBXであればそのまま接続でき、標準SIPに対応しないIP-PBXやIP化されていないPBX、あるいは公衆回線網にはSUTとの接続認証されたゲートウェイ経由で接続します。このようにTCSはさまざまなPBXなどの電話システムに接続し、その上位のTASに対して実際に接続された電話システムを抽象化するレイヤーを提供しています。
TASはTCSの上位でIBM Lotus Sametimeとの接続を提供するコンポーネントです。TASとIBM Lotus SametimeサーバーはVP(Virtual Place)プロトコルと呼ばれるIBM Lotus Sametimeのプロトコルで接続し、IBM Lotus Sametimeからの電話の発着信リクエストを処理したり、電話のプレゼンスをIBM Lotus Sametimeに通知したりします。SUTはIBM Lotus Sametime Connectクライアントで利用できるソフトフォンを提供しますが、そのソフトフォンはTASに登録されSIPで通信を行います。
以下ではTASとTCSについてさらに詳細に説明します。
図10. SUTのシステム構成図

Telephony Application Server (TAS)
TASはIBM Lotus Sametimeサーバーと接続し、IBM Lotus Sametime Connectクライアントからの電話の発信リクエストを受け取ったり、電話が着信したときにはクライアントへの通知を行ったりします。電話の転送などの処理をするすべてのアプリケーション・ロジックはTASのコール・ルーティングで実行され、ユーザーが指定した電話端末に電話を着信させます。また電話機のプレゼンス情報を集めてプレゼンス・アダプタからIBM Lotus Sametimeサーバーに通知します。この電話のプレゼンスはIBM Lotus Sametimeサーバーを通じてIBM Lotus Sametime Connectクライアントにプッシュされ、IBM Lotus Sametimeの持つプレゼンスに統合した電話プレゼンスの情報がクライアントの連絡先リストに表示されます。
TASにはSIPレジストラとSIPプロキシの機能もあり、IBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォンが登録され、ソフトフォンでの通話の制御をします。またTASは、TCSを通じてPBXや公衆回線網とつながるゲートウェイと接続します。TASの持つメディア・サーバーでは、SUTの提供する小規模な電話会議を開催するとともに、ダイヤルトーンやアナウンスなど基本的な電話の操作で必要となる音を生成します。これらの機能は単一のTASサーバーで提供できますが、大規模なSUTのシステムを構築する際にはメディア・サーバーの機能だけを持つ専用のTASサーバー構築し、機能を分散させることも可能です。
TASはアプリケーション・サーバーとしての機能を持っているため、TASの障害対策にはWebサーバーなどのアプリケーション・サーバーでよく行われるN+1構成をとります。1台のサーバーに障害が発生したときには他のマシンでバックアップができるよう、1台を冗長にした構成です。TASは1台あたり15,000ユーザーの処理をできますが、仮にユーザー数で60,000人であれば、最低限必要となる4台に1台を追加した冗長構成で、5台のTASサーバーを設置することになります。
Telephony Control Server (TCS)
TCS はPBXや公衆回線網と接続し、TASに対してPBXを抽象化したインターフェースを提供するサーバーです。TCSは接続されたPBXとの間やIBM Lotus Sametimeのソフトフォンが接続するTASのSIP プロキシとの間でSIPシグナルを中継するSIP B2BUA (SIP Back-to-back User Agent)としても機能します。TCSは音声やビデオ画像の信号を中継することはなく、SIPによる通話の確立などを集中的に行います。
たとえばIBM Lotus SametimeのソフトフォンからPBXの電話機に発信が行われたとき、TCSはSIP B2BUAとして機能しソフトフォンからのSIPリクエストをPBXに送信します。そして通話が確立されると、TCS は、その通話が行われている間の両端末間のすべてのSIPセッションを保持します。これによってSUTはそれぞれの端末の状態を把握してIBM Lotus Sametime Connectクライアントに電話プレゼンスを表示するとともに、ユーザーからの転送リクエストを処理できるようになります。そして、この通話の音声はTCSを経由することなくソフトフォンとPBXの電話機の間で直接交換されます。
TCSはTASと異なり、PBX的な機能を持ったサーバーで、信頼性の高い電話のサービスを提供するためファイブ・ナインと呼ばれる99.999%の信頼性を提供するよう設計されています。その障害対策は、PBXなどでよく採用されるアクティブとスタンバイのペア構成となります。常時稼動する一つひとつのアクティブなTCSに対して、そのバックアップを行うTCSが対でおかれ、アクティブなTCSに障害が発生したときにはスタンバイのTCSが処理を引き継ぎます。TCSは1台で100.000ユーザーまで対応できますが、仮にユーザー数が60,000人であれば、最低限必要となる1台にさらにもう1台分のバックアップ構成で2台のTCSのサーバーを設置することになります。もしユーザー数が120,000人であれば4台の構成となります。
対応プロトコル
SUTでは電話の発着信に、IP電話の世界で広く使われているSIPを採用しています。TCSはRFC3261, 3264, 4566に準拠しており、これらの規格に対応したIP-PBXや電話ゲートウェイと直接接続ができます。またIBM Lotus Sametime Connectクライアントで動作するソフトフォンについても同じように標準のSIPをサポートするとともに、音声のコーデックでもG.711など標準のプロトコルに対応しています。そのため通話が確立されてしまえば、IBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォン、IP-PBXの電話機、あるいは電話ゲートウェイはSUTのサーバーを介することなくメディアの送受信を直接行うことができます。
SUT以外のユニファイド・コミュニケーションの製品によっては、通話セッションの確立のためのSIPに独自の拡張を加えているものや、音声や画像のメディアのコーデックに独自のプロトコルを採用しているものもあるようです。このような製品では他社のIP-PBXや電話システムとつなげる際にSIPやメディアの変換を行う必要があり、接続できるシステムが限られてしまったり、プロトコル変換のためのサーバーを設置しなくてはならないなどの制限がでてきたりしてしまいます。これは小規模なシステムで限定された電話システムと連携している場合には大きな問題とはなりませんが、大規模な電話システムと連携するときには問題となることがあります。たとえば国内外の数十の拠点でPBXが分散配置されているときに、それぞれのPBXの横にメディア変換のサーバーを設置しなくてはなりません。送受信するデータ量の多いメディアの処理なのでネットワーク帯域の確保などとも絡み、このようなメディア変換サーバーをデータセンターなどに集約することは簡単ではありません。
一方SUTでは標準のメディア・コーデックを採用しているため、他の電話システムと連携するときにメディア変換は必要ありません。SUTを使って通話を行ったときにSIPによる通話のセッションはSUTを介して確立されますが、音声や画像のメディア信号はそれぞれの端末やゲートウェイの間で直接送受信されます。セッションを確立するSIPの信号自体はテキストで数キロ・バイトから数十キロ・バイトでネットワークに対する負荷は大きくありません。そのためSUTサーバーのクラスタをデータセンターなどに集中配置して管理することが可能で、ユニファイド・コミュニケーションの導入に伴う管理コストを低く抑えることができます。
Sametime Unified Telephony環境での呼制御の仕組み
SUTで電話を受けたり掛けたりするときに、その通話のセッションの確立とメディアがどのように流れるかについて詳細に見ていきます。
電話の発信や着信にはいろいろなパターンがあり、IBM Lotus Sametimeのソフトフォンや社内のIP-PBXの電話、そして公衆回線の先の携帯電話や自宅などの固定電話もSUTの発信元の電話端末として使用できます。電話を掛ける相手もIBM Lotus Sametimeのユーザーかもしれないし、社内のIP-PBXの電話や公衆回線かもしれません。本稿では紙面の都合でこれらのすべてのパターンを網羅して説明することはできませんので、一般的な電話の発信と着信の処理について説明します。
SUTでの電話の着信
IP-PBXの電話機からユニファイド・ナンバーに掛けてもらい、IBM Lotus Sametime Connectクライアントのソフトフォンで応答して会話を開始する流れを図11に示します。
図11. SUTでの電話着信の流れ

電話の着信処理の流れは次のようになります。
- 発信者は、SUTのユニファイド・ナンバーに電話を掛けます。この電話はTCSに着信します。TCSはIP-PBXからのSIPシグナルを受信します。
- TCSはTASに着信を通知します。TASは着信先のIBM Lotus Sametimeユーザーの転送ルールを確認します。ここではIBM Lotus Sametime Connectクライアントでの着信に設定されていたとします。
- TAS はVPプロトコルを用いてIBM Lotus Sametimeサーバー経由でIBM Lotus Sametime Connectクライアントに着信の通知を表示します。
- 着信先のユーザーは、IBM Lotus Sametime Connectクライアントでソフトフォンでの応答を選択します。
- ユーザーの選択した着信先が、VPプロトコルでSUTに通知されます。
- TASは着信の処理方法をTCSに指示します。
- TCSは着信先のIBM Lotus Sametime ConnectクライアントのソフトフォンをSIPで呼び出し、通話を確立します。
- 通話が確立されるとソフトフォンとIP-PBXの電話機との間で、SIPによってネゴシエーションされたメディアのプロトコルが流れます。
SUTからの電話の発信
SUTを使って公衆回線網へ電話発信する流れを図12に示します。このとき、発信元のSUTユーザーは自席のIP-PBXの電話機を使用します。
図12. SUT での電話の発信の流れ

電話の発信の流れは次のようになります。
- SUTのユーザーはあらかじめ優先電話番号に自分のIP-PBXの電話機の番号を指定しておきます。
- 電話番号を直接入力するか、IBM Lotus Sametime Connectの電話帳に登録されている相手をクリックして公衆回線網に電話発信します。
- 電話発信のリクエストはVPプロトコルを用いてIBM Lotus Sametimeサーバー経由でTASに送信されます。
- TASはTCSに通話の開始を指示します。
- TCSは指定された優先電話番号の電話端末を呼び出すためにSIPシグナルをIP-PBXへ送信します。
- 発信元の電話端末が応答すると、次に発信先の電話番号に掛けるためにゲートウェイに対してSUTはSIPシグナルを送信します。
- ゲートウェイは公衆回線網への電話発信に変換し、相手先の電話につなげます。
- 通話が確立されるIP-PBXの電話機とゲートウェイとの間で、SIPによってネゴシエーションされたメディアのプロトコルが流れます。
通話中のSUTの働き
電話の発着信では、SUTが介在してSIPによって通話のセッションを確立します。いったん通話のセッションが確立されると電話端末間、あるいはゲートウェイとの間で直接メディアが流れます。しかしその間もSUTによってセッションは維持されており、IBM Lotus Sametime Connectクライアントで表示されている通話中のダイアログで通話を切断したり、別の電話端末に転送したりすることができます。また通話中のSUTのユーザーが通話中であることを示すアイコン(図8)がIBM Lotus Sametimeの連絡先リストに表示されます。利用する電話端末がソフトフォン、IP-PBXの電話機、公衆回線網にある携帯電話や自宅の電話のいずれであっても、通話の確立に常にSUTが介在していることによってこれらの機能が実現されます。そのためには、たとえ実際に話す端末がなんであろうと、電話発信の際にはIBM Lotus Sametimeを使用して電話を掛け、SUTに登録したユニファイド・ナンバーで電話の着信を受けることが必要です。SUTのシステムを構築するときには、このようなSUTの仕組みを理解して、電話システムとSUTを接続して適切に番号をふる番号計画を策定する必要があります。
まとめ
長い歴史のある電話の仕組みをIP化し、メールやチャットなどの新しいコミュニケーションと組み合わせ、IT アプリケーションと連携させることで、業務の効率化と生産性の向上を図ることができます。さらにその新しい仕組みをもとに業務を改革することで、企業の競争力を高めることができます。IBMのUC2はお客様にそのようなイノベーションをもたらす次世代のコラボレーションのコンセプトであり、IBM Lotus SametimeとSUTはその中心となるソフトウェアです。
お客様の環境にはすでにさまざまな電話システムやITアプリケーションの資産があるでしょう。本稿で紹介したSUTはそれらの既存の資産を置き換えるのではなく、そのまま生かす形でお客様の環境に効果的にユニファイド・コミュニケーションを導入するツールとなります。標準のプロトコルのサポートとユニファイド・ナンバーによる通話管理の仕組みによって、既存のIP-PBXやIP化されていないPBX、公衆回線網の携帯電話や固定電話も含めた環境での電話発着信の管理と電話プレゼンスの表示が可能となっています。このIBM Lotus SametimeとSUTを軸に、お客様のもとでユニファイド・コミュニケーションを活用したビジネス・モデルを取り入れていただき、企業の競争力と顧客満足度を高めることで、企業価値の更なる向上を目指していただきたいと思います。
2009年4月のVoiceCon 2009 で、SUTのリリースは今年の7月と発表されました。ぜひIBM Lotus Sametimeと新たに登場するSUTにご注目いただきたいと思います。
参考文献 学ぶために
製品や技術を入手するために
議論するために
著者について  | |  | 小峯宏秋は日本アイ・ビー・エム株式会社のソフトウェア開発研究所でLotusソフトウェアのチームに所属し、次世代コラボレーションを担当するIBMソフトウェア・エバンジェリストとしてUnified Communications & Collaboration(UC2)を世に知らしめる活動に取り組んでいます。 大学では理論量子力学を専攻し、外資系ミニコンメーカーとロータス株式会社を経て IBM に入社しました。
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