レベル: 初級 Dave Rosenberg (daverosenberg@gmail.com), Programs Director, LinuxWorld
2005年 6月 07日 金融サービス業界を眺めてみると、コモディティーの Linux® サーバー、Globus などのオープン・ソース・ツール、さらにはサービス指向アーキテクチャーなどの適用の進展に伴い、グリッドが世界の大手企業のいくつかで主流になったということに気付かされます。LinuxWorld New York Summit を取材した記者が、金融サービスでの垂直市場におけるグリッドの利用の急増に関するテクノロジー・リーダーのディスカッションをレポートします。
金融サービス業界の垂直市場では、グリッド・コンピューティングはもはや周辺の早期導入者だけのものではありません。既にメインストリームとなっています。この記事では、金融サービス会社がグリッドで開拓しようとしている戦略上の価値について、IBM®、Novell、Globus Consortium の 3 者が論じています。さらに、グリッドと Linux の本質的な相性を検討し、また、金融サービスの IT 部門のみならず他業界のメインストリームのエンタープライズIT 環境にも共通する、Linux グリッドの普及を促すビジネス推進要因について説明します。
金融サービスにおけるグリッドのリーダー
5 月 25、26 の両日に開催された LinuxWorld New York Summit では、IBM、Novell、および Globus Consortium の主要なテクノロジー・リーダーが一堂に会し、金融サービス・セクターでメインストリームになりつつあるグリッド・コンピューティングについて、ディスカッションを行いました。グリッドは金融アプリケーションに大きく進出していますが、パネリストたちは「これはまだグリッド・アプリケーションの新しい波の始まりに過ぎない」と考えています。IBM からは、Linux/Grid 担当ディレクターの Carol Carson 氏、Novell からは Linux/オープン・ソース・サービス担当ディレクターの Carl Drisko 氏、そして Globus Consortium からは議長の Greg Nawrocki氏が、それぞれパネリストとして参加しました。
グリッドは、以下のような点で金融サービスにとって魅力的です。
- リスク分析やデリバティブ商品価格のシミュレーションなど、金融サービスに関する作業の多くは元来並列的である
- 金融サービス業界の垂直市場には伝統的に分散システムへの理解がある
- 組織内に利用可能な資源が存在する場合が多い
- オープン・スタンダードに基づく相互運用性
- 計算及びデータの冗長性
Linux: グリッド適用を推進する
ディスカッションの冒頭で、Novell の Linux/オープン・ソース・サービス担当ディレクターである Carl Drisko 氏は、「Linux の導入が進むにつれて、Linuxの適用は、エンタープライズの周辺部からエンタープライズ・アーキテクチャーのより深い部分へと移動し、また、DNS、ファイルおよび印刷サービスといった基本サービスからアプリケーション・サーバーや SAP、PeopleSoft、Oracle といった大規模アプリケーションへとシフトしつつある」という重要な知見を指摘しました。
Drisko 氏によれば、Linux は以下のような理由で UNIXR ベンダーから市場シェアを奪っています。
パフォーマンスに関して、Drisko 氏は、E*TRADE の CTO である Joshua Levine 氏が当日の基調演説で述べた、E*TRADE のアプリケーションは「安いハードウェア上では倍も高速に実行される」という点を取り上げました。
Drisko 氏はまた、「まず技術分野のワークステーションに配置し、それを一般の知識労働者へと外向けに順次拡大していくことで、最終的にはデスクトップも含めたエンタープライズ内のあらゆるものが Linux 上で実行されるようになる」という事実も強調しました。
「Novell では、この動き全体が外から内へと拡大しました。つまり、エッジ・サーバー、ネットワーキング、DNS サーバー、Web サーバーなどから始まったのです。」と彼は述べています。「これらは Linux の早期の適用分野となりました。デスクトップ上の Linux にも同じことが言えます。人々は Linux を 1 つの単純な目的を念頭に置いて使い始めました。導入したのは、ソフトウェアの開発者、エンジニアリングワークステーションやコンソールで仕事をする人たち、システム管理担当者です。この種のアプリケーションが、Linux の当初の使用者が扱っていた業務だったのです。」
「その状況が変わるには何年もかかりませんでした。突然、Linux プラットフォーム上でできることが増えました。それまでとは異なるソフトウェアの入手が可能になったことがその主な原因です。これにより、インフラストラクチャーとビジネスの全体を Linux プラットフォーム上で適切に実行できるようになりました。その中心となっているのは、ERP アプリケーション(SAP や PeopleSoft など)と主要なデータベース・インプリメンテーション (たとえばOracle) です。ご存じのように、現在は、希望するいかなる種類のワークロードでも Linux プラットフォーム上で実行できます。」
Linux がグリッド・コンピューティングに最適なオペレーティング・システムであることは、以下の点から実証されています。
- コモディティー・ソフトウェアの価格、シンプルな価格モデル、追加料金なしで実行できる複数の仮想マシン
- ハイパフォーマンス -- 概してMicrosoft® Windows® より20 パーセントも高い実行効率
- 多数のコミュニティーから提供され、利用可能なオープン・ソース・ソフトウェア;「Fast 500」の 60 パーセントが Linuxを利用しており、また、世界最速のマシン上でも利用されている
Drisko 氏はこのように述べています。「現在構築されつつあるこれらの大規模グリッドは何によって支えられているのでしょうか。ある戦略に Linux を導入する場合の主な要因の 1 つは、純粋にコストです。グリッドの世界は全般に、コモディティー化に向かって大きくシフトしています。使用率の向上を求めたり、どのような問題にも利用できるようにコンピューティング・サイクルやストレージをコモディティー要素として見なしたりするには、できるだけ安価なハードウェアとソフトウェアを使用しなければなりません。しかも、さまざまな最適化によって多様なワークフローを効率的に実行できる、ハイパフォーマンスで軽いオペレーティング環境が必要です。グリッドは、Linux を主要プラットフォーム の 1 つとして考える理由のひとつなのです。」
「もう 1 つのLinux 導入の推進要因として挙げられることが多いのは、意図的な選択の結果です。何千台ものマシンを配置する場合は、Globus Toolkit などのオープン・ソース・ソフトウェアを含めた、ソフトウェアの入手のしやすさも重要です。」
「これらの要因を考え合わせれば、グリッド環境の多くで Linux を基盤 OS として実行しているということには大きな説得力があるのだ、とお分かりいただけると思います。もちろん、このことはグリッドの中で起きているだけではありません。異機種混合環境を構築されるようなこともあるでしょう。しかし、Linux の私たちのバージョンは、メインフレームからハンドヘルドに至る全てで実行することができます。私たちは、将来的はこれらがグリッド内の二大オペレーティング環境のうちの 1 つになると、考えています。」
グリッド・コンピューティングへのシフトは、組織が IT インフラストラクチャーを構築していく上での根元的な流れなのです。
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グリッド前:サイロ化されたアーキテクチャー |
グリッド後:仮想化されたインフラストラクチャー |
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- IT 資産の限定的なプールに基づくより高いコスト
- 組織横断的なコラボレーションが困難
- 手作業のスケジューリングやプロビジョニングが多いため、即応性が限定されるアプリケーション処理用の仮想のオペレーティング/ストレージ/コラボレーション環境を構築
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- アプリケーション処理用の仮想のオペレーティング/ストレージ/コラボレーション環境を構築
- 資源のプールにより、リクエストに動的に対応
- 適応力のある自己管理型オペレーティング環境で、高い可用性を提供
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Drisko 氏の指摘は続きます。「グリッドについて述べる場合の具体的な論点は何でしょうか。今日のほとんどの環境には、1 つのアプリケーションや 1 つの機能を実行するための専用のマシンが個別に存在しているはずです。ある特定の問題を解決するために、コンピューター、オペレーティング環境、ソフトウェアをそれぞれ買い揃え、サイロ内の1 台のマシン上で実行しているのです。可用性を高めるために 2 台目のコンピューターを用意している場合もあるでしょうが、それは、同じ環境を 2 つ保有するということです。保有している各種アプリケーションの本数、サポートすべき部門の数、さらに関連拠点の数などを、すべて 2 倍してみてください。ハードウェア資本とコストを浪費しながらも、高い使用率では稼働しない、膨大な数のアプリケーション毎の個別のサイロが存在してしまいます。このようなサイロ化したアーキテクチャーでは、共有はほとんど行うことができず、各要素を個別に管理するしかありません。」
「グリッドを構築するということは、すべてのアプリケーションを下位のハードウェアおよび資源に相互接続してくれる、ミドルウェアを持つことです。これらの要素を仮想化できれば、資源を効果的に共有し、資源に対するあらゆる要求に動的に対応できるようになります。グリッドを導入すると、どれだけの資源を使ってどこで実行するかを管理しやすくなります。「利用できるマシンがあるから、ちょっと行ってきて実行してきます」というようなものです。このように、インフラストラクチャー全体をより有効に活用できるのです。また、すべてのアプリケーションからあらゆるデータに効果的にアクセスできれば、共有・共用をさらにうまく行うことができます。このことは、顧客と直接向き合っている金融機関では特に、大きなグリッド推進要因となっています。」
Drisko 氏は、自分の議論の締めくくりとして、グリッドを研究室から企業へと押し広げる推進要因をいくつか挙げました。
- 資産の使用率: サーバーの一般的な使用率は 15 から 20 パーセント
- コンプライアンス: ビジネスの継続性、災害復旧
- 高速化とアプリケーション・パフォーマンス: アプリケーションを 10 から 20 パーセント高速に実行
- コラボレーション: 企業内全体や外部パートナーとの間で、データや処理能力の共有が必要
「グリッドについて論じる際、私たちは、数多くのさまざまなパーツが仮想化されているものと考えます。さらに、オペレーティング・システムの仮想化やアプリケーションの仮想化だけでなく、多種多様な要素のすべてを取り上げます。つまり、各要素のスケジュール、ストレージの仮想化、データの分散をいかに行うかを考えており、全体の管理のやりかたやパフォーマンスについて考えています。この考察の基盤となるのが、さまざまな構成要素を効果的に相互運用できる、軽量で標準的な Web サービスです。そうすれば、資源の割り当て先を決定したり、すべてのユーザーに共有を可能にするための、多様なパーツがミドルウェアに含まれることになります。」
スタックを上へ:仮想化
IBM の Linux およびグリッド担当ディレクター、Carol Carson 氏は、スタック上の 1 つ上のレイヤーである仮想化について論じました。Carson 氏はまず、グリッドと仮想化が最適化と競争力の向上につながるようなエントリー・ポイント・モデルについて、いくつか説明しました。
仮想化とグリッドによる最適化と競争力向上は、さまざまなエントリー・ポイントから開始できます。組織がステージを通過するにつれて、ビジネス価値は増大していきます。
仮想化に着手した企業には、まったく新しいレベルの柔軟性が生まれます。専用のコンピューティング・キャパシティーを独自に購入しなくても、膨大な資源の利用が可能になるのです。それを支援するソフトウェア・オプションも多数用意されています。
Carson 氏は次のように述べています。「プロビジョニング・ソフトウェアは必要な資源を確実に割り当てます。オーケストレーション・ソフトウェアは、グリッドを常時監視し、適切なキャパシティーが提供されているかどうか、サーバーがプロビジョニングされているかどうか、そしてワークロード管理のスケジューラーがすべてを統括しているかどうかを判断します。企業の外に向かっていくにつれて、得られる効率は高くなります。データをパートナーやサプライヤーと共有し、処理を別々のものとせずに協力して処理できるようにすれば、市場への投入期間を短縮できます。」
「グリッドの進化の特徴を考えると、前進していくために鍵となる重要なツールがいくつかあります。同一機種環境で重要な鍵となるのは、優れたクラスター・スケジューリングとクラスター・ファイル・システムを備え、ファイルとストレージを仮想化できることです。異種混合環境に進むと、高度なスケジューリング機能がいっそう重要となります。その段階では、複数のアプリケーションが資源というパイを争うような状況に取り組むことになります。」
「セキュリティーとプロビジョニング機能を統合することは重要です。求められているのは、何台のサーバーが必要かを判別できるツールや、スケジューラーでサーバーをプロビジョニングしてくれるツール、あるいはキャパシティー要件を予測してくれるオーケストレーション・ソフトウェアなどでしょう。」
「ワークロード管理機能があれば、最も効率的に実行できる場所に作業を移動できます。また、情報の仮想化は作業を進めていく上で極めて重要な要素の 1 つです。離散していたデータから、新たなビジネス洞察を得られるからです。」
- 同種資源の仮想化: 同一機種から構成されるシステム、ストレージ、ネットワーク
- 異種資源の仮想化: 異種混合のシステム、ストレージ、ネットワーク; アプリケーション・ベース・グリッド
- 企業全体の仮想化: 全社的グリッド、情報洞察、グローバル・ファブリック
- 企業外の仮想化: サプライヤー、パートナー、顧客その他の外部リソース
Carson は次のように指摘しています。「部門を超えて進む場合は、メタスケジューリングなどの機能が極めて重要になります。ほとんどの場合、独立したサイロとして成長してきました。例えば、Data Synapse を使用しているユーザー、Platform を使用しているユーザーがいる場合、両者のやり取りにはまず通信手段を確立しなくてはなりません。つまり、異機種混合環境の仮想化に踏み出す際には、標準が極めて重要になります。ですから、私たちは、これらの異なった部品全てを通じて通信ができるようにしてくれる標準規格を得るために、Global Grid Forum や Globus Consortium との連携に特に力を注いでいます。」
グリッドの構築: Globus Toolkit
Globus Consortium の議長である Greg Nawrocki 氏は、グリッド・スタックのレイヤーをさらに 1 つ上がり、金融サービス業界のグリッドの取り込みについて論じました。
Nawrocki 氏は次のように述べています。「Globus Toolkit はしばしばグリッド・ミドルウェアのデファクト・スタンダードであると言われます。従来、1 台のハードウェアには 1 つのアプリケーションをインストールするものと考えられてきました。しかし、組織内に分散したさまざまなハードウェア上で 1 つのアプリケーションを使用するというのは、よくあることです。グリッド・ミドルウェアの目標は、アプリケーションをオペレーティング・システムから切り離し、できるだけプラットフォームに左右されないようにすることです。そうすれば、離散している資源をサービスやアプリケーションで共有できるようになります。」
「グリッドを商用利用した初の垂直市場としては、金融セクターが挙げられます。このセクターがグリッドを採用した理由の一つは、金融サービス業務の多くは本来並列的であるということでしょう。例えば、リスク分析やモンテカルロ法シミュレーションがこれに当たります。」
金融サービス市場には、伝統的に分散システムへの理解があります。金融機関はさまざまな場所に支店を構えていることが多く、ネットワーキングとセキュリティー・モデルを理解しています。金融サービス業界に関するもう 1 つの理由は、デスクトップ・スカベンジングです。何の作業もしていない空き資源がよくあるのです。このような資源を利用して夜間にシミュレーションの一部を実行できれば、新しいコンピューターを購入する代わりにこれらの資源を活用することができます。
Globus Toolkit 4.0 は、金融サービスにとって以下の点で重要です。
- Globus Toolkit で最もテストを重ねたバージョンであり、安定した業界アプリケーションとなっている
- 金融サービス業界で広く使用されている Web サービス標準に基づいている
まとめ
今回のディスカッションでは、パネリストたちはグリッド導入の規模拡大に必要な文化的なシフトについて論じました。例えば、コンピューティング能力を「買う」のではなく「借りる」という発想は、大部分の組織にとって馴染みのないもので、課金やサービス・レベル契約の点でチャレンジになるかもしれません。
ディスカッションで得られた結論は、将来に対する肯定、およびグリッド及びその他の先端技術は計算に関わるものではないという見解でした。これらはデータに関わるものであり、さまざまな処理が施されたデータをどのように操作、抽出、利用できるようにするかを考える技術なのです。
参考文献
著者について  | 
|  | In addition to freelance writing and consulting, Dave Rosenberg runs the conference programs for LinuxWorld. His dream technology is a grid application running on Linux-based cell phones. |
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