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グリッドのビジネス・ケースの作成

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レベル: 初級

Dave Rosenberg (daverosenberg@gmail.com), Programs Director, LinuxWorld

2005年 06月 01日

グリッド・コンピューティングへの投資に関するビジネス・ケースを作成する場合、単なる技術的メリット以上のものを提示する必要があります。プロジェクトのスポンサーは、ビジネス・ニーズおよび技術的影響をサポートする指標を示し、グリッド・コンピューティングの画期的な効果を例証する必要があります。このためには、財務および人材の両面において、資源のベンチマーキングを実施し、数値化して、資源の妥当性を立証しなければなりません。この記事では、グリッド・プロジェクトのビジネス・ケースを作成する方法について説明します。

グリッドにむけて行動を起こす

グリッド・コンピューティングにより、管理の難しい分散システムを大規模な仮想インフラストラクチャーに変身させて、単一のインフラストラクチャーで処理するには複雑すぎる問題やプロセスを効率よく処理できるようになります。解決すべき問題には、しばしばデータ統合やネットワーク帯域幅に関する考慮が含まれます。グリッドに含まれるシステムは、ある場合は同じ室内にあることもあるでしょうし、別の場合には世界中に分散していることもあります。それぞれのシステムで使用されているハードウェア・プラットフォームやオペレーティング・システムが異なっていることもあるでしょう。システムを所有する組織が異なっていることもあるでしょう。このように、資源が実際にはどこでどう管理されているかには関わりなく、グリッドのユーザーが経験するのは、非常に大きな仮想のコンピューターや情報リポジトリーという資源を扱っているという感覚です。

「現状(as-is)」の IT インフラストラクチャーからグリッドが利用可能な環境への進化について簡単にまとめてみましょう。

現状(as-is)の環境グリッドが利用可能なIT 環境
専用のインフラストラクチャー柔軟な仮想インフラストラクチャー
事前定義された硬直的なキャパシティーとパフォーマンス即応性と回復力に優れたキャパシティーとパフォーマンス
固定されたコストおよび価値の構造予め予測できる固定されたコストを補完する、可変のコストおよび価値の構造

グリッドは、現状の IT 環境から柔軟な標準ベースの環境 --- 動的なサービス・ストレージ、およびアプリケーションを活用するサービス指向アーキテクチャー(SOA) の一部を担う環境--- に移行するプロセスの 1 つのステップです。

グリッド環境のメリットは、コスト削減や総所有コスト(TCO)の削減だけに留まらず、財務状況や生産性の向上に直接影響を与えます。これまでのグリッドの成功事例を見てみると、市場投入時間の短縮、製品品質の向上、組織内および組織間のコラボレーションの改善など、ビジネス本来の価値の実現が可能であることが実証されています。

グリッド・テクノロジーは、オープン・スタンダードによって異種混合資源をサポートするイネーブラーであると言えます。

サーバー使用率の改善:

  • ワークロードの管理と統合
  • サイクル・タイムの短縮

コラボレーションとデータへのアクセス:

  • データ・フェデレーション
  • グローバルな分散

インフラストラクチャーの回復力と可用性の向上:

  • ビジネスの継続性
  • リカバリーとフェイルオーバー

今や私たちの間ではグリッドはビジネスに有益であるということで意見が一致していますが、このアイデアのすばらしさを経営陣に売り込むにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。では、そのためにビジネス・ケースを作成することにしましょう。




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ビジネス・ケースとは何か

ビジネス・ケースの設計および作成には、数多くの方法論があります。ここでは、アーキテクトおよびデベロッパーがグリッド・アプリケーションにフォーカスする新規のテクノロジー・プロジェクトを立ち上げる際に、潜在的なメリット、コスト、および課題を調査するときに役立つ基本的な方法論をいくつか簡単に紹介します。

グリッド固有の考慮事項に戻る前に、ビジネス・ケースの目的を正しく理解するために時間を少し取りたいと思います。ビジネス・ケースとは、プロジェクトまたは意思決定を承認するに至った理由を論理的かつ事実に基づいて説明するものです。

ビジネス・ケースの策定目的は次のとおりです。

  • 1 つまたはそれ以上のプロジェクトを進めるための承認を得る
  • 社内部門プロセスや予算委員会プロセスを経て、1 つまたはそれ以上のプロジェクトのために必要な資源を入手する
  • 資金を調達できた場合、(利用可能な資源で)プロジェクトで何を達成できるのかを文書化する

ビジネス・ケースを使用することによって、資源の承認を与える者は、プロジェクトの根拠を分析し、プロジェクトの経済的意味(財務面と戦略面)を評価できるほか、プロジェクトの影響を分析し、それらを重大なリスクや現行の政治的な環境などの他の要因と比較検討できます。




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ビジネス・ニーズとデータ収集

アプリケーションがグリッド上で実行できるならば、そのアプリケーションはグリッドに対応しているということができます。しかし、グリッドをフルに活用するということは、仮想化されたグリッド・インフラストラクチャーの利点を活かして、処理時間の高速化や、コラボレーションの強化を意味します。このためには、アプリケーション構造をモジュール化して、各モジュールが分散グリッド・インフラストラクチャー全体で実行できるように変更する必要があります。あるいは、妥当なパフォーマンス特性を維持しながら分散データへのアクセスを容易にするようなデータ・アーキテクチャーが必要です。

基本的なビジネス機会のアセスメント

このステージの目標は、企業がグリッド環境に移行するとメリットが得られるアプリケーションを保有しているかどうかを判断し、初期投資とその後のROI を見積もることです。グリッド環境に移行すると、幅広いメリットを得ることができます。

ビジネス上のメリット:
  • 結果を得るまでの時間および市場投入までの時間を短縮できる
  • 複数の部門または組織で資源を共有できる
  • 柔軟かつ動的なインフラストラクチャーを構築できる
  • 規模の拡大や縮小を効率よく行える
  • 生産性とコラボレーションを改善することができる
技術上のメリット:
  • ワークロード管理を統合できる
  • 需要が高いアプリケーションに適切なキャパシティーを提供できる
  • インフラストラクチャーの回復力と可用性を向上させることができる
  • ワークロードのバランスを取ることができる
  • 障害からのリカバリーが可能になる

次のチャートに、グリッド・コンピューティングを使用することによって、これまでに述べたメリットが得られるいくつかの例を示します。

エネルギー金融サービス製造生物情報科学通信政府および教育
  • 地震波解析
  • 油井探索解析
  • デリバティブ分析
  • 統計分析
  • リスク分析
  • バッチ・スループット
  • 製品設計
  • プロセス・シミュレーション
  • 有限要素解析
  • 故障解析
  • 癌研究
  • 創薬
  • タンパク質の折り畳み解析
  • タンパク質の配列解析
  • 帯域幅消費
  • デジタル・レンダリング
  • マルチプレーヤー・ゲーム
  • 共同研究
  • 気象解析
  • ハイパフォーマンス・コンピューティング

グリッドが役立つ可能性があると判断できたら、次に、ビジネス機会のアセスメントの第一歩として、パフォーマンス・シミュレーションを実行します。

パフォーマンス・シミュレーション

グリッドが実行可能なソリューションだとしても、さまざまなテクノロジーの選択がパフォーマンスに与える影響はどうすれば判断できるでしょうか。この場合の影響には、グリッド・スケジューリング・ポリシーの選択肢、プロビジョニング/オーケストレーション・ポリシー、構成などのほか、提案するグリッドの設計がワークロード量のランダムで急激な増加やキャパシティーの予期しない減少をどのようにサポートするのか、などが含まれます。これは、グリッド・ソリューションのダイナミクスを把握し、ワークロードがパフォーマンスに与える影響を理解するためのベースライン(基準となる線)となります。

次に、コストを分析してその具体的な内容を特定し、グリッドに対してどのようなオプションを利用できるのかについて調べます。




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コスト分析

コスト分析を行うと、現在のインフラストラクチャーとさまざまなグリッドの選択肢におけるITコストを比較するためのデータが得られます。これには、グリッド以外のアップグレード・オプションも含まれます。最終的には、グリッドの構築と運用にかかる詳細なコストが得られます。通常、コストを理解するのは比較的簡単です。しかし、グリッドの場合は、2つのことに注意する必要があります。1 つは、グリッド環境におけるソフトウェアのライセンスおよび価格設定の影響です。ソフトウェアベンダーがどのように管理しているのかを調査しておきます。もう1 つは、コストの項目間の関係と、それらのコストがグリッドの成長につれてどのような影響を受けるかということです。特に、手動の操作による労働という観点からコストに注目します(労働に対する人的コストは、グリッドにおいて自動化が重要な理由の 1 つです)。

取得コスト:
  • システムを立ち上げて稼働させるのにかかるコストはどのくらいか
  • 開発者/プロジェクト・マネージャーの作業時間はどのくらい必要か
  • 新規のグリッド・プロジェクトによって影響を受ける他のプロジェクトにはどのようなものがあるか
移行とトレーニングのコスト:
  • 開発者/プロジェクト・マネージャーの作業時間はどのくらい必要か
  • グリッド・アプリケーションによってビジネス・プロセスはどのように変更されるか
  • 開発者によるエンド・ユーザーのトレーニングは必要か
保守コスト:
  • グリッド・アプリケーションの持続的な成長をサポートするために開発者が時間を割くことができるか
  • グリッド・アプリケーションは定期的に更新されるか
運用コスト:
  • ハードウェアのコスト
  • データ・センターの場所を確保するためのコスト (該当する場合)
  • ソフトウェアのコスト (該当する場合)
  • システム管理のコスト
  • 人的資本にかかるコスト

代替ソリューション

どのようなときでも、オプションを考慮するのは賢明なことです。明らかな関心事としては、グリッドを使用した場合と同様の成果が望める手段が他に存在するかという点があります。検討する価値がある可能性がある代替手段としては、大規模なUNIXR や WindowsR ボックス、時にはメインフレームにコンピューティング能力を求めるというものがありますが、これらはコモディティ化したLinuxRボックスや安価なソフトウェアに対して競争力がない場合もあることでしょう。読者の皆さんの環境では、既存のサーバーにCPU パワーを追加したり、1ギガバイトの RAM を増設したりすることは可能ですか?時には可能な場合もあるでしょう、しかし、究極的には、そのようなアプローチはうまく規模の拡大を図ることはできないでしょう。

グリッド・アプリケーション最大のセールス・ポイントの一つは、サーバーを水平方向に「無限に」拡張できることです。Googleが本質的には巨大なグリッド・アプリケーションであり、数千台のコモディティ化しているLinuxマシン上にスケールしているということを思い出してみてください。しかも、Googleは毎日その規模を拡大しています。

他の代替手段としては、オンデマンド・データ・センターを提供している多数の企業のサービスを使用するというものがあります(「ユーティリティー・コンピューティング」ともいいます)。この場合は、必要に応じてコンピューティング時間をレンタルします。多くの点で、これは資産コストを経費に置き換える財務モデル上の決定といえます。さらにこの場合、ホスティングを提供している企業のデザインに合うようにアプリケーションを設計する必要があります。




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ビジネス価値の分析

これまでのすべてをやり終えた今、グリッド・ソリューションがもたらす実際のビジネス価値とはどのようなものでしょうか。財務面では、幅広く影響が出る可能性があります。ワークロード量の増大に対応できるキャパシティー、エンド・ユーザーへの応答時間の短縮、分析実行頻度の増大といったシナリオが考えられます。次の課題は、このようなシナリオをどのように定量化して財務的影響を測定するかです。例えば、予定を1 週間前倒しして製品を市場に投入すると、販売期間が増える分、売上と収益が増えます。成長、売上、および収益についてのプラス効果を調べてビジネス・ケースを実証することが重要です。

グリッド・ソリューションでは、業務上のメリットを拡大できる可能性があります。グリッド・コンピューティング・ソリューションを導入したお客様がビジネス・プロセスを加速したり、市場投入までの時間を短縮したりするといった目を見張るような実例がたくさんあります。

このステップでは、組織内のステークホルダーを把握しておくことも大切です。

ステークホルダー

非技術的な組織の壁が、グリッドや共有コンピューティングの障害となることがよくあります。どのチームあるいは個人が作業担当者および支持者としてビジネス・ケースの影響を受けるのかを特定することが重要です。ステークホルダーとは、特定の事業または組織に参画または関与している個人のことです。ビジネス・ケースを作成する、この段階では、そのビジネス・ケースで議論する製品またはソリューションの影響を直接または間接的に受ける組織内の個人および部門を特定します。

グリッド計画への賛同を得るのは必ずしも容易なことではありません。ステークホルダーが懸念する事項をいくつか挙げると次のようなものがあります。

  • 資源への制御を失ったり、アクセス(利用)ができなくなったりする
  • 予算を全く失ってしまったり、予算が削減されたりする
  • 部門間のデータ・セキュリティーの欠如
  • 外部へのデータ流出の懸念
  • プロジェクトの優先順位の低下
  • 社内全体への展開に関するリスク

このすべてを踏まえて、該当するステークホルダーを特定し、各人の懸念を緩和するよう努めてください。

財務分析

ビジネス・ケースを定量化するときに財務面で検討すべき事項は、資産への投資対効果、正味現在価値、資本回収期間、および時間経過によるキャッシュ・フローへの影響です。

財務面での影響は、ビジネス・ケース承認の最大の障害物になる可能性があります。技術的な提案だけではなくビジネスへの影響もサポートするデータを揃えておくことが大切です。このため、ビジネス・ケースは実際の財務用語、つまりCFO が理解できる用語を使用して提示することが重要です。よく使用されるものとして、内部収益率(IRR)、回収期間、割引キャッシュ・フロー(DCF)分析などがあります。社内で使用される財務指標を把握し、テクノロジーへの投資を決定する際のビジネス・ケースでもそうした指標を対応付けていく必要があります。




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ビジネス・ケースを説得力のあるものにするためのポイント

グリッド対応にすることによってメリットが得られるアプリケーションを保有しているか

どのような影響をパフォーマンスに与え、また、影響の具体的な内容はどんなものか

どのくらいのコストがかかるか

グリッド・ソリューションからどのようなビジネス価値を得られるか

どのような財務指標が説得力を持つか




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ビジネス・ケースを売り込む方法

1. 「お客様」の期待を明確に理解します。
  • エンド・ユーザーおよびお客様企業はグリッド・アプリケーションからどのようなメリットを入手できるのか。
  • 現実的な期待を設定する。
2. 問題点を明確に定義します。
  • 「追加のコンピューティング能力が必要ですが、大規模なマシンを導入する余裕はありません」などのシンプルな表現の場合も、「非同期I/O の問題がアプリケーションの設計上の欠陥になっており、そのため CPU がキャパシティーのわずか2% しか稼働していません」などの複雑な表現になる場合もあるでしょう。
3. 必要なデータを収集します。
  • この記事で取り上げた情報をすべて装備し、多面的な提案を提示する。技術的な内容に留まらないようにする。
4. 分析を実行し、データを集約します。
  • 発見・所見や正当性のある根拠・妥当性を理解しやすい項目にまとめあげる。
5. 経営陣に報告します。
  • データに基づく正式な調査結果を経営陣およびステークホルダーに提示し、懸念を緩和して、支持を得る。



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結論

グリッド・コンピューティングはもはや、理論の先行した机上の、ハイリスクな、メリットがあいまいな提案ではなく、実証済みのテクノロジーです。グリッド・コンピューティングの力からメリットを得ている企業の例は多数あります。グリッドを導入すると、これまで不可能であったことも実現できるため、コスト削減の効果だけでなく、ビジネス全体で上昇する価値についても定量化することが重要です。この観点からグリッドを理解した企業が、徐々に競争力をつけてきています。現実的なビジネス・ケースを作成することにより、グリッド環境に投資した場合の収支への影響、指標、およびポジティブなROI を具体的に提示できます。



参考文献



著者について

Author photo

In addition to writing and consulting, Dave Rosenberg runs the conference programs for LinuxWorld. His dream technology is a grid application running on Linux-based cell phones.




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