最近のビジネス・プロセス管理(BPM)の世界では、ケース管理(Case Management)という考え方が注目されています。従来のBPMは、定型の業務を正確に効率よく進めるために有用ですが、実際の業務の中には、例外的な処理や特定の人物の知識(ナレッジ)に依存した判断が必要になる場合が多く発生します。 従って、ケース管理システムでは従来のBPMではカバーしきれなかった柔軟で対応性に富んだプロセスをサポートする必要があります。IBM Case Manager は、ケース管理システムの設計および構築の作業を単純化するツールと、ケース担当者が容易にケースを管理できるユーザー・インターフェースを提供します。 本稿では、このIBM Case Managerについてご紹介いたします。
ケース(業務案件)管理は、従来のBPMとは何が違うのでしょうか?どちらもワークフローでプロセスの流れを表現し、ロール(role)があり、情報やデータを扱い、履歴を管理し、分析を行ってビジネス・プロセスの効率化を目指しています。非常に似たもののように思えますが、それらの方法や考え方が異なっています。
BPMは、ワークフローが最も重要な要素となっています。つまりワークフローを定義し、最適化や自動化を行うことによりビジネス・プロセスの効率化を行います。すべての情報は、事前に定義されたワークフローに従って、各ステップに割り当てられた担当者が処理を行います。
もし、新規のプロセスが発生して、それが事前に定義されたプロセスと違っていた場合、ナレッジ・ワーカーは、得られた情報により、適切な他の専門家を参加させたり、また別のワークフローを開始する必要が出てくる場合があります。これらのプロセス管理を柔軟にダイナミックに行うものがケース管理です。ケースごとにどのタスクを実行すべきか選択でき、誰をその案件に巻き込むべきかを選択できなければなりません。それらの判断のためにケース管理では、情報が最も重要な要素となると言われています。
通常、業務案件が発生してから終了するまでの間には、莫大な量の情報が収集されています。多くの場合、情報は複数の形式 (書簡、ファックス、契約書、電子メール、写真など) で保存されています。また、そうした情報提供のための処理は、非効率的で、多大ナレッジ・ワーカーやケース担当者が当該の案件(および将来発生する案件) を最善の方法で処理できるようにするためには、収集したすべての情報を整理し、必要なときにアクセスできる状態にしておく必要があります。ナレッジ・ワーカーは、専門知識にリアルタイムでアクセスし、それに基づき迅速で正確な判断を行う必要があります。
また、リスク管理を改善してコンプライアンスに対処するには、業務案件管理のソリューションや戦略を活用することによって、規制管理のプロセスも自動化し、業務案件の開始から保存・記録管理に至るまでのライフサイクル全体に対処する必要があります。
IBM Case Managerは、ケースに関する情報をあらゆる角度から検証可能にし、業務を最適化することができ、従来の定型業務型のBPMより、柔軟で拡張性に富んだソリューションを提供することを可能にするものです。
まずは、IBM Case Managerのアーキテクチャーについて見ていきましょう。図1に、IBM Case Managerの基本構成を示しています。
図 1. IBM Case Managerの基本構成
IBM Case Managerは、以下の基本コンポーネントから構成されます。
- IBM Case Manager Builder
- IBM Case Manager クライアントと Lotus Mashups
- IBM Case Manager API
- IBM Case Manager 管理クライアント
- FileNet P8 Content Engine
- FileNet P8 Process Engine
- FileNet P8 Workplace XT
IBM Case Manager は WebSphere Application Server にデプロイされます。
Case Manager Builder は、ケース管理ソリューションを作成する物で、Content Engine データベース内のケース管理設計オブジェクト・ストアを使用します。設計環境と実稼働環境は、別々の FileNet P8 ドメインに置く必要があります。設計ドメインは Case Manager Builder 専用にする必要があります。FileNet Deployment Manager を使用して、ソリューションをドメイン間でマイグレーションすることができます。
Case Manager クライアントは IBM Mashup Center 環境で動作します。Case Manager クライアント は、ソリューションのケースを処理するために使用するユーザー・インターフェースとして機能します。Case Manager Builder と Case Manager クライアントは、 Web ブラウザーでアクセスします。
IBM Case Manager APIは、3種類のRESTベースのAPI(Content Management Interoperability Services (CMIS), PE REST, Case REST)を提供しています。ユーザーは,、これらのAPIを使用してCase Manager上にカスタム・アプリケーションを作成することもできます。
Case Managerは、FileNet P8 の Content Engineを使用してコンテンツおよびソリューション・データにアクセスし、それらを管理します。ユーザー・アクセスおよび許可には Lightweight Directory Access Protocol (LDAP) が使用されます。 Case Manager Builderで作成したワークフローは、FileNet P8 の Process Engineで実行されます。またそのワークフローの定義は、Process Engineのプロセスデザイナで編集することもできます。
FileNet P8 WorkplaceXTは、コンテンツにアクセスするためのアプレット機能を提供しています。
図2は、拡張機能を含めたIBM Case Managerの構成を示しています。
図 2. IBM Case Managerの拡張構成
Case Managerは、以下のコンポーネントと統合されてます。
- Case Analyzer
- Cognos Real Time Monitoring
- IBM Content Analytics
- WebSphere ILOG jRules
- Lotus Sametime
本稿では詳しく述べませんが、これらのコンポーネントを使用することにより、ビジネス・プロセスの分析やより複雑なルールを管理することができるようになります。
IBM Case Managerの、以下のコンポーネントの機能について説明します。
- Case Manager Builder
- Case Manager Client
- Case Manager 管理クライアント
Case Manager Builder は、ケース管理ソリューションの作成及びビルドを行うための Web ベースのツールです。 Case Manager Builder のウィザードを使用してガイドに沿ってソリューションを作成することも、任意の順序でソリューション・コンポーネントを手動で作成することもできます。Case Manager Builderで、プロパティー・タイプ、ドキュメント・タイプ、ケース・タイプ、タスク・タイプ、タスクのステップを定義することができます。図3は、Case Manager Builderのホーム・ページで、ソリューションの一覧とそれらのデプロイメント状況が表示されています。ここで、新規ソリューションの作成、既存のソリューションの編集、ソリューションのデプロイ及びテストを行うことができます。
図 3. Case Manager Builderソリューションの管理画面
図4は、Case Manager Builderのソリューション編集画面です。ここでソリューションのプロパティー、ロール、ドキュメント・タイプ、受信トレイ、ケース・タイプの編集を行います。
図 4. Case Manager Builder ソリューション編集画面
図5は、Case Manager Builderのステップ・エディターの画面です。ここではタスクのプロセスをグラフィカルに定義することができます。スイムレーンの表示により各ロールのでタスクがわかりやすく定義できます。
タスクは必須またはオプションに設定できます。また、自動的に開始するように設定することも、ケース担当者が手動で開始するように設定することも可能です。ケースは、必要なタスクがすべて完了したときに完了します。タスクをグループ化することにより、相互に排他的にしてグループ内の 1 つのタスクのみを完了できるようにすることも、グループ内のすべてのタスクを包括的に完了しなければならないようにすることもきます。
図 5. Case Manager Builderステップ・エディター画面
Case Manager クライアントは、ケース担当者が各ケースの作業を実行するための Web ベースのアプリケーションです。Lotus Mashup上のCase Widgetsにより、各ページを自由にカスタマイズすることができます。図6は、Case Clientのケースの詳細情報画面の例です。この画面では、ケース・ツールバー、ケース情報、文書ビューアー、ケース・データウィジェットなどから構成されています。Case Manager Builderでソリューションを作成しデプロイすると、Case Managerは、このようなデフォルトのCase Clientのページとスペースを自動的に作成します。ユーザーは、デフォルトのページをカスタマイズしたり、新しいページを作成しソリューションに追加することもできます。
図 6. Case Client ケースの情報画面
Case Manager クライアントには、以下のようなIBM Case Manager ウィジェットが提供されます。 これらのウィジェットを使用して、アプリケーションをさらに使いやすくカスタマイズすることができます。
- Toolbar ウィジェット
Toolbar ウィジェットは、ケース担当者が Web ページを開く、ケースを追加する、ロールを管理する、カスタム・アクションを実行するといった操作を行うことができます。図7は、Case Clientのワークページでの使用例です。
- In-basket ウィジェット
In-basket ウィジェットでは、ケース担当者が個人用受信トレイおよびケース担当者のロールに関連付けられた受信トレイのワーク・アイテムを表示し、処理することができます。図7は、Case Clientのワークページでの使用例です。
- Work Item Toolbar ウィジェット
Work Item Toolbar ウィジェットは、ケース担当者がワーク・アイテムに応答したり、新規タスクを追加したりできるようにします。(図8)
- Case Data ウィジェット
Case Data ウィジェットは、ケース担当者がケースまたはワーク・アイテムのプロパティー値を表示および編集できるようにします。(図8)
- Document Viewer ウィジェット
Document Viewer ウィジェットは、FileNet P8 オブジェクト・ストアに保管されているケース担当者のドキュメントを表示します。アノテーションを編集することもできます。(図8)
- Case Information ウィジェット
Case Information ウィジェットは、ケースの概要をケース担当者に対して表示します。 Case Information ウィジェットには最大 4 つのビュー、「要約」、「ドキュメント」、「タスク」、「履歴」を表示できます。(図8)
- Attachment ウィジェット
Attachment ウィジェットは、ワーク・アイテムに添付されたドキュメントのリストを表示できます。 ドキュメントは IBM FileNet Content Engine サーバーに保管されています。(図8)
- Search ウィジェット
Search ウィジェットは、選択したプロパティー値によるケース検索機能を提供します。(図9)
- Case List ウィジェット
Case List ウィジェットは、検索で返されるケースの一覧をを表示します。 ケース担当者は、表示するケースをリストから選択することができます。(図9)
- Case Toolbar
Case Toolbar ウィジェットは、ケース担当者がケースに対して実行するアクションを指定します。 それらのアクションは、ツールバーのボタンまたは「その他のアクション」メニュー項目として実装することができます。
- Command ウィジェット
Command ウィジェットは、各ページに配置された非表示のウィジェットです。このウィジェットは、ケース担当者がケースまたはワーク・アイテムを開くとき、またはこれらを作成、更新するときのページ・ナビゲーションを制御します。また、データのロードと、ケースおよびワーク・アイテムの詳細の保存を行います。
- Case eForm ウィジェット
Case eForm ウィジェットは、ワーク・アイテムのワークフロー・データのフィールド値を編集します。 データ・フィールドは、FileNet P8 eForms で作成した eForm に表示されます。
図 7. Case Client ワーク画面における、ToolbarウィジェットとIn-basketウィジェット
図 8. Case Client ワークの詳細画面における WorkItem Toolbar、Case Data, Case Information, Document Viewer, Attachmentウィジェット
図 9. Case Client ケース画面における Search、Case Listウィジェット
Case Manager管理クライアント(CMAC)は、Case Manager Builder および Case Manager クライアントの環境を構成するためのツールです。CMACは、開発環境で作成したソリューションを実稼働環境へデプロイする場合にも使用されます。CMACでは、以下の3種類のプロファイルを作成しそれぞれのタスクを定義・実行することで必要な構成を行うことができます。
- Case Manager Builder 構成プロファイル
このプロファイルでは、Case Managerの開発環境を構成するタスクを定義します。これらのタスクは、Case Manager BuilderやCase Manager APIをWebSphere Application Serverへのデプロイ、LDAPの構成、Case Manager開発環境で使用するオブジェクト・ストア、Process Engine接続ポイント、IBM Mashup Centerサーバーの定義を含んでいます。
- Case Manager クライアント構成プロファイル
このプロファイルでは、Case Managerクライアント・アプリケーションの構成を行います。Case Managerクライアント・アプリケーションをWASへのデプロイ、IBM Mashup Centerサーバーへの登録等から成ります。
- ケース・デプロイメント・プロファイル
このプロファイルでは、作成したソリューションを実稼動環境にデプロイします。また、実稼働環境へCase Manager APIをデプロイしたり、IBM Mashup Centerサーバーで作成したカスタム・ページをエクスポートすることができます。
図 10. Case Manager管理クライアント 開発環境の構成画面
図11は、IBM Case Managerにおけるケース管理ソリューション作成の流れを示しています。
図 11. ケース管理ソリューション作成の流れ
- ケース管理ソリューションの設計
ケース管理ソリューションを設計するには、ユーザーの主な目標を達成するために必要となるユーザー・タスクを識別します。必要となるビジネス・レベルのタスクとステップを決定した後、これらのタスクおよびステップを 1 つのケースにグループ化します。これらのステップを完了するために必要なコンテンツを識別する際には、そのコンテンツを処理するユーザー、そしてタスクを完了するために発生しなければならないこと、発生してはならないことを決定します。
- ケース管理ソリューションのビルド
Case Manager Builder を使用して、ユーザーが Case Manager クライアント からアクセスするソリューションを設計することができます。ソリューション とは、ユーザー・インターフェース、コンテンツ、およびプロセス定義のセットであり、これにより、ケースを管理できるようなフレームワークが提供されます。
- ステップ・エディターでのワークフローの作成
タスクを完了するために完了する必要のあるステップを作成できます。ステップ・エディターを使用して、ステップを定義し、ワークフロー内でこれらのステップを接続します。ワークフローにより、特定のビジネス・プロセスのケース・ドキュメントおよびケース・データのルーティングと処理が自動化されます。
- ケース管理ソリューションのカスタマイズ
フォーム、追加ルール、分析、およびロギングと報告書作成を統合することによって、ケース管理ソリューションをさらに拡張できます。
- 実稼働環境へのソリューションのデプロイ
ケース管理ソリューションの開発および初期テストを完了した後、ケース担当者がそのソリューションを使用できるように、ソリューションを実動オブジェクト・ストアにデプロイすることができます。
ケース管理では、ダイナミックにビジネス・プロセスを管理する必要があります。IBM Case Managerは、従来の定型業務型のBPMより、柔軟で拡張性に富んだソリューションを提供することができます。Case Manager Builderにより、ソリューションの作成、編集を容易に行うことができます。また、Case Manager Clientは、ユーザーの画面を豊富なウィジェットにより自由にカスタマイズすることができます。これらによりIBM Case Managerは、お客様のビジネス・プロセスの効率化に役立ちます。