ウェザー・リポート: クラウドへ移行するにあたって検討すべき事項

アプリケーションをクラウドへ移行する際の技術的な検討事項とビジネス上の検討事項

この記事では、Google の Cloud Computing Use Cases グループによって作成され、改訂作業が続けられているクラウド・コンピューティングに関するホワイト・ペーパー「クラウド・コンピューティング ユース・ケース ホワイト・ペーパー」に、「Migration to Cloud (クラウドへの移行)」セクションを追加するにあたって検討すべき事項とそのプロセスについて、IBM Cloud のエキスパートである Dave Russell が Google の Cloud Computing Use Cases グループでの 2 つのディスカッションについて紹介します。

Dave Russell, Program Manager, IBM

Dave Russell は 2003年から Software Standards and Emerging Technologies チームに所属しています。彼は長年、WS-I (Web Services Interoperability Organization) のマーケティングおよび通信委員会 (Marketing and Communications Committee) の議長として積極的に活動していました。彼はソーシャル・ネットワーキング・ツールを活用してオープン・コミュニティーへの参加意識を高め、クラウド・コンピューティングに対する利用者の要求を反映したホワイト・ペーパーを作成するための活動に積極的に取り組んでいます。このオープン・コミュニティーを活用してホワイト・ペーパーを作成する手法は成功を収めており、2009年 6月以来、第 4.0 版までホワイト・ペーパーが作成、公開されています。現在、このホワイト・ペーパーの第 5 版が「Moving to the Cloud (クラウドへの移行)」というトピックを追加して作成中です。



2012年 4月 26日

クラウド・コンピューティング ユース・ケース ホワイト・ペーパー」の「Migration to Cloud (クラウドへの移行)」セクションに含める内容として検討すべき事項に関し、これまでにいくつかの優れたコメントが寄せられました。しかし提案された検討事項の 1 つひとつを説明するのではなく、もっと価値のある作業として、クラウドに移行すべきサービスを特定するプロセスの確立を検討します。

背景

2010年 9月 22日2010年 8月 25日に立てられた実際のスレッドをたどってみてください。皆さんもこのグループに参加して意見を述べることができます。

この新しいシリーズ「ウェザー・リポート」には以下の 2 つの目的があります。

  • クラウドの専門家が、クラウド・コンピューティングにおける出来事についてコメントしたり、クラウド・コンピューティングの設計、開発、実装に関する彼らの経験を伝えたりできるようにすること。
  • 今後の実際のクラウド・コンピューティングを形作ることにつながる議論に、読者の皆さんが参加できるようにすること。

以下の点に注意してください: クラウドの利用者である CIO (最高情報責任者)、CTO (最高技術責任者)、CFO (最高財務責任者) は、あるサービスをクラウドへ移行することによる投資収益率 (ROI) を知りたいと望むものです。一方、クラウド・プロバイダーは、サービスをホストすることで収益を上げる必要があります。この 2 つの考え方はどちらも妥当なものです。そのため、リスクを最小限にするためのルールを適用するよりも前に、クラウドへ移行することによるビジネスへの影響を検討することが重要です。

要するに、クラウドへの移行がビジネスの成功にとってプラスの効果をもたらさない場合には、おそらくクラウドへ移行する価値はない、ということです。

2010年 9月 22日に立てられたスレッド: クラウドに移行すべきサービスを特定するための繰り返し可能なプロセスの提案

以下で提案する内容は、「クラウド・コンピューティング ユース・ケース ホワイト・ペーパー」次版の「Migration to Cloud (クラウドへの移行)」セクションで扱うのが妥当であると私たちが考える検討事項です。おそらく他にも、見逃されている検討事項がいくつかあるはずです (そして読者はそれらの事項について、ディスカッション・グループで貢献することができます)。

ステップ 1: 既存または新規のプロセス、サービス、データを候補として特定する

すべてのプロセス、サービス、データがクラウドへ移行する候補となるわけではありません。ビジネス上の判断基準を用いて、クラウドへ移行するとよい候補を特定する場合、例えば以下のような判断基準が考えられます。

  • コストの節約になるか?
  • 変化する処理量に対応できるほど柔軟性を向上できるか?
  • 顧客にとってのアクセス速度が向上し、顧客満足度を高められるか?
  • 既存の IT 環境の負荷を軽減できるか?
  • 他の企業で行われる類似の作業とクラウド内で統合することができるか?
  • その他。

プロセス、サービス、データが既存のものであれ、新規のものであれ、上記の判断基準の 1 つ以上を満たす場合には、それをクラウドへ移行可能な候補にすることができます。

ステップ 2: 候補のリスクを管理する

リスクの管理をより簡単に行うには、出発点が必要です。クラウドへ移行する候補としてのデータについて検討する場合、他のすべての候補についての検討も、そのデータに対して行った検討と性質が関連するようになるのが望ましいと言えます。

データのタイプには、以下のようなものがあります。

  • 誰もがアクセスできるデータ (カタログの一部などが考えられます)。
  • アクセスが制限されるデータ (機密情報、またはプライベート情報として保持すべき情報、またはその両方)。
  • 企業間で共有されるデータ。
  • 24 時間アクセスできる必要があるデータ。
  • 1 秒以下でアクセスできる必要のあるデータ。
  • もちろん、他にも候補となり得るデータがあります。

ステップ 1 で特定したデータの候補に対して検討を行った後は、その候補と移行の候補ではない他のプロセス、サービス、データとを分離できるかどうかの判断が非常に重要です。特定された候補を候補以外のプロセス、サービス、データと独立して実行できる場合には、リスク・レベルを割り当てることができます。

リスク・レベルを割り当てる一環として、そのデータに適用されるセキュリティー・ポリシーを検討する必要があります。その他のリスクに関する検討事項として、サービス・レベル・アグリーメント、シングル・サインオン機能、可用性、災害復旧などがあります (最初のホワイト・ペーパーには検討事項の一覧が挙げられています)。

リスク・アセスメントの検証の一環として、プライベート・クラウド環境で候補をテストできる必要があるかもしれません。そうすることで、そのサービスをクラウド・プロバイダーにデプロイする前に、その企業が確立したセキュリティー・ポリシーを変更する必要がないことを確認することができます。

ステップ 3: データ使用量に伴うコストを見積もる

また、データ量やリスク管理の観点から、クラウド内でビジネスを行うコストも検討する必要があります。リスク問題に関する判断とその対応を確実に行いながら、コストの検討を並行して行う必要があります。

クラウドでサービスを提供する場合、データにアクセスするためにはコストがかかるため、データ・アクセスのコストを把握することが重要です。クラウド利用者は、平均アクセス速度、アクセスの集中時期、アクセスが少ない時期を予測する必要があります。アクセス量とアクセス・パターンを予測して把握することで、コストを見積もることができます。

月末や四半期末に CFO (最高財務責任者) が驚くようでは困るということを忘れないでください。特に、クラウド・サービスを実行するためのコストが予算額を超過して彼らが驚くようではいけません。


8月 25日に立てられたスレッド: クラウドへの移行にあたって検討すべき事項

フィードバックをくださった皆さんに感謝いたします (このディスカッションとフィードバックについての最初のスレッドをたどってみてください)。このディスカッションが始まった時には検討事項となり得るトピックやサブトピックは 8 つでしたが、現在は 17 にまで拡大しています。

トピック 1: ワークロードの要因

ワークロードの要因として、以下のような事項を検討する必要があります。

  • データ・マイニング。
  • 給与支払いなどの社内アプリケーション。
  • 医療記録などの顧客データの管理。
  • 個人識別とセキュリティー。
  • Web サイト。(製品カタログなどの) 静的サイトの場合や、(注文受付などの) インタラクティブなサイトの場合があります。
  • バッチ処理 (遺伝子データベースの分析、ワークフローのようなワークロード、Hadoop のようなワークロードなど、実行に長い時間がかかる処理)。

トピック 2: クラウドのタイプ

クラウドのタイプに関して、以下の点を検討する必要があります。

  • 必要なセキュリティー・レベルの基礎となる要件に合っているかどうか。
  • クラウドに対する要件とセキュリティー、可用性、アクセス性等が対応しているかどうか。

トピック 3: 規制への対応

規制に準拠するために、以下について検討する必要があります。

  • HIPAA、SOX、GLBA、Patriot ACT (これらは一例にすぎません。世界のさまざまな国々で、これらを補完するような規制があるはずです)。
  • PIV-I、国民識別番号など。
  • 業界標準化団体による標準など。
  • 業界特有の要件を反映した agxml.org などの業界団体。
  • 金融機関に対する PCI 規格や、他の国々で PCI に相当する規格。
  • データの場所が政府による規制に沿っていること。

トピック 4: クラウドの用途

クラウドの用途として、以下のようなタイプを検討する必要があります。

  • 新規アプリケーションの開発。
  • 新規アプリケーションや既存アプリケーションのテスト。
  • 既存アプリケーションを本番として実行する場合 (クラウドへの移行には真の IaaS が必要であり、PaaS のみでは不十分な可能性があることを考慮してください)。

トピック 5: 可用性と信頼性

クラウド環境の可用性と信頼性に関して、以下の点を検討する必要があります。

  • サービス・レベル・アグリーメントに基づいているかどうか (ホワイト・ペーパーの第 4.0 版の「サービス・レベル・アグリーメント」セクションを参照してください)。

トピック 6: 移植性

アプリケーションの移植性に関して、以下の点を検討する必要があります。

  • IT 環境からクラウド・プロバイダーへの移植性。
  • クラウド・プロバイダー A からクラウド・プロバイダー B への移植性。
  • クラウド・プロバイダーから IT 環境への移植性。
  • 私達のメンバーの 1 人は、移植性は重要ではないかもしれないと指摘しています。

トピック 7: パフォーマンスとワークロード

ワークロードの量とパフォーマンスの問題に関して、以下の点を検討する必要があります。

  • 転送およびアクセスされるデータの量の把握。
  • ユーザー・トラフィック。
  • 垂直スケーリングと水平スケーリング (レガシー・アプリケーションについて調べてください)。
  • ワークロードの最適化: ワークロードのリソース要求とリソース配置を動的に評価、最適化するための方法。

トピック 8: 災害復旧

災害復旧に関して、以下の点を検討する必要があります。

  • クラウドは災害復旧のための代替手段なのでしょうか?
  • クラウド・プロバイダーに障害が発生した場合、どんなことを考慮する必要があるのでしょうか?

トピック 9: 移行の方式

移行の方式に関して、以下の点を検討する必要があります。

  • データへのアクセスのしやすさ (データの同期とクロスサイトの信頼性の問題を検討する必要があります)。

トピック 10: サービスの開発とテスト

サービスの開発とテストに関して、以下の点を検討する必要があります。

  • クラウド環境を使用してメイン・サイトのワークロードを軽減する方法。

トピック 11: ビジネス・ケースとビジネス・モデル

ビジネス・ケースを策定する場合、以下の点を検討する必要があります。

  • 対象とする市場はどれなのか?
  • 自分の顧客にとって、どの側面が重要なのか?
  • 自社のシステムやその他の手段と比較した場合のクラウド・コンピューティングのメリット。

トピック 12: 認証、承認、監査

アプリケーションに対する一般的な認証、承認、監査の処理に関して、以下の点を検討する必要があります。

  • フェデレートされた ID の問題: SAML または OpenID のどちらに従うことがベストなのでしょうか?

トピック 13: プライバシー

プライバシーについて検討する必要があります。

トピック 14: セキュリティー

セキュリティーに関して、以下の点を検討する必要があります。

  • 「クラウド・コンピューティング ユース・ケース ホワイト・ペーパー 第 4.0 版」のセキュリティーに関するセクションに挙げられた項目のすべて。

トピック 15: サービス・レベル・アグリーメント

サービス・レベル・アグリーメントに関して、以下の点を検討する必要があります。

  • 「クラウド・コンピューティング ユース・ケース ホワイト・ペーパー 第 4.0 版」のサービス・レベル・アグリーメントに関するセクションに挙げられた項目のすべて。

トピック 16: 個人識別

クラウド・リソースに対して認証を行うユーザーの識別を確実にするために、以下の点を検討する必要があります。

  • 信頼できる識別情報の提供。
  • 移植性が確保されていること。

次のステップ

クラウド・コンピューティング技術の特定トピックに関するベスト・プラクティスを作成するにあたって意見のある人は、この記事で説明したグループに参加し、改訂が続けられるホワイト・ペーパーに皆さんの声を反映させてください。

クラウド・コンピューティングの技術、プロジェクト、動向に関してコミュニティーで議論されている内容を知るためには、まず My developerWorksCloud Computing Central グループに参加してください。

トピック 17: データのマイグレーション

管理の一環として、データのマイグレーションに関して、以下の点を検討する必要があります。

  • どんなフォーマットでデータを保存するのでしょうか?
  • ある選択をすることで、利用者はプロバイダー独自のフォーマットにロックインされるのでしょうか?
  • 別のプロバイダーに移行することはできるのでしょうか?
  • あるプロバイダーから別のプロバイダーに利用者がサービスを移行することを選択した場合、移行のための何らかのサポートはあるのでしょうか?

次のステップ: トピックの評価

次のステップは、さまざまなトピックについて評価することです。「クラウド・コンピューティング ユース・ケース ホワイト・ペーパー」の「Migration to Cloud (クラウドへの移行)」セクションに含める可能性のあるトピックとして、どれを最初に検討すべきなのでしょう。またトピック同士の組み合わせや各トピックの拡張方法についても検討する必要があります。目標は、クラウドへの移行に際して意志決定者が適切に判断を下すために参照できるような内容のホワイト・ペーパーを作成することです。


まとめ

クラウドへの移行に適した候補を特定する (そしてクラウドへの移行を検討する) 上で、候補の特定候補に関するリスクの管理、そしてデータ使用量に伴うコストの見積もりという 3 つのステップでは単純化しすぎていると思います。しかしこれらのステップが妥当な場合には、これらのステップを使用することで、クラウドへの移行候補となるサービスを特定するための繰り返し可能なプロセスを確立することができます。クラウドへ移行することによる価値とリスクを明らかにする上で、繰り返し可能なプロセスを確立することが重要です。そうしたプロセスを確立できない限り、誤った判断を下しやすくなります。

「クラウド・コンピューティング ユース・ケース ホワイト・ペーパー」に関するディスカッションと、その次版に「Migration to Cloud (クラウドへの移行)」セクションを追加することに関するディスカッションは、現在継続中のプロセスなのです。

参考文献

学ぶために

議論するために

コメント

developerWorks: サイン・イン

必須フィールドは(*)で示されます。


IBM ID が必要ですか?
IBM IDをお忘れですか?


パスワードをお忘れですか?
パスワードの変更

「送信する」をクリックすることにより、お客様は developerWorks のご使用条件に同意したことになります。 ご使用条件を読む

 


お客様が developerWorks に初めてサインインすると、お客様のプロフィールが作成されます。会社名を非表示とする選択を行わない限り、プロフィール内の情報(名前、国/地域や会社名)は公開され、投稿するコンテンツと一緒に表示されますが、いつでもこれらの情報を更新できます。

送信されたすべての情報は安全です。

ディスプレイ・ネームを選択してください



developerWorks に初めてサインインするとプロフィールが作成されますので、その際にディスプレイ・ネームを選択する必要があります。ディスプレイ・ネームは、お客様が developerWorks に投稿するコンテンツと一緒に表示されます。

ディスプレイ・ネームは、3文字から31文字の範囲で指定し、かつ developerWorks コミュニティーでユニークである必要があります。また、プライバシー上の理由でお客様の電子メール・アドレスは使用しないでください。

必須フィールドは(*)で示されます。

3文字から31文字の範囲で指定し

「送信する」をクリックすることにより、お客様は developerWorks のご使用条件に同意したことになります。 ご使用条件を読む

 


送信されたすべての情報は安全です。


static.content.url=http://www.ibm.com/developerworks/js/artrating/
SITE_ID=60
Zone=Cloud computing
ArticleID=810847
ArticleTitle=ウェザー・リポート: クラウドへ移行するにあたって検討すべき事項
publish-date=04262012