独自のプライベート・クラウドを実現するためのプロセス: 第 1 回 準備をする

オンプレミスの IaaS/PaaS クラウドを設計、実装するための方法

この連載記事では、著者のチームがオンプレミスのプライベート・クラウド環境を構築する際に辿ったプロセスについて、その構想からデプロイメントに至るまでの概要を説明します。このクラウド環境では、IaaS (Infrastructure as a Service) や PaaS (Platform as a Service) クラウド・サービス・モデルに見られる構造を採用しており、ソフトウェア・コンポーネントとハードウェア・コンポーネントには、著者のチームが選択したコンポーネントが使われています。しかし、どのような技術を選択した場合にも、この記事を読んで得られる知識や教えを活かすことができます。第 1 回では、クラウドの構造、開発ロードマップにおける 5 つのフェーズ、そして著者のチームが見出したソリューションの一部の詳細を説明します。

Joydipto Banerjee, Application Modernization Consultant, IBM  

Joydipto BanerjeeJoydipto Banerjee は IBM の Business Application Modernization グループのシニア IT スペシャリストです。彼は、IBM India が Global Delivery をクラウド・コンピューティング環境で実現するのに向けた最初のステップとして、クラウドによる動的なインフラストラクチャー・ソリューションを開発したチームの主要メンバーでした。彼はコンピューター・サイエンスの工学士であり、2010 IBM Global Technical Achievement Award を受賞しています。


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2011年 8月 19日

この記事では、プライベート・クラウドのデプロイメント・モデルをパイロット実装する実際のプロジェクトの詳細について説明します。このプロジェクトは IBM Global Delivery チームによって行われ、最近完了したプロジェクトです。この取り組みは戦略的ロードマップの一部として IBM のハードウェアおよびソフトウェア・スタックを活用することで実現されており、この場合のソフトウェアには Tivoli が使われています。この記事は IT スペシャリスト、アーキテクト、技術チームのリーダーを対象としていますが、クラウドに関係するすべての作業に役立つリファレンス・ガイドとなることを目標としています。この記事で説明する内容は、初心者から上級のスペシャリストまで、どのような経験レベルの人にも役立つはずです。

この記事では読者がクラウド・コンピューティングの基本的な概念や運用方法について理解していることを前提とします。また読者は、AIX と PowerVM、そして仮想化の概念も理解している必要があります。WebSphere、DB2、Tivoli 製品について詳細に理解している必要はありませんが、この記事ではこれらの製品を使用して説明を進めます。

この記事では以下の項目について説明します。

  • ロードマップにおける 5 つのフェーズ (構想からデプロイメントまで)
  • このプロジェクト独自に設計されたソリューションの一部についての詳細
  • クラウドの典型的な構造
  • このプロジェクトのハードウェア要件とソフトウェア要件の一覧

このソリューションのロードマップにおける 5 つのフェーズ

このプロジェクトの実装全体は複雑で長期にわたるプロセスです。このプロセスには、さまざまな技術が関係するだけでなく、さまざまな利害関係者も関与します。そのため、明確な方向性をもって注意深くスケジュールを立てる必要がありました。図 1 は、初期検討段階から最終的なデプロイメントに至るまでのプロセス全体を 5 つのフェーズに分解したものです

図 1. プロジェクトの実装を 5 つのフェーズに分解する
プロジェクトの実装が 5 つのフェーズに分解されています

後ほど、これらの各フェーズとその作業内容について詳細に説明します。


前置き: ソリューションの詳細

このチームではまず、コンシューマーとサービスとの分離という概念を明確にするために、サービスの全体像を作成しました。

図 2. クラウド・サービスの全体像
クラウド・サービスの全体像

クラウドのエンドユーザーは、ユーザー・インターフェース (UI) を利用して、非機能要件であるリソース・ワークロードに関するサービス・リクエストを行える必要があります。一例としては、指定のコンピューティング能力、メモリー、ストレージを PaaS (Platform as a Service) の一部として持つ構成済みシステム (例えば AIX 上で実行される WebSphere Application Server (WAS) や WebSphere Portal など) のサーバー・リソースに関するリクエストが挙げられます。

クラウド運用チームは、クラウド管理プラットフォームを管理し、インフラストラクチャーと運用のサポートをします。例えば、提供するサービスの決定、コンシューマーに対するサービスの公開、レポートの分析、使用量に応じた請求書の生成、使用パターンの調査、容量計画などを行います。

さまざまなインタビューを実施し、また複数の利害関係者や主要ユーザー・グループにアンケートを配布することで調査が行われ、必要なサービスが決定されました。一例として、非機能要件に基づき、以下のサービスが決定されました。

  • サービス 1: Web スタックとして、AIX 6.1 にインストールした WebSphere Application Server 7.x、IBM HTTP Server (IHS) 7.x、DB2 9.7.x クライアント、MQ 7.0.x クライアント
  • サービス 2: ポータル・スタックとして、AIX 6.1 にインストールした WebSphere Portal Server 6.1、IBM HTTP Server (IHS) 6.1、DB2 9.5.x クライアント
  • サービス 3: データベース・スタックとして、AIX 6.1 にインストールした DB2 Enterprise Server 9.5
  • サービス 4: 純粋な AIX 6.1 または 5.3

クラウドの利用者と、それらの利用者が要求するサービスを決定できると、今度は技術を決定することが重要になります。運用モデルは使用される技術によって変わるからです。このチームでは、ソリューションとして IBM Tivoli System Automation Manager (TSAM) 製品スイート、Citrix のスマート・クラウド・ソフトウェア、オープンソースのクラウド・ソフトウェアを検討し、Tivoli System Automation Manager を使用することにしました。

Tivoli System Automation Manager が選ばれた理由は以下のとおりです。

  • Tivoli System Automation Manager は、IBM が戦略的にサービス自動化を実装した製品であること。
  • Tivoli System Automation Manager は、クラウドの実装に適しており、特に大量の IBM ソフトウェア・スタックが使用される場合に適していること。
  • XenServer を使用した Citrix のスマート・クラウドは、x/86 ハードウェアに適しており、Wintel で実装する場合に適していること。
  • オープンソースのクラウドは Linux ディストリビューションに適していること。一方このプロジェクトで必要なことは、AIX リソースのプロビジョニングをサポートし、Linux や Windows リソース・タイプにまで拡張可能なソリューションを開発することでした。

技術と、提供するサービスを決定した後、チームはクラウドによって管理される環境に必要な仮想化ツール、つまりハイパーバイザーを最終的に決定しました。以下の表は、このチームがハイパーバイザー・ツールを検討するために使用したデータを示しています。

表 1. ハイパーバイザー・ツールを検討するために使用したデータ
名前企業ホスト CPUゲスト CPUホスト OSゲスト OSライセンス
Microsoft Hyper-V ServerMicrosoftIntel VT または AMD-Vx64,x86Hyper-V を有効にした Windows Server 2008、Windows Hyper-V ServerWindows 2x、XP、Vista、Linux (SUSE 10 またはそれ以降)プロプライエタリー
OpenVZSWsoft がサポートするコミュニティー・プロジェクトIntel x86, AMD64, IA-64, PowerPC64, SPARC/64ホストと同じLinuxさまざまな Linux ディストリビューションGPL
PowerVMIBMPOWER4, 5, 6, PowerPC 970POWER4, 5, 6, PowerPC 970, X86ホスト OS なしLinux-PPC, Linux-X86, AIX, i5/OS, IBM iプロプライエタリー
VMware ESX ServerVMwarex86, x86-64x86, x86-64ホスト OS なしWindows, Linux, Solaris, FreeBSD, Netware, OS/2, SCO, BeOSプロプライエタリー
XenCitrix Systemsx86、x86-64、IA-64ホストと同じNetBSD, Linux, SolarisFreeBSD、NetBSD、Linux、Solaris、Windows XP、Windows Server 2003GPL
z/VMIBMz/Architecturez/Architecture (z/VM を従来のメインフレームで実行することはできません)ホスト OS なしzSeries 上で実行する Linux、z/OS、z/VSE、z/TPF、z/VM、VM/CMS、MUSIC/SP、System z 用 OpenSolaris、およびそれらの前身プロプライエタリー

ツール評価のデータを基に、さまざまな長所/短所を検討した結果、チームは IBM PowerVM を選択しました。クラウド・イメージのプロビジョニングに IBM PowerVM を使用することで、この環境の Power ハードウェアによる既存インフラストラクチャーを活用することができ、また Tivoli System Automation Manager に必要な要件も十分満たすことができます。技術ロードマップとハイパーバイザー・モデルを決定した後、チームは目標とするアーキテクチャー・ソリューションを構築しました。

実装の詳細に入る前に、参考までにクラウドの典型的な構造を調べてみましょう。


プライベート・クラウドの典型的な構造

最も単純な場合、Tivoli System Automation Manager のトポロジーは、1 つの管理サーバー (System P、System X、System Z など) と、1 つの運営サーバー (System X)、1 つの管理対象サーバー (System P、System X、System Z など) で構成されます。管理サーバーと運営サーバーはクラウド・ソフトウェアをインストールするために Tivoli System Automation Manager に必要です。管理対象環境では、顧客の要求に基づき、Tivoli System Automation Manager によって仮想サーバーのプロビジョニングと管理を行います。

図 3 は、この環境にチームが構築したアーキテクチャーを示しています。

図 3. クラウドの典型的なアーキテクチャー
クラウドの典型的なアーキテクチャー

図を拡大するにはここをクリックしてください。

1 つの System P サーバーは複数の論理パーティション (LPAR) に仮想化されています。そのうち 1 つの LPAR は Tivoli System Automation Manager 管理サーバーに利用され、Tivoli Provisioning Manager (TPM) やさまざまなミドルウェア製品 (DB2、WAS、HTTP Server、LDAP) の処理を行います (これらのミドルウェア製品は実際には Tivoli Provisioning Manager スイートの一部です)。

この System P サーバーで上記以外の LPAR は、関連するオプションのコンポーネント (使用量測定用の IBM Tivoli Usage and Accounting Manager (ITUAM) やインフラストラクチャー監視用の IBM Tivoli Monitory (ITM) など) に割り当てられています。それ以外の 2 つの LPAR は、Network Installation Manager (NIM) サーバー (画像ストレージ) 用と、AIX をパーティショニングするための VIOS 用です。

もう 1 つの System P サーバーはクラウドの管理対象環境で使用され、この環境では、すべての仮想化イメージやリソースはサービスをリクエストする側、つまりコンシューマーによって自動的にプロビジョニングされます (System X と VMware ハイパーバイザーを使用することで、Windows リソースや Linux リソースを同じようにプロビジョニングすることができます)。

System X サーバーは Tivoli System Automation Manager の運営コンポーネントに使用され、Tivoli Provisioning Manager の Web コンポーネント、イメージ・ライブラリー、Service Request Manager (SRM) がインストールされます。

System P ハードウェアは、標準的な Power システム管理ツールとしての Hardware Management Console (HMC) ハードウェアによって管理されています。

System P のすべての LPAR は AIX 6.1 を実行し、System X は SuSE Linux 10.2 を実行します (どちらも 64 ビット)。Tivoli Storage Manager (TSM) を使用して AIX 環境をバックアップし、Linux には G4L を使用しました。


このプロジェクトに使用した主なハードウェアとソフトウェア

最終的に必要なハードウェアとソフトウェアは以下のとおりです。

  • ハードウェア
    • IBM System P/570 (クラウド管理環境用)
    • IBM System P/570 (クラウド管理対象環境用 (ユーザー用))
    • IBM System x/3850 (クラウド運営環境用)
  • ソフトウェア
    • Tivoli System Automation Manager (TSAM)
    • Tivoli Provisioning Manager (TPM)
    • Tivoli Service Request manager (TSRM)
    • Tivoli Monitoring (ITM)
    • Tivoli Usage and Accounting Manager (TUAM)
    • ハイパーバイザーとして: Power VM
    • イメージのバックアップ用として: Tivoli Storage Manager (TSM)、G4L (オープンソース)

ITM と TUAM がオプションのソフトウェア・コンポーネントであることに注意してください。ITM と TUAM は標準的な Tivoli System Automation Manager 製品スイートには含まれていません。


次回に向けて

この記事では、実際にプロジェクトを実装してオンプレミスの IaaS/PaaS クラウドを構築する上で必要となる基本概念を説明しました。取り上げた主な内容は次のとおりです。

  • 開発における 5 つのフェーズ: 要件の特定、インフラストラクチャーのセットアップ、アーキテクチャーおよびデプロイメント・モデルの作成、環境の構築、デプロイメント
  • このプロジェクト独自に設計したソリューションの詳細: コンシューマーとプロバイダーとを分離するためのサービスの全体像、サービスを検討して決定する方法、そしてコンポーネントの選定方法
  • クラウドの典型的な構造、そしてコンポーネント同士のやり取りの方法
  • このプロジェクトに必要なソフトウェアとハードウェアの一覧

この連載の第 2 回では、コンポーネントのインストールと構成、そしてコンポーネントの特殊機能のいくつかについて説明します。

謝辞

この記事の作業に関わり、直接的にあるいは間接的にこの記事に対する助言をくださったチーム・メンバー、Biswajit Mohapatra、Debasis R. Choudhuri、Santhosh Vandyil、Birla P. Raj の各氏に深く感謝いたします。

また、この作業の中で貴重な助言をくださった IBM India の Cloud Lab チーム、そしてポーランドとドイツの IBM Software Group にも感謝いたします。

参考文献

学ぶために

製品や技術を入手するために

  • IBM SmartCloud Enterprise で利用可能な製品イメージを調べてみてください。

議論するために

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