多様な産業分野(銀行や医療など) の企業にとって情報技術はビジネスの実現要因の1つになっており、サービスの提供に用いられる事例が増えています。そうした企業の場合、卓越したサービスが競争上での差別化要因となりつつありますが、これは顧客が変化する市場の条件に速やかに適応し、新しいサービスを迅速かつ効率的に創出してデプロイしなければならないためです。ただし、卓越したサービスは効果的かつ効率的なサービス・マネジメントなくして実現できません。IBM サービス・マネジメントは、企業がサービスの創出、デプロイメント、運用というサービスの全ライフ・サイクルに渡り効率と効果を高めることを支援するイニシアチブです。IBM はハードウェア、ソフトウェア、およびコンサルティング・サービス組織の能力を結集して、顧客のビジネス・サービスの設計、構築、デプロイ、および管理を支援しています。IBM はビジネス・パートナーや業界標準化組織と緊密に連携して業界全体での取り組みも行っています。本書では、IBM サービス・マネジメントとビジネス・サービスの全側面を改善する上でのその役割を説明します。
はじめに
情報技術 (IT) はビジネス実現手段として急速に成長し、あらゆる業界の企業が、競争力を高めビジネスを成長させるために、ますます情報技術の力に依存するようになっています。情報技術の利用は、最初はメインフレームを使って請求書発行、在庫管理、給与などの明確に規定された「バックオフィス」の反復作業を行う程度でしたが、現在では長足の進化を遂げ、ビジネス・サービスをインターネットを用いて提供することによってグローバルに統合された形でいつでもどこでもアクセスが可能になることが期待されるまでになりました。 1 この新しい時代では、ビジネス・サービスの概念自体が進化しています。何がビジネス・サービスを成すのかについてはアナリスト、ベンダー、顧客の間でさまざまな見方があります。IBM ではビジネス・サービスを、包括的なエンドツーエンドのプロセス、トランザクション、または製品を提供する一群の IT 資産および非 IT 資産を適用することにより、どの顧客、パートナー、またはユーザーにも価値を提供することと定義しています。
競合他社は普く存在するため、顧客維持のためにはIT 対応ビジネス・サービスの質が重要な要因となります。同時に、図 1 に示すように IT 対応ビジネス・サービスを提供するために必要なインフラストラクチャーの複雑性は急速に増しています。企業の IT のプレゼンスと機能が顧客のロケーションにまで拡大される場合もあり、その企業の顧客がインターネットを用いて製品情報、商品やサービスのオーダー、発送された商品の追跡、代金支払いを行うことさえできるようになります。
図 1. ビジネス・サービスのインフラストラクチャーのビュー
現在ではビジネス・サービスとその背後にあるプロセスをサポートするため、IT 組織が大量のデータの収集、管理、分析を支援しており、これが企業の将来の方向性に影響します。データ・マイニング手法が企業のマーケット・シェア増大、新しい市場機会の特定、ビジネス・プロセスの最適化に役立ってきました。1 つの企業とその他企業の関係に IT がますます関わるようになっています。オーダーと供給の関係の確立と管理、請求書の発行と支払い、共同プロジェクトの立ち上げと実行が必要に応じて IT リソースを用いて行われています。こうした運営に企業を変革するプロセスは、「オンデマンド」ビジネスへの移行と呼ばれています。 2
オンデマンド・ビジネスの場合、テクノロジー・インフラストラクチャーをビジネス設計上の要求事項と整合して、最適化する必要があります。人材、情報、およびプロセスを統合する必要があるため、IT インフラストラクチャーが新しいビジネスの課題への迅速な対応の妨げとなる場合が多くあります。企業が変革で直面する主要な課題には以下のものなどがあります。
-
複雑性-IT 組織が直面する問題の根本原因は、異なる環境の存在と複数のアプリケーションの相互接続 (複合アプリケーション) によりビジネスが急激に複雑になったことです。アーキテクチャーと組織の問題、複合アプリケーションとハードウェア・エンティティーの急増の加速、および複数のタイム・ゾーンにわたる世界規模での運用によって IT 組織の効率と効果が落ちています。
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変化-複雑さを増すにつれて、変更のたびに障害が多発し、不具合を生じさせずに実現できている顧客はまずいないような厳格な規律を必要とする、非常に脆く管理しづらいインフラストラクチャーになっていく傾向があります。ワークロードの増加、サービスレベルの保証要件の厳格化、人員の入れ替わり、新しい市場機会が相まって IT 組織の変化を促す圧力になります。現在生じているサービスやアプリケーションの停止の第一の原因は変化であり、その結果ビジネスに目に見える影響を与えることが多くなっています。実際に、当社の経験では致命的な停止の総数のうちほぼ 80% が変更管理の不備が原因です。
-
コスト-現在、運用中の IT の人件費は企業の総 IT 予算のほぼ 70% を占めています。
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1990年後期には、IT 人件費予算の半分は新しいアプリケーション開発に、残りの半分は運用に当てられていました。IT 予算が横ばいになったため、IT 組織の最高情報責任者はあまり魅力的でない選択肢の 2 者択一を迫られています。新規アプリケーションの開発からリソースを移行するか現行アプリケーションのサポート・レベルを下げる。どちらを選択しても IT の効率と効果を低下させる方向に働きます。
- ガバナンスと準拠-Sarbanes-Oxley Act (SOX) 4 やHealth Insurance Portability and Accountability Act (HIPAA) 5 などの政府規制が敷かれ、優れたプロセス管理体制と IT インフラストラクチャー変更の監査証跡の保存により法が順守されているかどうかを企業が監査する必要があり、これをサポートしなければならない IT 部門の負担が増しています。準拠していない場合には刑事責任や民事責任の処罰があり、世評も悪くなるためこれには慎重な考慮が必要です。
IT 対応サービス・マネジメントへの進化
上述の課題があるため、事業部門と IT 部門の関係が顧客とテクノロジー・プロバイダーの関係から、テクノロジーを応用して財務的に責任を持った方法でビジネス・ニーズに対処するパートナーの関係となりつつあります。IT 部門を企業のニーズに整合させる新しい協力関係の構築は IT 管理に対する IBM サービス・マネジメントのアプローチの主要テーマです。 6 IBM サービス・マネジメントの方法論では、IT 部門をビジネスとして管理することを提唱しています。IT 部門がたとえ完全に 一企業の枠内で活動していても、その市場または顧客、および各顧客のニーズまたは要件を明らかにし、これらのニーズまたは要件を満たすソリューションやサービスを開発することによって IT 部門のマネジメントを行うべきというのがIBM サービス・マネジメントのアプローチです。
IT 部門が新しく定義した事業単位の顧客と連携してそのニーズを業務レベルで特定していくと、通常は要件の一定のパターンが見えてきます。このような共通のパターンの例としては、ビジネス・サービスをサポートするためのソフトウェア・アプリケーションを開発、デプロイ、管理すること、セキュリティー、バックアップ、リカバリーを管理し、ネットワーク・サービスを提供することが挙げられます。このレベルでは事業単位の多数のニーズが共通になる可能性があり、この場合は共通する IT サービスを創出することによってそのニーズを満たすことができます。一旦、必要なハードウェア要素とソフトウェア要素によってこれらのサービスが実現されると、サービス・カタログ化して利用できるようにすることで、IT 要件がある事業単位がアクセスできるようになります。選択できる標準オファリングが増えるに従って、特殊なプロジェクトの必要性は低くなります。副次的な利点として、サービス・カタログから IT 組織が提供しているサービスが容易に分かり、提供していないものも推論から分かります。この稼働モデルによって IT 組織がより大きな会計上の責任を持つことができるようになります。このモデルには標準サービス提供のコストが含まれ、標準サービスが対応していない要件の特定と協議に役立ちます。
標準サービスを繰り返し可能な方法で提供できるようになれば、これらのサービス提供の効率とコストを測定するメトリックを作成することができます。このメトリックを使用すれば、サービス・コストを下げ、提供の効率を上げ、サービスの質を高められる分野に関する知見を継続的に得ることができます。テクノロジー関連のメトリック (プロセッサー速度、メモリーなど) は、提供するサービスに関するビジネス関連のメトリック (サービスを提供するエンドツーエンド・サイクル時間、各四半期に処理された要求数など) に置き換えることができます。標準サービスとその提供をサポートするために設定されているメトリックとコントロールは、監査と政府規制の遵守の実行にも役立ちます。IT の運用の大部分が標準サービスに基づく (例外は既定の方法で処理される) 場合、監査に必要な抑制と均衡の機能、役割と責任、メトリックの多くは、本来備わっているかインフラストラクチャー内で容易に作成できます。
IBM サービス・マネジメントの戦略
IBM サービス・マネジメント戦略の目標は、以下を行うことです。
- ITIL** (Information Technology Infrastructure Library**)
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,
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、eTOM** (Enhanced Telecommunications Operations Map**)
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、COBIT** (Control Objectives for Information and Related Technology)
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、CMMI** (Capability Maturity Model Integration)
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およびサービス指向アーキテクチャー (SOA) やオートノミック・コンピューティングなどのテクノロジーの分野の実務者が長年培ってきた業界や産業分野での専門知識を活用して、サービス・マネジメントのベスト・プラクティスを定義する。
- コンセプトからフル稼働までのサービスのライフ・サイクル全体を対象とする開発チームと運用チームに向けたサービス・マネジメントの統合アプローチを創出する。
- 人材、プロセス、情報、およびテクノロジーの一貫し統一されたランタイムへの統合を可能とするサービス・マネジメント・プラットフォームに基づき、SOA の原則に一致する組織およびタスク自動化のアーキテクチャーを創出する。
- オートノミック・コンピューティング・テクノロジーに投資して自動化を改善し、反復する日常業務に極力人が関わらなくてよいようにする。
- 採用モデルと開発リファレンス・アーキテクチャーを創出して、顧客がサービス・マネジメントを段階的にデプロイできるようにする。
- サービス・マネジメント分野の標準の創出を推進する。
これらの目標を達成すれば、サービスを明確に表現する手段を備えた機動性と適応性のある企業となります。以下の項では、この戦略の各要素について詳しく説明します。
業界の専門知識の活用
サービス・マネジメント成功の主要基準の 1 つに、サービス・マネジメントのライフ・サイクルを包括的で統一された形で可視化することがあります。そのために、IBM は現場の実務者が持っている専門知識を活用して、サービス・マネジメントの包括的な全体像を描きました。これは、プロセスと組織のコンポーネントの場合は「IBM Process Reference Model for IT (PRM-IT)」 6 に、リソースおよびデータ・コンポーネントの場合は「Common Data Model」 12 に記載されています。図 2 は、PRM-IT の対象となるソリューション分野の概要です。
PRM-IT の内容は、サービス・マネジメントのソリューション開発と運用の両方の規則を対象とするIBM Rational Unified Process* と IBM Tivoli* Unified Process により利用可能です。
IBM の統合サービス・マネジメントのアプローチ
IBM は、ベスト・プラクティスを実施するプロセスの文書だけでなく、組織が日常使用できるアプリケーションを実行するために実際にこれらのプロセスを使用できるランタイム環境も提供します。図 3 に、この統合サービス・マネジメント・アプローチの主要な構成要素を示します。
サービス・マネジメントは 2 つの重点分野により可能になります。IT 対応ビジネス・サービス用のサポート・ソフトウェアの作成と提供、および実稼働におけるこれらサービスの提供とサポートです。図 3 の左側に示す第 1 のフォーカス分野の方向性は、開発組織内の複数のチームが地理的に分散しており、これらのチーム同士が共同でアプリケーション・ソフトウェアのソース・コード変更を作成、管理、コンパイル、テストする必要がある場合に生産性と効率を向上させることです。ソース・コードの変更管理と構成管理の統合は、高品質ソフトウェアを作成して、運用チームに提供し、デプロイして稼働させるために必要です。ソフトウェアの提供プロセス管理では、要件の分析と把握、ソース・コード・アクセスの手順、ソフトウェアのテスト・ケース管理、およびソフトウェア欠陥のライフ・サイクル管理が必要です。複数の開発者やテスターが欠陥を効率的に記録し、ソース・コードを更新し、このコードをコンパイルしてテストし、適切なタイミングで効率的に欠陥の処理ができるようにするには、各種プロセス・マネジメント・アプリケーションが必要です (例えば Rational Clear Case*)。
図 3 の右側に示す第 2 のフォーカス分野の方向性は、サービスレベル・コミットメント、財務管理、および業務の継続性に留意した高品質サービスの提供とともに、世界各地の複数のデータ・センターを管理する地理的に分散した運用組織の生産性と効率を向上させることです。サービスを提供するチームは、サービスの全要素が業務要件を満たすように、ビジネスに対するふさわしいコミットメントをもって IT サービスを提供します。サービス提供チームは、IT サービスの継続性を確保するために、必要なレベルの「フェイルオーバー」とリカバリーをアーキテクチャーがサポートする必要もあります。必要なソフトウェアは社内で開発するかベンダーから入手します。サービスがデプロイできる状態になったときに運用チームが行わなければならないことは、その影響を評価し、関係する当事者に通知し、実稼働サーバーへのデプロイメントの予定を該当する変更ウィンドウで設定できるようにすることです。これらの機能は、複数の運用スタッフと運用管理製品を組み合わせるワークフローを主眼とするプロセス管理製品を組み合わせることにより実装します。これらの運用管理製品は、具体的なタスク (サービスレベル・アグリーメント管理やソフトウェア配布など) の自動化に的を絞ったものです。以上はすべて、構成管理データベース (CMDB)、ワークフロー・ランタイム、およびコラボレーション・テクノロジーを活用するサービス・マネジメント・プラットフォームが中心となっています。 12-15
サービス・マネジメントの SOA
サービスの考えられるベスト・プラクティスは、IBM SOA モデル 16 により示されます。SOAを用いれば、ビジネス・サービスをサポートするシステムやテクノロジーがどれだけ異なろうと各サービスを相互運用できるようにビジネス・サービスを表現する方法論とリファレンス・アーキテクチャーが得られます。SOA によって情報を 1 つの企業内だけでなく、顧客、サプライヤー、およびパートナーと共有することが可能になります。
図 4 の左側に示すように、SOA はビジネス・サービスをそのライフ・サイクル全体に渡って様々なサービスによってサポートします。サポートの手段となるサービスには、サービス設計を容易にする開発サービス、リアルタイムのビジネス情報を用いて運用と意思決定を改善するビジネス・サービス、ビジネス・サービスを監視・管理し、規模とパフォーマンスに関連する機能を含む管理サービス、およびスループット、可用性、パフォーマンスを最適化するインフラストラクチャー・サービスがあります。
図 4. サービス指向アーキテクチャーでの管理サービスの提供
SOA リファレンス・アーキテクチャーは、人材、プロセス、および情報の統合に向けた一連のサービスを包含しています。IT 機能とデータをエンド・ユーザーに提供するために必要な機能を実現する対話サービス、ビジネス・プロセスを実現する方法で複数のサービスのフローと対話を管理するために必要な機能を提供するプロセス・サービス、多様な方法で実装されているデータ・ソースをフェデレート、複製、変換するために必要な機能を提供する情報サービスなどです。
このほかにもリファレンス・アーキテクチャーには、社外パートナーとサプライヤーとの対話が関わるビジネス・プロセスで必要となる文書、プロトコル、およびパートナーの管理機能を提供する一連のパートナー・サービス、統合システムに新しいアプリケーション・コンポーネントを含める際に必要なランタイム・サービスを提供するビジネス・アプリケーション・サービス、既存のエンタープライズ・アプリケーションとエンタープライズ・データを結びつけるアクセス・サービスが含まれています。各 SOA サービス間の通信は、相互接続を可能にするアーキテクチャー構造体であるエンタープライズ・サービス・バスにより容易になります。
図 4 の右側は、IBM サービス・マネジメントの革新的な 3 層を表したものです。(1) ある特定の分野における組織本位の上位の活動を表現するプロセス管理機能、(2) 統合されたモジュラー方式のサービス・マネジメント・アーキテクチャーを実現するサービス・マネジメント・プラットフォーム、(3) 自動化が容易な下位リソース管理を可能にする運用管理機能です。このサービス・マネジメントの観点は SOA の観点とシームレスに対応し、実際に IT の管理業務向けに SOA を具体化したものです。
プロセス管理層では、サービス-マネジメント・ビジネス・サービスとして実現されたサービス・マネジメント・プロセスを用い、必要に応じて SOA プロセス・サービスを利用します。サービス・マネジメント・プロセス (変更管理、構成管理など) は、通常の許可機能や要求改善機能に従って、他のサービス・マネジメント分野の各サービスで利用可能になります。したがって、ある企業内でストレージ追加のサービス要求が行われると、その環境内の特定のストレージ要素に対する変更要求となる場合があります。ある組織と社外組織との対話 (広域ネットワーク・キャリアが提供するネットワーク・サービスなど) が関わるプロセス管理上の対話が必要な場合は、必要に応じてパートナー・サービスを用いることで対応できます。
ISM プラットフォームはSOA 管理サービスをサービス・マネジメントの観点から表現したもので、対話サービスおよび情報サービスを受ける側と提供する側のどちらにもなれます。ISM プラットフォームは、明示的に認識された価値提案 (変更管理など) の枠内でサービス・マネジメント機能を統合するパイプ役を果たすだけでなく、クロスドメイン統合を実現する共通メタデータ駆動フレームワークとなります。このプラットフォームには IBM Change and Configuration Management Database (CCMDB) が組み込まれており、このデータベースがインフラストラクチャーの各技術要素、それらの関係、現在の状態と望ましい状態を反映するとともに、構成データを多様なサービスやプロセス間で共有する手段となります。また、運用管理層では、SOA に準拠するインターフェースを通じて非常に豊富な機能群を制御して相互に作用させることができ、それによって管理された環境の自動制御が可能になります。
オートノミック・コンピューティングの活用
オートノミック・コンピューティングは、IT インフラストラクチャーの保有・運用のコストと複雑性の低減に役立つ重要なテクノロジー・イニシアチブの 1 つです。このイニシアチブは、コンポーネント、システム、ネットワーク、ソフトウェア、派生する情報サービスに通常伴う運用上の負担を最小限に抑えることによって、顧客がIT 投資から得られる価値を最大にすることを目的としています。オートノミック環境では、IT インフラストラクチャーの各コンポーネントが (デスクトップ・コンピューターからメインフレーム、システム管理ソフトウェアまで)、自己構成、自己修復、自己最適化、自己防御の機能を持ちます。これらの特性が、オートノミック・コンピューティングの中核となる価値です。
IBM は IT 業界と連携して「監視・分析・計画・実行」アーキテクチャーに適合するオートノミック・テクノロジーを創り出してきました。 17 図 5 は、オートノミック・テクノロジーを使用して、仮想化されたリソース内で自律的動作を行うと同時に、IT 管理プロセスの高位層を保持して、仮想化されたリソースの動作をポリシーと委任により制御する方法を示したものです。
図 5. オートノミック・コンピューティングを用いたサービス・マネジメントの拡張
IT 管理プロセスの効率と効果は、プロセスの経過時間、正しく実行されたプロセスのパーセンテージ、スキル要件、サービス実行の平均コストなどのメトリックを用いて測定するのが普通です。オートノミック・コンピューティング・テクノロジーは、プロセスの手順を一部自動化し、ユーザーがルーチン・タスクをシステムに委任して自動的に実行できるようにすることで、IT 管理プロセス実行の効率と速度を改善するのに役立ちます。傾向として、現在はほとんどの IT 管理プロセスで手動に頼る部分が多く、自動化された手順は少数です。ビジネス・プロセスを提供するという流れにおいて、IBM サービス・マネジメントの目標は、IT 管理プロセスを顧客がより多く自動化できるようにすることです。最初は、正しいアクションを自動化に任せて行うことに顧客は違和感を覚えます。しかし、時間が経過して自動化の成熟度と信頼度の水準が上がるにつれて、顧客がルーチン・タスクをより容易に自動化に委任できるようになるはずです。それが IT 環境全体における自律的動作実装のロードマップです。
このロードマップに対応するため、IBM は IBM サービス・マネジメントの一環として自動化への順次委任をサポートする機能を含めようとしています。したがって、最初はタスクを手動で実行し、ユーザーがシステムによる自動支援に慣れるにつれてタスクをシステムに委任することを選択できます。それによって、システムがプロセスの適切なポイントでユーザーに代わりタスクを実行し、通知を行って該当するログを作成することができます。このアプローチを用いることにより、プロセスの多くの手順を自動化しながら、プロセス全体は遵守されるようにできます。
採用モデルおよびデプロイメント・リファレンス・アーキテクチャー サービス・マネジメントの採用を促進するためには、顧客が現在の状態と今後の方針を明確に把握することが必要です。採用モデルは、顧客がこの把握を行い、ロードマップを構築できるように支援する方法です。図 6 は、採用モデルにより考えられる展望の 1 つを示したものです。この展望では、顧客のサービス・マネジメント採用の見通しを 4 つの管理分野 (IT ビジネス管理、IT ガバナンス、IT 開発、IT 運用) に沿ってまとめています。
IT ビジネス管理分野の中核となる価値提案は、IT 運用と IT 開発機能を含めた IT-ビジネス整合です。この分野における管理機能には、IT カスタマー・リレーションシップ、IT 方向付け、IT アドミニストレーションの管理などがあります。
IT ガバナンスは、フレームワークとライフ・サイクル・プロセスの両方です。IT ガバナンスの中核となる価値提案は、IT サービス・マネジメント (ITSM) 機能の監督と管理、望まれる動作とビジネスに整合した意思決定を IT の範囲内で行う上での明確性と透明性を提供することです。IT ガバナンスには、ITSM の監督、管理、および実行の決定権と説明責任フレームワークの管理があります。また、ガバナンス・ライフ。サイクル、すなわちガバナンスの計画、設計、実行、監視、評価、および改善も含まれます。
IT 開発の中核となる価値提案は、ビジネス駆動型開発です。これには、ソフトウェア納入までのソリューション開発ライフ・サイクルの管理が含まれます。IT 運用の中核となる価値提案は、サービスの観点からの運用管理です。この分野には、IT デプロイメント、IT サービス運用、およびIT 回復力の管理が含まれます。
採用のさまざまなレベルを図の下の軸に沿って示し、分離された IT サイロからなる環境から各組織が動的にコラボレーションできるようになるまでの進行を表しています。各レベル間の進行が、サービス管理のベスト・プラクティスの採用とより価値の高い目的への段階的適用に対する最も一般的なアプローチを表します。これらのレベルは累積していきます。すなわち、各レベルにおいて前のレベルで達成された機能の効果が継続していなければなりません。
IBM は、顧客によるサービス・マネジメント・ソリューションのデプロイメントを支援できるようにデプロイメント・リファレンス・アーキテクチャーも作成中です。このリファレンス・アーキテクチャーはサービス・マネジメントのデプロイメントの共通パターンを体系化したものです。また、ある顧客がサービス・マネジメント製品の特定の組み合わせをデプロイし、一般的なサード・パーティーやベンダーの製品と顧客の環境で統合できるようにアーキテクチャー、設計、およびコード統合の事例も提供しています。
標準
IBM サービス・マネジメントは、統合を促進するために標準を用いたオープン・アーキテクチャーです。IBM の顧客の中には複数のベンダー製のレガシー・ツールや社内ツールを保有しており、これらに IBM のソリューションを統合しなければならない場合があります。この統合を容易にするため、IBM は標準化機関と積極的に連携して、サービス・マネジメントのインフラストラクチャーとコンテンツの標準だけでなく多数のオープン・ソースの参照実装作成の促進を図っています。このような取り組みは、ポリシーの表現、構成情報と交換形式、アプリケーション成果物の記述、イベントのフォーマット設定、リソース管理インターフェース、モデリング言語、一貫したコンテンツ表現を始めとするさまざまな項目に及んでいます。また、ITIL、eTOM、COBIT、CMMI などのベスト・プラクティス・イニシアチブと強いつながりがあります。
将来に向けて
IBM 会長兼 CEO である Sam Palmisano は、企業がグローバルに統合された環境の採用に向けて変化していることをかなり前から認識しており、こうコメントしています。「新しいテクノロジーとビジネス・モデルによって、企業が自社のさまざまな機能と運用手順を構成要素として取り扱えるようになっています。したがって、企業がこれらの構成要素を分解して、新しい組み合わせで組み直すことができるようになったのです。」 1 このように評価されたことにより、本書で説明したサービス・マネジメントは極めて重要なものとなりました。なぜなら、このような企業のマネジメントには従来と比べて高い柔軟性が必要だからです。
同様に、この新しいモデルとともに登場しつつあるサービス・マネジメント機能により、多くの刺激的な課題が生じていることも確かです。ある企業の構成要素の多くが自社が直接管理できないものである場合、この企業はどのようにマネジメントを行えばよいのでしょうか。企業のインフラストラクチャーをそのビジネス目標を達成しつつ他者が管理できるようにするには、企業がマネジメント対話ポイントをどこに置けばいいのでしょうか。多様なサービス・セクターに対し統一されたビジョンを示すためには、サービス・マネジメントをどのように拡張してゆけばよいのでしょうか。IT という条件の中でさえ、モバイル環境、通信、透過性のあるコンピューティング、およびパーベイシブ・デバイスの統合管理は難題です。統合環境の複雑性が高まるにつれて、その複雑性により生じる問題を軽減する管理ツールが必要になります。
結論
サービス指向がますます高まる環境で競走している企業にとっては、効果的かつ効率的な環境の管理が最重要事項です。システム・マネジメント・テクノロジーによって、構成要素が相互接続されていたり、分散している複雑なサービスに完全に対応できたのは過去のことです。今日のビジネス環境では、可視性だけでなく、自律的すなわち自己管理機能を備えた要素を信頼できる管理システムが絶対不可欠で、しかもこれらの要素がビジネスと自動化の両方に対応するために必要なベスト・プラクティス・プロセスによってシームレスにリンクされていなければなりません。このようなサービス・マネジメント・システムがその使命を完全に果たすためには、人材、プロセス、テクノロジー、および組織を包含しなければなりません。
また、顧客がすぐに利用できるベスト・プラクティスを提供する柔軟性の高いフレームワークと、広範な管理対象エンティティーを管理する機能が必要で、しかもこの管理は柔軟性があり容易に再構成できる方法で行わなければなりません。これは非常にバランスが取りにくい問題ですが、サービス・マネジメント製品のベンダーと、顧客が将来のサービス指向機能の恩恵を最大限に受けられるようにサービス・マネジメント製品を用いるサービス・ベンダーの方々には習熟していただかなければなりません。
謝辞
IBM サービス・マネジメントに対する貢献に対して謝辞を述べるべき IBM チームのメンバーはあまりに多くすべての名前を挙げることはできませんが、特に C. J. Paul と Christopher Ward には IBM サービス・マネジメントに関する IBM Systems Journal のこの特集号の作成のコーディネートでの尽力に感謝します。
*IBM Corporation の米国およびその他の国における商標または登録商標です。
**United Kingdom Office of Government Commerce、Telemanagement Forum Corporation、Information Systems Audit and Control Association、または Carnegie Mellon University の米国およびその他の国における商標または登録商標です。
引用文献
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- A. G. Ganek、T. A. Corbi 共著、「The Dawning of the Autonomic Computing Era」、IBM Systems Journal 42, No. 1, 5–18 (2003 年)
2007年4月26日に発表許可
2007年8月2日にオンライン公開
Alan Ganek
IBM Software Group, Tivoli, 294 Route 100, Somers, NY 10589 Ganek 氏は 1978 年にソフトウェア・エンジニアとしてニューヨーク州ポーキープシーで IBM に入社し、オペレーティング・システムの設計・開発、コンピューター・アドレス指定アーキテクチャー、並列システムのアーキテクチャーと開発に携わりました。1981 年に Rutgers University からコンピューター・サイエンスの理学修士号を取得しました。Enterprise Systems Architecture/370e および System/390t Parallel Sysplext の設計で Outstanding Innovation 賞を受けました。その後、オペレーティング・システム、ソフトウェアの品質および製造、通信業界およびメディア業界向けソリューションの開発で数々の管理職と役員職を歴任しました。2005 年、Ganek 氏はオートノミック・コンピューティングの分野確立を主導したことに対し Global Capital Associates から Albert Einstein Innovation Award を受賞しました。National Academy of Television Arts and Sciences から Technical Emmy Award を受賞した IBM プロジェクトの開発リーダーとして評価されました。Ganek 氏は、IBM Software Group に加わる前に IBM Research Division 部門の技術的戦略と運営を担当していました。この役割では、IBM Research Division の技術的見通しと戦略の作成、さらに財務、現場管理、情報サービスなどの主要な運用プロセスの主導を行いました。
Kristof Kloeckner
IBM Software Group, Tivoli, 294 Route 100, Somers, NY 10589 Kloeckner 博士は 2006 年 6月に社長に任命され、その前は Tivoli 開発担当副社長でした。それ以前には、英国の Hursley Laboratory のディレクターを含め、ドイツ、英国、および米国で戦略、アーキテクチャー、および開発で上級管理職を務めていました。ドイツの Boeblingen Development Laboratory に開発エンジニアとして IBM に入社したのは 1984 年です。現在は、オープン・スタンダードおよびオープン・ソース・ソフトウェア、高度な開発方法論、革新的テクノロジーの育成など、IBM Software Group の戦略的方向付けを監督しています。Kloeckner 博士は、すべてのソフトウェア・ブランドに渡る IBM ミドルウェアの変革と統合を主導しています。またドイツ、フランクフルトの Johann Wolfgang Goethe University から数学の修士号と博士号を取得しています。Kloeckner 博士は、British Computer Society (BCS) および Institution of Electrical Engineers (IEE) のフェローであり、University of Stuttgart の名誉教授です。