レベル: 初級 Brent Miller (bamiller@us.ibm.com), Senior Technical Staff Member, IBM
2005年 5月 03日 オートノミック・コンピューティング技術の進展を観察するために、この技術が足場を固めつつある、もう一つの領域、学術界を見てみましょう。この記事では、オートノミック・コンピューティングの領域に関して、大学で行われている幾つかの研究プロジェクトを紹介します。また、様々な会議など、学術界では他にどのような動きがあるかを解説し、こうした学術界での活動がオートノミック・コンピューティングの将来にとって意味するものを考えてみます。
はじめに
『オートノミック・コンピューティングの最新動向』では、オートノミック・コンピューティング技術の最前線での話題を取り上げます。またその中で、少し意見も付け加えて行きます。
これまでの『オートノミック・コンピューティングの最新動向』では、日本と、標準化団体でのオートノミック・コンピューティング採用の動きを検証しました。今回の記事では、学術界におけるオートノミック・コンピューティングへの特別な関心について取り上げます。オートノミック・コンピューティングに関する幾つかの研究プロジェクトを解説し、また会議やその他のコミュニケーションなど、学術界における動きを紹介します。そして、こうした学術界での活動が、オートノミック・コンピューティングの将来にとって何を意味するかを考えてみます。
オートノミック・コンピューティングに関する大学での研究
IBMでは、大学での研究に対して様々な形での支援を行っていますが、オートノミック・コンピューティングの領域でも、かなりの数のプロジェクトに対してスポンサーとなっています。オートノミック・コンピューティングに関する研究プロジェクトとして最も広範なものは、ジョージア工科大学(Georgia Tech: Georgia Institute of Technology)のKarsten Schwan教授の指導によるものです。このプロジェクトの概要紹介によると、ジョージア工科大学の目的は以下の通りです。
ソフトウェアの自己修正、自己適応をサポートし、統合された、システム・レベル、ミドルウェア・レベル、アプリケーション・レベルでの研究。現状のQoS(quality of service)要求に関するアプリケーション・レベル情報をミドルウェア・レベルのアジャイル・サービスと組み合わせ、リソース監視と管理をシステム・レベルでサポートしながら、要求やリソースの変更に対して迅速に応答できるようにする。この研究の考え方は、ハードウェアの「垂直」スタック全体からアプリケーションにまたがって、組織的な改善を行うこと。目標として、システムが変化に反応、対処できるような機能改善を実現する。
システム・レベルでは、アプリケーションのリソース振る舞いを、自律的に解釈するようなソリューションを構築する。
オンライン・アプリケーションの振る舞いを追跡するために、システム・レベルの監視とミドルウェア・レベルのサポートを組み合わせる。
監視サポートとの組み合わせに基づき、次に、システム・レベルとミドルウェア・レベルとの組み合わせによる「ファイアーウォール」を構築し、望ましくない振る舞いが、対話動作を行うサブシステム間に「漏れる」のを制限する。
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また、コンポーネントや対話動作の適切な振る舞いを保証するミドルウェア・レベルの方法も構築する。複雑なアプリケーションを管理するために、システム・レベル、ネットワーク・レベルのサポートと組み合わせ、また、複雑に分散化した振る舞いを「より良い」ゾーンへと「そっと後押しする」ように、あるいは有利な(より損失の少ない)方向へと直接の変更を行うように、システムを監督するメタ・レベルのプロセスや動作とも組み合わせる。
2番目の研究プロジェクトとして、ポリシーに関するアプリケーションに焦点を当てた、Old Dominion UniversityのMohammed Zubair教授の指導によるものがあります。このプロジェクトの解説によると、Old Dominionプロジェクトに含まれるものは下記のようなものです。
サービス・アグリーメントなど、上位レベルで表現され下位レベル仕様に変換されるようなサポート・ポリシー。無遅延型システムによるポリシーの動的強制。これらをオープン・スタンダードに基づいて行う。・・・こうした上位レベル・ポリシーとしては、IDポリシー(例えば信用情報の発行)やアクセス・コントロール・ポリシー(例えばマルチレベル・セキュリティー、任意アクセス制御、必須アクセス制御、役割ベースのアクセス制御など)、フロー・コントロール・ポリシー(例えばセキュア・ワークフロー、ネットワーク資源制約、ファイアーウォール・ルールなど)、プライバシー・ポリシー(例えば、どんな情報を収集するのか、誰と共有されるのか、など)、知的財産ポリシー、ライセンス・ポリシーなどがある。上位レベル・ポリシーをどのように表現するか、そしてこれらのポリシーを、強制可能な下位レベルのポリシーにどのようにマップするか、といった問題を検証しながら、自己防御のための汎用の手法を探る。・・・特に、複数組織にまたがり動的アクセス・ポリシーを処理する、アクセス管理システム(例えばfederated systemやcoalition systemなど)に焦点を当てる。
3番目にハイライトする研究プロジェクトは、Clemson UniversityのJim Martin教授の指導によるものです。このプロジェクトの解説では、以下のように言っています。
(Webサービスのパフォーマンスを管理するために)Webサービスのパフォーマンス予測、監視が可能なインフラを、システムが提供する。(現在の研究の焦点としては)第1に、予測システムの進化、実装、テストを継続する。第2に、その技術の実際的な使用法やアプリケーションを開発、育成する。
このプロジェクトには、2つの主な動機がある。第1として、アプリケーション・レベルのパフォーマンス予測は、監視、分析、計画、実行という、オートノミック・システムのバックボーンを構成する制御ループの必須コンポーネントであることが挙げられる。例えば自己管理のシステムは、動的なリソース・リクエストがサービス・レベルの目的に合致することを予測できる必要がある。図1は、オートノミック・マネージャーとしてパッケージされたアプリケーション・パフォーマンス予測サービスが、どのように上位レベルのリソース・オートノミック・マネージャーをサポートするかを示す。
図1. オートノミック制御ループでのアプリケーション・パフォーマンス予測の役割(IBM支援によるClemson Universityでの研究プロジェクトの解説より引用)
第2の動機として、これまでのところ、Webサービスのパフォーマンスと予測とを組み合わせるための目立った努力がなされていないことが挙げられる。Webサービスのパフォーマンス管理に対する方法とフレームワーク、つまりWSDM(Web Services Distributed Management)は提案されている。WSDM MOWS(Management of Web Services)仕様は、Webサービスを管理するためのフレームワークを提供する。(我々の研究は)WSDMと相互に補完し合う。
オートノミック・コンピューティングに関する会議
産業界と学術界の両方における、ある話題に関する関心度合いを示す指標として、その話題を取り上げた会議の数があります。オートノミック・コンピューティングに関して言えば、IBMでは、40近い会議やワークショップ、機関紙などがあると認識しています。
これらの中で、オートノミック・コンピューティングに関して最も権威のある会議は、IEEE によるICAC(International Conference on Autonomic Computing)です。ICACは2004年に第1回が開催され、2005年はワシントン州のシアトルで6月に開かれることになっています(参考文献を参照)。ICACでは、オートノミック・コンピューティングのあらゆる面を取り上げ、論文やチュートリアル、デモなどを通して議論を行います。この会議はまだ第2回目ですが、非常に包括的であり、丸1週間に渡って開催されます。
オートノミック・コンピューティングに焦点を当てたワークショップとしては、SAACS(Self-Adaptive and Autonomic Computing Systems Workshop)があります。第3回の年次ワークショップは、2005年8月にデンマークのコペンハーゲンで開催される予定です(参考文献を参照)。
オートノミック・コンピューティングのみに特化してはいませんが、オートノミック・コンピューティングに関する内容を含んだ議論を行う他の会議として、2005 ACM International Conference on Computing Frontiers(2005年5月、イタリア)や、第9回IFIP/IEEE International Symposium on Integrated Network Management(2005年5月、フランス)、そしてIBM Rational Users Conference(2005年5月、ネバダ州ラスベガス)などがあります。これらの会議の詳細については、参考文献の項を見てください。
オートノミック学術コミュニティー
オートノミック・コンピューティングに関して非常に多くの研究や活動が行われていますが、イベントや研究の話題などに関するコミュニケーションと議論のためのWebが、少なくとも1つ立ち上げられています。
autonomic-communication.orgのWebサイトの説明によると、Autonomic Communicationは、「状況(situated、コンテキストを意識する)コミュニケーションやオートノミック・コミュニケーションの領域における研究のための議論や調整を行うためのフォーラムです。」Autonomic CommunicationのWebサイトには、先に触れたものを含めた包括的な会議リストや、オートノミック・コンピューティングに関する出版物リストやニュース、プロジェクトなどが掲載されています。
このリソースは、業界関係者や学術界の人達がオートノミック・コンピューティングに関する研究プロジェクトについて知るために活用できるでしょう。
コンピューター・サイエンスの領域としてのオートノミック・コンピューティング
先ほど、ある話題についての関心度合いを示すものとして、その話題に関する会議やイベントの数があることを述べました。オートノミック・コンピューティングのような話題に対する関心を示す、もう一つの指標として、主要な大学における認知レベルがあります。特に、大学のカリキュラムの中で実際に教えられているとすれば、その話題がコンピューター・サイエンスの一部として主流になっている証と言えるでしょう。
オートノミック・コンピューティングは、コンピューター・サイエンスの領域として完全に広く認知されるには至っていませんが、数多くの研究プロジェクトが進行中であることから、こうした研究を行っている大学で科目として取り上げられる可能性が高いと言えます。
例えば、Clemson Universityでは、Jim Martin教授による学部学生に対する分散プログラミング・コースの科目として、オートノミック・コンピューティングが導入されています。(Clemson UniversityにおけるMartin教授による研究プロジェクトについては、先ほど紹介しました。)さらにMartin教授は、2005年秋学期でのインターネットのパフォーマンス問題に関する大学院レベルのコースで、オートノミック・コンピューティングの原理について教える予定です。(Martin教授によるオートノミック・コンピューティング研究は、パフォーマンス予測のモデル化を扱っていることを思い出してください。)
Cardiff UniversityのWelsh e-Science Centreでも、オートノミック・コンピューティングのコースを設定しています(参考文献)。そのWebサイトによると、このコースはITマネージャーやプログラマー、熱心な技術者などを対象としており、オートノミック・コンピューティングの概要とオートノミック・コンピューティング・システムに関して教えるものです。
今後の予測
水晶の玉を凝視してみても、こうした学術界での動きがオートノミック・コンピューティングの将来にとって何を意味するかは分からないかも知れません。しかし全体として捉えると、つまり何十もの研究プロジェクトや会議、ワークショップがあること、さらにオートノミック・コンピューティング・コミュニティーが始まっていること、大学におけるコンピューター・サイエンスのカリキュラムに採用されつつあることなどを合わせて考えると、オートノミック・コンピューティングの到来が実証されたと言えるでしょう。
オートノミック・コンピューティングに関する研究レベルは今後も向上し、新しい話題に、そしてさらに多くの研究機関に広がって行くことでしょう。この話題に関する技術会議が成功裏に組織できることは既に示されており、こうした会議も今後、より成長し、広がって行くことが期待できます。最後に、複数の大学の学部や大学院の教育プログラムの中で、今後数年のうちに、コンピューター・サイエンスの一領域としてオートノミック・コンピューティングが教えられるようになったとしても、驚くには当たらないでしょう。
まとめ
会社の世界にいる私達としては、業界での出来事の中につかりきってしまいがちです。しかし学術界も、注目すべき領域の一つです。学術界で広範な関心が持たれていることは、産業界におけるオートノミック・コンピューティングについての関心が持続的なものであることの証と言えるでしょう。そうしたことから、学術界でオートノミック・コンピューティングが熱をおびてきていることは、非常に心強いことです。
謝辞
IBMでのオートノミック・コンピューティングのプロジェクト・マネージャーである、私の同僚、Patricia Ragoに感謝いたします。彼女はオートノミック・コンピューティングに関して、大学関係をすべて管理しており、この記事のために情報の提供と、してくれました。またジョージア工科大学のKarsten Schwan教授、Old Dominion UniversityのMohammed Zubair教授、Clemson UniversityのJim Martin教授に対して、IBM後援によるオートノミック・コンピューティング研究プロジェクトに関する概要情報の使用を許可くださったことを感謝いたします。大学におけるオートノミック・コンピューティング研究プロジェクトに関する詳細に関しては、Patricia Ragoにご連絡ください。
参考文献
著者について  | 
|  | Brent A. MillerはIBMのオートノミック・コンピューティング・アーキテクチャー・チームの一員であり、自己修復アーキテクチャー開発のリーダーです。IBMでの勤務は21年にわたり、プリンター開発、モバイル・クライアント、モバイル・ソフトウェア、パーベイシブ・コンピューティングなどに従事してきています。 |
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